第34話 ディバルの講演会
サルーキ領でのあれこれが終わってしばらく経ち、民主派領主と復権派領主の交渉の立ち合いも一段落つき、富楽がある程度自由な時間が取れる様になった頃。
富楽はスパニエル領で行われるディバルの講演会に来ていた。
今回の目的は世論調査。民主派を支持する人達がどんな人達なのかを確かめるためにここに来た。
普通であればアンケートでも取って調べるのだろうが、今回知りたいのはその場の空気感。いわゆる雰囲気だ。それをその場に来て確かめに来たのだ。
1000人は入るであろう規模の会場。席は満席でディバルの人気の高さが見て取れる。大量の期待の眼差し、ディバルはそれに臆さず向かい合っていた。
「相変わらず凄い人気ですよね、ディバルさん」
ディバルが初めの挨拶をしている中、富楽の隣に座っているヴィヴィエットがヒソヒソと耳打ちした。
富楽はキョロキョロと来客の反応を見回しながら答える。
「ディバルさんは民主派の領主の中で一番人気の人だからな。最近の民主派はグダグダでパッとしない感じだけど、ディバルさんだけは高い人気を保持し続けている。ぶっちゃけ、彼の人気が今の民主派を支えていると言っても過言じゃない」
始まりの挨拶を終え、ディバルは自分の思想を語り出す。
「私は国家のいしずえとは国民だと考えています。国民が働いてくれているからこそ、我々ルプス連邦の国民は豊かな生活を送る事ができるのだと。国民が食糧を供給してくれるからこそ、我々は飢えずに済む。国民が工事をしてくれるからこそ、我々は雨風に晒されずに済む。国民が作り出し供給する産業があるからこそ、我々の生活は成り立っているのだ。だからこそ、国家を守り成長させるためには、国民の権利を守り、国民と共に政治を変えていくべきだと私は思う。世間では、労働者なんて他所の国から安い労働力を集めれば良いなんて言う人も居ますが、そんな事を進めてしまうと、今ある技術が継承される事なく失われ、我が国は何も作れない国になってしまい、今までの当たり前の生活すら送れなくなってしまう事でしょう。産業を担ってくれている国民の声を聞き、国民を豊かにする政策を進める事こそがルプス連邦の経済を再生させる政策となるのです。皆さん。民主化が進められたこの国の主役は貴方方国民です。共に協力し、ルプス連邦の皆が豊かになるための政策を進めましょう」
自分の思いを語ったディバルに大量の拍手が浴びせられる。
この人になら任せられる。この人がトップに立っていて欲しい。口には出していないものの、人々のそういった思いが拍手に込められていた。
拍手が収まると、今度は政策についての話に切り替えていく。
「今のルプス連邦は、需要不足により国家を支える産業が失われつつある状態です。貯金の増加によりその分の通貨が停滞する様になり、それにより国の産業に通貨が流れなくなっており、それが現場の労働者の減少にまで繋がってしまっています。今のルプス連邦には皆がお金を使える様にするための政策が必用。そこで、私は社会保障強化によって貯金が無くても安心できる社会を作っていく方針を進めようと考えています。これはペンブローク領でも実施されていて成功例もあり、私自身その政策について十分に学んできました。その政策を進めれば皆が安心してお金を使える社会になると私は確信しております」
ディバルが政策の大まかな方針について話すと、再び拍手喝采。
その後は、どういった時にどの程度の支援を用意するのか、ペンブローク領でどんな政策が進められどんな成果を出せているのかといった詳細を説明していき、政策の話が終わると、そのまま終わりの挨拶にへ繋げ、講演会の幕を下ろした。
講演会に来ていた人達はその場の席に座ったまま、終わりの余韻に浸りながら各々話しをしている。「やはりディバルさんは素晴らしい人だ」「この人が民主派を率いてくれるなら安心できる」「やはり民主派を応援するのが正解だな」と、ディバルを賞賛する声がそこかしこから聞こえてくる。
そんな様子を見た富楽は深いため息をし、ヴィヴィエットと共に会場のホールを後にした。
会場から出た富楽は率直な感想を述べる。
「ありゃあダメだな。あれじゃあ成功せんだろう」
富楽の無情なダメ出し。それに対し、ヴィヴィエットは意外そうな声を上げる。
「え?ディバルさんの言っている事って間違っていんですか?ペンブローク領で上手くいっている事だから、てっきり正しい方針なのかと・・・」
「いや、正しいには正しいぞ?ディバルさんの言っている通りの事を進める事ができれば、景気を良くしていく事も出来るだろうさ」
「だったら何で?」
ヴィヴィエットは首を傾げる。正しい政策を進めようとしている人が絶大な支持を得ているのに、それが上手くいかないとは、何故なんだ?といった感じ。
富楽はヤレヤレポーズをしながら教える。
「国民が政策に協力しないからだよ。例えば、今回ディバルは貯金を止めてもらってカネを流す方針を伝えたよな?」
ヴィヴィエットは頷き答える。
「はい」
「それに賛成している人ってのは、節約や貯金を止めようとはしないんだよ。以前からディバルさんは出来るだけ国民にカネを使ってくれる様に領民に言っていて、領民もそれに賛成はしているんだ。皆節約を辞めよう貯金を止めて景気を良くしようと言ってはいるんだけど、他人に言うだけで自分は全く実行しようとしていない。完全に他人事。やらなきゃいけないのは自分だと思ってすらいないのさ」
「うーん。でも、ディバルさんは領民の過半数が支持してくれているんですよ?今回の様にディバルさんの話も聞いているんですよ?その支持者皆が支持している領主の政策に協力する気がないないって事、あるんですか?」
富楽は実感混じりの声で答える。
「残念ながら、よく起きてしまう事なんだ、これが。いいかい?政策に賛成する事と、政策に協力する事は全くの別物だ。それこそ政策に賛成しているのに政策の妨害をしてしまうというのはよく起きてしまう事なんだよ。困った事にね。これからディバルさんの所に行って話すから、その時になぜそうなるのか、詳しく説明しよう」




