第33話 ひとまず決着サルーキ領
復権派との交渉は終わり、富楽はメディナの屋敷へと戻り、メディナとオルドルに報告を済ませた。
「ひとまずは、一件落着といった所ですね」
「ですね。これだけ多くの領主が協力してくれるのなら、近い内にサルーキ領の立て直しもできるかと思います」
メディナとオルドルは胸をなでおろす。
とりあえずサルーキ領の再生案はまとまり、サルーキ領に住む人達が救われる目途が立ち、メディナもオルドルも一安心と言った所。あれこれあったけど、これでサルーキ領の件は決着と言って良いだろう。
オルドルは富楽に頭を下げ、礼を言う。
「富楽さん、この度はどうも有難うございました。お陰でサルーキ領の経済も立て直す事ができそうです」
「いやいや、今回俺は大した事は出来てねぇよ。復権派が先んじて手をうってたからそれに乗っかっただけだ。俺が何もしなくても、復権派の連中ならサルーキ領の立て直しだって実現できただろうさ」
今回サルーキ領の立て直しに尽力したのは復権派の領主達だ。富楽も自分の成果だったら、自信満々にどうだ凄いだろうとでも言っていたが、他人が既にやっていた事に乗っかっただけのものを自分の成果とはとても言えない。
しかし、オルドルとメディナはそれを謙遜と受け取った様だ。
「そうだとしても。民主派と復権派との対立をにサルーキ領を巻き込まない様にした上、民主派の協力まで取り付けてくれたのですから。十分にやってくれてますよ」
「そうですよ。富楽さんが民主派と復権派の間を取り持ってくれたおかげで、ペンブローク領もサルーキ領の立て直しにちゃんと協力出来る様になったんですから」
まぁ感謝されて悪い気もしないし、民主派の妨害を抑え込んだのは事実だ。富楽はフッと笑い「まぁな」と自負の声を放つ。
そして富楽はこれからの話に話題を切り替える。
「そうそう、オルドルさん。今回の件で、サルーキ領に民主派寄りの有力者を立てるって話になったじゃないですか」
「はい」
「その有力者の一人になって欲しい」
「え?私がですか?」
突然の指名にオルドルは驚きの声を上げた。
オルドルはその意図について少し考え、言葉を返す。
「私の事を考えてくれるのは嬉しいのですが、気を遣ってくれなくてもいいですよ。私はサルーキ領が救われるならそれだけでいいのです」
「別に情にほだされて提案している訳じゃない。オルドルさんは過去有力者だった経験もあるし、これまで既存産業を守るために活動をしてきた事もあって産業従事者との太いパイプもある。現場で働いている人達との信頼関係が築けているというのは、産業を立て直すうえでとても重要なもんだからな。民主派寄りの有力者としてサルーキ領に居てもらう人で、オルドルさん以上は居ないと俺は考えているよ」
オルドルは再び少し考え、言葉を返す。
「分かりました。ではその提案、私が責任を持って承ります」
オルドルは笑みを浮かべている。
自分がサルーキ領に必要だと言われている。自分がやってきた事がこれからに生きるのだと言われている。それが嬉しい。そんな思いが表情に現れている。
そのやる気の様子を見て富楽も微笑んだ。
「じゃあ、経済政策を進める際の心構えをざっくりと教えておこうか」
オルドルは頷き答える。
「はい。お願いします」
「経済の基本は供給能力。必要とされる物やサービスが生産供給され、それが貨幣と交換できるからこそ、貨幣の交換券としての機能が守られ、貨幣経済は成り立っている。だから経済を守るというのは供給能力を守ると考えて良い。そして、その供給能力を支えているのが、資源、人材、設備の三つ。どれだけ文明が発展しようとも、そこは変わらん。環境を守る事で資源を守り、労働者にカネを流して人材を守り、設備に投資して設備を更新強化していく。それが経済政策の目標だ。そして政治を行う政府側がやるべき事は、物やサービスを作ってくれている人達が得をする様に、制度を変えたりカネを流したりして、現場で働く人達のサポートをする事だ」
富楽の説明にオルドルはうんうんと頷き理解した様子を見せた。
「という事は、サルーキ領の例で言うと、環境が破壊されて資源が失われているから、環境保全に従事する人を増やして環境を再生させる。仕事そのものが無くなって職にありつける人が減っているから、まともな仕事を増やして皆が仕事に就ける様にする。景気悪化によって既存産業の存続が危ぶまれているから、既存産業を支援して存続できる様にする。といった感じですか?」
富楽はサムズアップを向けてオルドルに応える。
「そこまで分かっているのなら上出来だ。頼んだぜ、オルドルさん」
「きっとオルドルさんならやれますよ。応援してます」
「はい」
メディナはオルドルにエールを送り、オルドルはそれに応える様に返事をした。
これにてサルーキ領の問題はとりあえずの解決を迎えた。
産業が失われ、雇用が不足しているサルーキ領。その雇用不足を工場の誘致により製造業を強化する事で対応。同時に環境保護に投資する事で環境破壊による産業の喪失を防ぐ。
領主は復権派寄りの人物が就き、領主に意見できる有力者に民主派の人物を置く事で、サルーキ領の立て直しのために復権派と民主派が共に協力する形を作った。
それでも多少は民主派と復権派での対立は続くだろうが、形だけでも協力し合う状態になれば、対立も少しはマシになるだろう。
そしてルプス連邦における民主主義の課題も露わになった。
この国の民主主義は不完全で粗が多い。そのせいで、あくどい人間がそんな不完全な民主主義を利用して不当な利益を得ている。そんな惨状を修正するために、復権派が活動しているという状態だ。
この国で民主主義を守ろうとする民主派の事を考えるのならば、復権派と戦うのではなく、民主主義の問題点を修正する方向性で考えていくべきだろう。
真に倒すべき相手は民主主義の中にある。
民主主義を終わらせようとしている復権派と対峙すべく、これから富楽は民主主義が抱える経済的な問題に向き合う事になるだろう。




