第35話 信用と思考停止
今回富楽がディバルの講演会に来たのは、ルプス連邦における民主派支持層の空気感を知るためだけではない。今の民主派を支持する民衆について、富楽の意見を聞きたいとディバルに頼まれていたのだ。
講演会を終えた後、富楽はディバルと落ち合い、場所を変え、ゆっくり食事をしながら話し合う事となった。
レストランの個室で富楽とヴィヴィエットはディバルと向かい合う。
モクモクと料理を口に運ぶ富楽に、ディバルは質問を投げかける。
「どうでした?富楽さん。私を支持してくれている人達の様子は」
富楽はため息を放ち、ヤレヤレポーズをしながら言葉を返す。
「見た感じだと、ディバルさんは支持者に信用され過ぎてるな。ありゃあ経済政策が上手くいかん訳だよ」
「フーさん、さっきも言っていましたけど、支持され過ぎていると政策実現が難しくなるってどういう事なんですか?」
ヴィヴィエットは首を傾げながら富楽に問うた。政府が信用さている状態が政策実現の妨げになるという事が腑に落ちない様子。
「まず、経済政策の目的は主に二つ、国民の供給と消費を守り成長させる事。つまり、国民がカネを使える様にする事と、国民が必用な物やサービスを供給できる様にする事。これは分かるな?」
「はい。国民にお金を使ってもらう事でお金が市場に流れる様にして、国民に必要な商品を供給してもらう事で通貨の交換券としての信用を守る。ですよね?フーさん」
ヴィヴィエットはそう言うと、「うーん」と少し考えて、言葉を続ける。
「ということは。ディバルさんを支持している人達ってお金を使ってくれる様になっていないって事ですか?」
富楽はコクリと頷く。
「そうだ。支持者の増加が政策の実現に結びついていないんだよ」
富楽の言葉にディバルは補足する様に溜息混じりに言う。
「私を支持してくれている方々は、皆節約を止めよう、お金を使って経済を回そうと言ってはくれているのですが、全然お金が流れなくて。貯金に回るお金を減らしてお金を流す政策に賛成していても、それを実行してくれていない様なのです」
富楽は皮肉めいた言葉をディバルの語りに割り込ませる。
「しかもだ。国の産業を守らなきゃいけないって言う人は増えてんのに、産業に従事する人はなぜか減っちまってんだよな?ディバルさん」
富楽は講演会に来る前に予め民主派の状況を予習しておいた。
ディバルへの高い支持率、その支持率の割に経済政策は芳しくない。ディバルを支持する多くの人は、景気を良くする政策に賛成しているのに、景気を良くするための行動を取っていないのだ。
「はい、そうなんです。一応、私を支持してくれている方々は、国の産業を守らなければならないと言ってはいるんですけどね。この国を支えているのは現場で働いてくれている人達だ。現場で働く人達を守ろう。現場で働く人達を応援しようとね。しかし、応援する人増えれば増える程、なぜか現場で働いてくれる人達は減り続けているのです」
「えぇ・・・なんでそんな事になるの?」
ヴィヴィエットは困惑の表情。
皆節約を止めてお金を流そうと言うディバルに賛同しているのに、節約を止める人が増えない。国の生産能力を守ろうと言うディバルに賛同しているのに、産業の現場で働く人は減っていく。支持者の増加と反比例に事態が悪化していく現象に理解が追い付いていない様だ。
だが富楽は状況を理解しているのか、余裕のある表情で語っていく。
「支持者がディバルさんを応援した時点で満足しちゃってんだよ。確かにディバルさんは国民が豊かな生活を送るために尽力している。どうすれば経済を立て直せるのか、どうすれば皆が豊かになるのか、そういった事を学び、国民に説明し、政策を実現させるための努力を続けている。だけどディバルさんを支持している人達は、そんなディバルさんを応援していれば国は良くなるんだと政治を丸投げしてしまったんだ。だから自分が政策の協力をしようって人が全然増えない。自分は貯金を止めないけど、皆が貯金を止めるための政策を応援します。自分は現場で働かないけど、現場で働く人を増やす政策を応援します。そんな、何の協力もしないけど応援はしますって人が増え続けていると言えば、分かるかな?」
ヴィヴィエットは手のひらで口を押えてドン引きポーズ。
「うわぁ・・・支持者が増えても、協力者が増えるどころか減ってるって事なんですね」
「人柄が評価されている人がトップになったりするとよく起こる事だな。この人がトップになれば国は良くなるんだと大衆が考えてしまうせいで、国民自らがやらなきゃいけない事に考えが向かなくなってしまう。国民が貯金を止めないと成功しないのに、どうすれば貯金を止めれるのか政府が考えてくださいなんて言われても、貯金している当人じゃないんだから政府に丸投げされてもどうしようもないし、国民の生産活動を守らなければならないのに、どうすれば必要な物やサービスを作れる様になるのか政府に丸投げされても、生産している当人じゃないんだから良い政策が出せる訳が無い。政策を実行しなきゃいけない当人が思考停止して丸投げしてちゃあ、経済政策が失敗するのも当然だわな」
ディバルはハァとため息を漏らすと、これまで抱いてきた不満と、富楽への願いを吐露する。
「支持者の皆さんは、私の言葉を聞いてくれているのに、私の話は全く聞いてくれない。私の政策に賛成しているのに、私の政策に協力するどころか妨害までしてくるのです。笹霧富楽さん。ペンブローク領の経済顧問としてお忙しい中、頼むのは心苦しい事なのですが、国民に政策が伝わらず、国民が政策に協力できないこの問題に対応しては頂けないでしょうか?」
「良いぜ。任せとけ」
富楽はディバルにサムズアップを向け、自分が問題を解決してみせるという意思表示をしてみせた。




