第37話 親子の言い争い
集会も終わり、富楽とヴィヴィエットがもう帰ろうかと話していると、集会の会場を出てすぐの所で何やら言い争いをしている人の姿が目に留まる。丁度会場を出てすぐの所だったし、それなりの大声での口喧嘩という事もありとても目立っていた。
一人はスポーツマン的なガッチリした体系の男。歳は30代くらいだろうか、そこそこの歳ではあるが、若々しくもある、丁度働き盛りといった感じ。目力が強く、我が強そうな印象を受ける。
富楽はこの男性に見覚えがある。ついさっき参加していた集会の主催者だ。どうやら集会が終わって出てきた所で、誰かに絡まれた感じみたいだ。
その主催者の男性と言い争っているのは二人の男女、歳は5~60代くらいだろうか、どこか主催者の男性と似ており面影があるし、年齢的にも主催者の男性の両親だと思われる。
「ビル!お願いだから、いい加減こんな事は止めて!」
母親と思われる女性が主催者の男性ビルに懇願した。それに対し、ビルは強気に言葉を返す。
「分かってくれよ母さん。誰かがやらなきゃいけないんだ。誰かが皆が政治に関心を持つ様に促さなきゃあ、ルプス連邦の経済はさらに落ちぶれて、取返しのつかない事になってしまうんだ」
「だからってあなたがやらなくてもいいでしょう?政治の事なら、政治に詳しい人に任せておけばいいの」
「皆がそんなだから、今のルプス連邦は衰退の一途を辿っているんだ。せっかく民主化が進められたのに、国民のほとんどは政治に関心を持っていない。自分達の生活がかかっているのに、自分の頭で考えていない。国民一人一人が考えなきゃいけない事なんだ。だから僕は他人事にせず、皆が政治に関心を持ってもらえる様に活動を続けてるんだよ」
今度は父親と思われる方がしかりつける。
「政治政治って、そんな事言っていないで働け!うちの農園は人手が足りていないんだ。第一、経済の話ってんなら、お前みたいに働かなくなる奴が増える方が問題だろうがよ」
「父さん!僕は労働よりも重要な事をしているんだ!農園で働いてる場合じゃないんだよ!」
「まだ言うか!」
ギャアギャアと言い争う一人と二人。どちらも譲る様子はなく平行線で、同じ様な内容の応酬がしばらく続いた。
そしてしばらく言い合った後、ビルは「もういい!」と言い放ち、「待ちなさい!」という抑止の言葉を振り切り去って行った。ビルの両親はその場に立ち尽くし、うなだれている。
そんな様子を眺めていた富楽は、ビルの両親の元に駆け寄り話しかける。
「随分と話に熱が入っていた様ですが、どうかされましたか?」
ビルの父親はばつが悪そうに答える。
「いやはや、これはお恥ずかしい。うちの息子が政治活動にかまけて家業に手を付けなくなってしまいましてな。なんとか連れ戻そうとしているのですが、まったく言う事を聞いてくれない次第でして。困ったものですよ」
さっきまで強気にしかりつけていた人と同一人物とは思えない程優しく穏やかな表情だ。今の顔の方がしっくりきている感じだし、きっと普段は穏やかな雰囲気の人なのだろう。
「ハッハッハ、意識高い系になっちゃった訳か。若気の至りって奴だな」
今度はビルの母親が口を開く。
「ところで、貴方は?」
突然話しかけてきて何者かと気になったのだろう。富楽の事を聞いてきた。
富楽は胸に手を当て、堂々とした態度で答える。
「俺は笹霧富楽。ペンブローク領の経済顧問、と言えば分かるかな」
富楽は自分がそこそこの有名人になっている事は自覚している。政治に関心がある人であれば、富楽が名を名乗るだけで話しが円滑に進む。だから富楽は積極的に自己紹介をする様にしているのだ。
「そうか、アンタが例の・・・」
ビルの父親の様子を見るに、富楽の事は知ってはいる様だ。しかしあまり良い印象を持ってはいないのか、表情は暗い。ただ怒りだとかの感情は無く、複雑な感情を噛みしめているといった感じだ。
「どうした?俺に何か思う所でもあるのか?」
「いや、アンタが悪い訳じゃないんだ。アンタはペンブローク領の経済の立て直しに成功して、ほんと立派なもんだ。ただ、うちの息子が政治活動に執着する様になったのは、貴方のペンブローク領での活躍がきっかけだったのでね。気を悪くしたのなら申し訳ない」
「そうか、俺に影響されてねぇ・・・。よかったら詳しい話を聞かせてくれないか?もしかしたら貴方達の助けになれるかもしれん」
ビルの両親は突然の提案に少し悩んだものの、自分達では解決できそうにない問題だし、とりあえず話てみるだけならしてみようかと考え、富楽に話してみる事に決めた。




