第32話 復権派
民主派領主の説得を終えてしばらく時は経ち、富楽はサルーキ領の改善案を説明すべく、シュナウザー領のアルダートの元へ来ていた。
シュナウザー領にあるとある会議場。サルーキ領の支援策をどうするかを決めるため、複数の復権派の領主達が集まっていた。
元はガルザックが修正案を話す場らしいのだが、ガルザックが話を通してくれたため、ここは富楽が修正案を発表する場となっていた。
富楽は領主達に資料を配り、それを見せ、皆が一通り資料に目を通したのを見計らってから、その場の者達に聞く。
「如何かな?復権派の皆様」
資料に目を通した復権派の面々は、各々話していく。
「ほほう。やるもんじゃのう。ただ民主派を止めるだけではなく、民主派からの支援にまで繋げるとは」
「なるほど。民主派の有力者を増やす代わりに協力を取り付けたか」
「良いのではないですか?支援の追加が見込めるのなら、以前諦めていた職業訓練の件も実現できるのでは?」
「そうだな。以前までは十分な供給能力を確保できず、仕事を用意するまでの予定だったが、これならば教育段階の支援も念頭に入れる事もできそうだ」
印象は良い。復権派の領主達は富楽の策を進める事前提の話をしてくれている。
続いて領主達は富楽に質問を投げかける。
「この規模の支援であれば、ペンブローク領でやった様に、社会保障の強化も可能ではありませんか?」
一人の領主の質問に富楽は答える。
「できなくもないが、今はまだやらない方が良いだろう。社会保障を約束しておいてやっぱり出来ませんでしたなんて事になったら、国民の失望に繋がって不安が増す結果になる。安心させるための社会保障なのに不安を与えては本末転倒。社会保障を強化するとしたら、経済を安定させて十分な供給能力が確保できてからだな」
「新規の産業以外にも既存の産業の維持や環境の改善にも人を回すとの事ですが、そうすると人手が不足するのではないですか?」
また一人の領主の質問に富楽は答える。
「人手不足どころか、むしろ雇用は足りていない。それ程までにサルーキ領における産業の崩壊は深刻な状態なんだ。人材に関しては工業へ流す事を優先するんで、人材が取られて工場が機能しないなんて事にはしないのでご安心を」
「民主派も支援に協力するとなれば、復権派だけがサルーキ領の経済再生の恩恵を受ける訳にはいくまい。何か考えてあるのかね?」
またまた一人の領主の質問に富楽は答える。
「もちろん販路の拡大のために事前に話は通してある。支援の拡大によって産業の規模も大きくなるからな。当然だ」
円滑に話が進んでいく。自分達の派閥がどうのこうのと言い合っていた民主派の連中とは全く違う。皆責任のある指導者の顔をし、冷静に物事を見てくれている。
サルーキ領の経済を立て直すために何が必要か、自分達は何が出来るのか、何をすべきで何をすべきではないのかを話し合っていく。会話に淀みがない。
「では、サルーキ領の再生案は、今笹霧富楽が提出したこの案を微調整をしつつ進めるという事で、宜しいかな諸君」
アルダートの言葉に、その場に居る領主達は「異議なし」「了解」等と賛同の言葉を並べていく。実に聞き分けが良い。それがサルーキ領の再生に繋がるか、実現が可能かどうかを考え、即座に決断している。
アルダートは澄ました顔で告げる。
「では、決定という事で。ご苦労だったな笹霧富楽よ。民主派連中の相手は大変だったろう?」
アルダートはクスクスと笑っている。
民主派の体たらくは見なくても分かると言わんばかりだ。恐らくアルダート自身も何度も話し合って嫌な経験をしてきたのだろう。
富楽はヤレヤレといった風のポーズを取りながら言う。
「まぁな。民主派ってのは名ばかりで、自分達の事ばかり。国民の事じゃなく、派閥や民主主義というシステムを守ろうしている感じだった」
富楽の呆れている様子を見てアルダートは語り出す。
「全く困ったものだよ。民主化が進められてからというもの、民間の企業が己の都合の良い様に制度を作り変えるべく政府に働きかける様になったり、政府の人間が自身のカネ稼ぎのために民間の団体と繋がって、自分の所にカネが流れる様に制度を作り変えたり、変な所にカネが流れる事が増えてしまった。民主化を進めたところで、不当なカネの流れに民間が加担する様になっただけだったのだ。制度が変えられて政治が無茶苦茶になっても、政府側の連中は民主化したのだから国民が悪いと言い張り責任から逃れようとするし、国民側は制度や政策の内容が分からないから、政府が悪いと感情的に騒ぐだけで制度の話を全くしない。ルプス連邦では国民の不満が制度を変える事に繋がっていない。民主化が不正を犯す者を増やす事にしかなっていないのだ。実に嘆かわしい」
アルダートの語りに、富楽は補足する様に話していく。
「典型的な民主主義の腐敗だな。民主主義ってのは国民の大半が制度や政策を理解し、国民全員が政治に関われる状態を作って初めて機能するもんだ。国民に制度や政策について伝えれてないのなら、制度を悪用する奴が幅を利かせる事になる。制度や政策についてまともに伝えれてもいないのに、民主主義です政策の失敗は国民の責任ですなんてやってたら、まぁ腐敗の温床になるわな」
「笹霧富楽。やはりこちらに、復権派に付かないか?」
民主主義の問題点についてスラスラと語った富楽。そんな富楽を見てアルダートは富楽の必要性を改めて確信した。アルダートは再び勧誘を試みる。
「君は民主主義の問題も理解しているし、その問題を解決しようともしている。君は民主派よりも復権派に居るべき人だ。見ての通り、復権派は国民をないがしろにし、権力者が好き勝手やるための派閥ではない。ここに居る者達は民主主義の問題を修正するために集まっているのだ。民主主義の理想を実現するにしても、我々復権派と共に領主の権力を取り戻した後でからの方が早いとは思わんか?」
「前にも言ったろ?俺は民主派でやっていく。民主派の中から、民主主義の問題を修正していくつもりだ。民主派の中から国民と権力者の意識を変えてみせるよ」
富楽の拒絶に、アルダートはハァと軽いため息を吐く。
「わかった。これ以上の勧誘はせん。思想は違えど、民主主義の問題を修正しようという考えは同じ。お互いに頑張ろうじゃないか」
その言葉と共にこの場での話し合いは終わりとなった。
腐敗した民主派を正し、民主主義の問題点を修正しようとする笹霧富楽。自国に民主主義はまだ早いからと民主化を止めようとするアルダート率いる復権派。同じ問題を解決しようと考える二者は、思想の違いから別々の道を歩んでいく。




