第38話 ビルの両親との話
富楽とヴィヴィエット、そしてビルの両親は近くのカフェに行った。コーヒーと軽めのお菓子を頼み、腰を据えて話し始める。
ビルの母親は過去を懐かしむ様に語る。
「うちの息子、ビルは、昔は真面目でとても働き者だったんです。小さい頃から農園の仕事を手伝ってくれて、何も言わなくても率先して働いてくれる。そんな子でした」
ヴィヴィエットは意外そうな顔をしながら聞く。
「へぇ。じゃあ、働くのが嫌だから言い訳のために政治活動をしているとか、そんな感じじゃないって事ですか?」
「はい。始まりはルプス連邦の景気が悪くなって、うちの農園の果物がほとんど売れなくなっていった事でした。私達は働いても稼ぎにならない状態に途方に暮れていたのですが、そんな時にビルは自分が何とかしてみせると言って、飲食店や商店街の人達とかけあって、販路を拡大させて農園を助けてくれたんです。その時は良かったんですが、色んな人との付き合いが増えていくうちに癒着がどうだの不正がどうだのといった話をよくする様になっていって。そこからだんだんと政治への不満や愚痴を漏らす様になってしまって・・・」
ヴィヴィエットとしては、ビルは単なる怠け者で、労働を放棄するために政治活動をしていたと思っていたのだろう。なんか思っていたのとは違うなといった感じだ。
一方富楽は静かに頷き、予想通りといった感じの反応を示す。
「なるほど、変に拗らせちゃったんだな。結構あるんだよな。真面目な奴が政治を学んでおかしくなっちゃう事」
「ビルが政治の話ばかりする様になってしまった、そんな頃でした。富楽さんのペンブローク領での活躍を聞いて、それで火がついてしまったのか、仕事を辞めて政治活動に没頭する様になってしまって。それからはずっとあんな感じで、私達の言う事も聞いてくれなくなってしまったんです」
「うーん。どうしてそんな事になっちゃうんでしょうかねぇ」
ヴィヴィエットは頭を傾げる。
不思議に思うのは無理もない。ビルが支持しているディバルも、ビルが政治活動に没頭するきっけかとなった富楽も、国の産業が重要で国民が労働してくれる事が必要なんだと説明しており、労働を辞めて政治に専念してほしいなんて一切言っていないからだ。支持している人とかがやれと言ってそうなったのなら分からなくもないが、支持をしている人が否定している事を率先してやろうとするのは意味がわからないだろう。
だが、富楽には見当がついている様で、軽快に自身の考えを話していく。
「半端に政治をかじってる奴が良く陥る症状だな。政治について色々と調べていくと、制度のおかしな所だとか変なカネの流れだとかが見えてくる様になる。そこで真面目な性格の奴だと、不正を許さないだの悪党を排除しようだのといった正義感を拗らせた考えに行きついてしまうんだ。だが、正義感に溺れて陰謀めいたものを気にする様になると、政治の本質を見失ってしまう」
ビルの母は疑問を投げる。
「政治の本質?」
「うむ。国家が行う政治、その中の経済政策ってのは、国民に価値ある物やサービスを生産供給してもらい、国民が価値ある物やサービスを買える様にする事が目的となる。国民の生産能力と国民の消費活動を共に成長させていくのが経済成長って訳だな」
「あー、フーさんもよく言ってますもんね。生産と消費が重要だって。でも、不正を許さないっていう考えは経済政策にも必要なんじゃないですか?」
「まぁ確かに、不正を行い利益を得るってのは、基本的に生産者や消費者への還元を削って自分の利益を増やしている訳だからな。経済成長の足かせになるのはそうだ。だが、それで大衆が不正を許さないって風潮になるのも、それはそれで経済政策において問題になるんだ」
「というと?」
自分の息子がその状態になっている事を察してだろう。ビルの母親は神妙な面持ちで聞いた。
「悪党を許さないという考えに固執した人間が行う行動は主に二つ。あいつは裏で悪い事をしているんだとか、本当は情報が隠ぺいされているんだとか、陰謀論めいた事しか言わなくなったり。この人がトップになれば国は良くなるんだとか、この人は国のために尽くす素晴らしい人だとか、特定の人間を英雄の様に過剰に持ち上げる様になったりする」
ビルの父親はフゥーと思いため息を放ち、満を持して口を開く。
「つまり、息子は後者の状態という事ですな」
「そういう事。そしてその二つのケース双方に言える事が一つあって、それがまともに経済活動を行わなくなってしまうって事なんだ。ビルさんのケースで言うと、政治活動のために労働をしなくなって産業に貢献しなくなったり、お金を使って経済を回そうと言っていながら自分は節約を止めなかったりだな。特にディバルはこの人に任せれば大丈夫と持ち上げられているのもあって、支持者は半ば暴走状態だ。政治活動を行っているコミュニティは、自分達が信じたいものを信じ、見たいものを見る様になっている。それこそ自分達が支持するディバルが、産業を守るために労働してくださいと言っていて、それを支持していたとしても自分は頑なに労働者になろうとせず、お金を使って経済を回してくださいと言われて、皆貯金を止めてお金を使おうと呼びかけながらも自分は貯金を止めないという事態が起きている。自分が何もしなくても、この人がトップになれば全て解決すると信じきってしまっているんだ。だから自分がどうすれば良いのかなんて全く考えない。もはや支持しているディバル当人の意見すら聞いていないだろうな」
ビルの両親の反応を見るに覚えがある様子。
今まで散々見てきたのだろう。自分の息子がディバルを応援し、この人がトップになりさえすれば全て解決するんだとか、この人を応援していれば上手くいくんだとかの発言をしている姿を。そして政治活動に熱を入れるのに比例して経済活動を疎かにする姿を。富楽の言っている事はおおよそ当たっていると見ていいだろう。
富楽が一通り説明を終えると、ヴィヴィエットは富楽に願う。
「ねぇフーさん。ビルさんの件、どうにかしてあげられませんか?」
富楽は任せろを言わんばかりに胸をトンと叩き、宣言する。
「俺は元よりその予定だ。民主派を支持する民間の団体は、自分が素晴らしい人を応援しているんだという愉悦に溺れ、相手の話を聞いたり考えるのを放棄し、自分達が支持する領主や有力者の意見すら聞かなくなってしまっている。民主主義で経済政策を進めるのなら、あの手の連中はどうにかした方が良いからな。暴走している民主派の支持団体、その暴走を止めてやろうじゃないか」
自信を持って宣言する富楽を見て、ビルの両親はほんの少しだけ安心した表情を見せた。
そんな二人に向けて富楽は言う。
「もしかしたら民主派の支持団体を説得する際、ビルさんを説得する場面があるかもしれない。そうなったら、お二人にも協力をお願いしたいんだが、良いかな?」
「はい」
「もちろんだ」
ビルの両親はすぐさま同意した。
どうにかしないといけないと考えているものは同じ。その上自分達で解決できなかった問題を富楽は解決しようと言っているのだ。ビルの両親にとっても断る理由はない。
ビルの両親と富楽は連絡先を交換し合い、カフェでの話を終えた。




