第31話 政府の不正について
民主派領主達との会談も終わり、解散した後。メディナと富楽は別室で語り合う。
「ねぇ富楽さん。さっきあの三人に見せた資料って何なんですか?なんだか相当焦っていたみたいですけど」
「あぁあれ?ウィペット領、ホンディエ領、ファンドランド領、それぞれの領での異常なカネの流れを記録したデータと、それによる不正の証拠をいくつかな。あの領主連中、不正にガッツリ関わっていたからそれがバレてて、証拠まで揃えられてるって分かって、あいつらも相当焦っただろうよ」
メディナは驚きのリアクション。
「え!あの人達不正にお金をかき集めてたんですか!っていうか、いつのまにそんな情報を!?」
富楽は「ふふん」と自慢げに語る。
「国全体の経済状況を把握する時のついでにな。誰かが出したカネと誰かが受け取ったカネの合計は必ず一致する。だから使われた通貨の量と現場に届いた通貨の量を見比べれば、カネの流れがおかしくなっているのは分かる。カネの流れがおかしい所に当たりをつけて、調査をすれば不正も露わになっていくって訳さ。不正っていっても、結局カネを自分の所に流す様にするって話だからな。ま、俺にかかれば余裕だな」
「だったら富楽さん!早く止めさせないと!領民のためのお金を勝手に自分の物にするなんて、許せません!」
メディナの正義感に火が付いている。自分もそういったものに利用されてきたからだろう、許せないという気持ちが溢れ出てしまった様だ。
だが、富楽はそれをたしなめる。
「あのねメディナさん。前にも言ったけど、政治というのは悪党を倒せば良いというものではない。そこに住まう人達の生活を守る事こそが本質だ。悪を倒す事を目的にしてしまうと、本来の目的を見失う事になっちまう」
メディナは腑に落ちないのかふてくされた表情。
「でも、不正を正せば、結果的に国民も幸せになるのではないですか?」
「その考え方が問題なのさ。自分が悪と戦っているんだ、自分は正義の行いをしているんだというオゴりが目を曇らせる。助けるべき人から目を逸らさせ、自分の意見に賛同しない者を悪だと断ずる様になる」
富楽の実体験混じりの説教。けれどメディナは、国民のために不正を放置する状況がいまいちピンとこない様子。
「うーん。そういうものなんでしょうか」
「そうだねぇ。例えば、もし今回の件で不正を暴いていったとすると、その領の行政は混乱し、荒れに荒れる事になるだろう。そして、その混乱で最も苦しむ事になるのは弱い立場の領民達だ。あの三つの領主、不正に関わってこそいたものの、領民を貧困に陥らせてはいない。あの不正は許容範囲なんだ。だがここで不正を暴き、領を混乱させてしまうと、今まで貧しくなかった者が貧しくなる事になる。そういった事は考えたか?」
「あ・・・」
メディナは察した。
富楽は追撃する様に言葉を続ける。
「さらに言うと。不正を無くすって話になると、不正が起きない様にチェックを強化する事になるんだが、そのチェックをするのはどんな人達だ?」
「それは、現場で働く人達やそれを管理する人達、後は役所の職員とか・・・。あー・・・」
「不正を無くそうとすると、どうしてもそこに働く人達のリソースを割かなきゃいけなくなる。つまり、働く人達の負担を増やしてしまう事になる訳だ。不正が起きない様にチェックを徹底させますというと聞こえはいいが、その実現場への負担を増やしてしまって、かえって現場の労働者を苦しめる事になりかねない。不正を正すのはあくまで働く人達のモチベーションを保つため、働く人達の負担を増やす様なら、不正を放置するのも選択肢として考えなきゃならんのさ」
メディナは「うーん」と唸り悩ましい表情を浮かべる。
「やっぱり難しいものですね。国民の事を第一にって、分かってはいても、つい悪者を倒せば全て解決するんだみたいな考えになっちゃいます」
富楽は声をやさしい声色に変えて告げる。
「メディナさん。人の上に立つ立場であれば、これからも悪人を倒そうとしたら民が苦しむ事になるなんて場面に出会う事があるだろう。そんな時は必ず民を選ばなきゃいかん。悪を倒すのは、民を救うついででなきゃだめなんだ。倒すべき悪を見るな。救うべき民を見るんだ。分かったね」
「はい、富楽さん」
メディナは元気の良い返事を返す。
最近メディナは色んな事を学んでいき、ある程度の経済政策を理解できる様にはなってきた。後は独学でもやっていけるだろうという安心感がある。精神的にも強くなって領主としての頼りがいも出てきた。だが、まだ若い事もあって未熟。一人前になるまで後もう一歩といった所か。




