第39話 民意の暴走と政治腐敗
状況確認を済ませた富楽はスパニエル領からペンブローク領へと戻り、報告のためにメディナに合う。
「どうでしたか?富楽さん」
富楽は淡々と報告する。
「調べてみたが、予想通りだな。ルプス連邦では民主化を進めている事もあって大衆が政治に関心を持つ人が増えているんだが、その関心の持ち方が問題だな。かえって政治の腐敗を早める事になってしまっている」
ため息を吐くメディナ。
「そうですか・・・。ちなみに本来はどんな風に関心を持つべきなんですか?そしてどの様に間違ってしまっているのですか?」
メディナは確信を持った表情で聞いている。知らないから聞いているという感じではなく、あくまで確認のために聞くといった感じだ。
「そもそも国民が経済政策に関わる利点というのが、生産者や消費者の意見を政治に取り入れる事ができる所だ。経済政策の目的は国家の生産供給能力を高める事と、国民の消費能力を高める事。だから物やサービスを生産供給している労働者当人や、通貨を使う消費者当人の意見が聞きたい訳だ。だが、変に政治に関心を持った奴は生産者や消費者目線の意見を言わなくなる。どうすれば自分達が良い商品を供給出来る様になるのか、どうすれば自分達が積極的にカネを使う様になるのかとかよりも、特定の思想の話だったり、領主や有力者が何を言ったかだったり、誰が何処の派閥かだったりといった自分達の生活から遠い話の方が大切だと勘違いしてしまうんだ」
富楽の説明にメディナはうんうんと頷き続けて聞く。
「なるほど。自分達のしている言論活動が本来やらなきゃいけない経済活動よりも上だと思い込んじゃうんですね。それで国民が生産や消費といった経済活動に関心を持たなくなっちゃうと。じゃあ、そういった政治活動がかえって政治の腐敗を早めているというのは?領主や有力者の活動に関心を持っているのなら、政治の腐敗は止めれる様になると思うんですけど」
言っている事は分からなくもない。大衆が政治に関心を持てば権力者が好き勝手できなくなるだろう、政治の腐敗は抑えられるはずだと考えるのは自然だ。だが事はそう単純ではないのだ。
「それは政治が腐敗しているとどうなるかを考えれば分かりやすい。政治が腐敗していると、必要な所に流れるべきだったカネが変な所に流れる状態になってしまう。そうなると、必要な仕事をしている人達にカネが流れなくなったり、国民に質の良い物やサービスが供給されなくなったりする。だから不正なカネの流れを防ぐ上で、生産や消費の当事者の意見というのはとても重要だ」
そこまで言うと、富楽は簡単な絵を書きながら続けて説明していく。
「例えば、現場の労働者が30万の報酬を得られる前提のカネを政府が支出しているのに、現場の労働者が20万の報酬しか得られていなかった場合。それはどこかで中抜きが発生しているという訳だが、そこで現場の労働者が政府に意見し、政府がそれを無下にできないとなれば、それが中抜きの抑止力になる。例えば、事前に説明した通りの物やサービスが供給されなかった場合、それを買う消費者が政府に意見し、政府がそれを無下にできないとなれば、それが不正の抑止力になる」
メディナは手をポンと叩く。
「そっか。不正が起きているって事は生産者や消費者が正当な利益を得られなくなっているって事だから、生産者や消費者に意見を出させて、それに政府が応えなきゃいけないってなれば、それがおかしなお金の流れを防ぐ役割を果たしてくれるって事なんですね」
メディナの言葉に富楽は頷き、「まぁ、あくまでそれを目標にするって話ではあるがな」と付け加え、話を続ける。
「そして、問題となるのが大衆の政治活動。変に政治に関心を持っている奴は思想や派閥の話に執着する傾向にある。例えば、現場の労働者が30万の報酬を得られる前提のカネを政府が支出しているのに、現場の労働者が20万の報酬しか得られていなかった場合。こういう思想を持った人がトップになれば改善されるんだとか、こういう思想を持っている奴がいるから不正が無くならないんだとか、特定の思想を持っているかどうかで全てを決める様になってしまう。この手の意見が多くなりすぎると、現場で働く人達を助ける事よりも特定の思想を持った人をトップに置く事が優先される様になってしまって、現場で働く人達が後回しにされてしまうんだ」
「熱心な言論活動の声で、生産や消費の現場の声がかき消されちゃうって感じですか?」
「まぁ、そんな感じだな。現場の意見が届きにくくなると、不正なカネの流れの修正が遅れ、不正は横行し、政治の腐敗が加速してしまうって訳だ。被害者が申し出る事が無くなりゃ不正が野放しになるってのは、当然と言えば当然だな」
経済政策の目的は、国民が優れた物やサービスを作れる様にする事と、国民が必要な物やサービスを買える様にする事だ。だから経済政策を進める上で生産と消費を行う当事者の意見が重要になる。だからその現場の意見が蔑ろにされる様であれば、不正の横行は必至。現場の意見の妨げになるものが政治腐敗の原因になるのは当然なのだ。
メディナはうーんと少し考え、富楽に問う。
「今回問題になっているのって、主にディバルさんの支持者なんですよね?じゃあディバルさんが自分の支持者達に活動内容を改めてくださいって伝えるとかじゃあダメなんですか?」
富楽はヤレヤレといったポーズを取りながら返す。
「駄目というか、ディバルさんは既にやっている。自分の支持者達が経済活動を行わなくなる傾向にあることは既に調査済みだからな。ディバルさんも自分の支持者の行動を問題視していて、講演会とかの公の場で説明だってしている。話は聞いてるのに内容を聞いていないから問題なんだよ」
メディナは困惑しつつも聞く。
「それって、どうすりゃいいんですか?」
「これに関しては、やれる事はやってみるとしか言えんな。正義感を拗らせた奴は説明しても聞かないし、自分で学ぼうともしないからな。そういう手合いの相手は骨が折れる。幸い他の民主派領主との関係性は悪くないし、最悪大衆の暴走込みで策を練っていくさ」
民意の暴走というのは非常に厄介だ。カネ目的で動く奴であれば損得勘定で動かせばいいし、説明をしてちゃんと内容を聞いてくれる人であれば話し合えばいい。だが暴走状態の大衆は違う。話をしても自分の納得した話しか聞かないし、なんとなくでよく分からない政策を支持したりもする。不確定要素の塊だ。説得が成功するかは半々といった所だろう。




