第3話 自国通貨建て国債
「良かったら教えてくれないか?この国の経済の話を」
富楽の提案に対し、3人はアイコンタクトを交わしそれぞれ頷くと、ジェーツが代表して話始める。
「我が国ルプス連邦は、かつては工業化を進める事による生産性の向上によって大いに栄えていました。しかし、ある日のラジオ放送で我が国には多額の借金があるという事が話題に上がり、それ以降我が国は如何にして借金を返していくのかという方針で政策が進められて行きました。増税と政府支出の削減、それによって景気は見る見る内に悪化、景気は悪化しているのにも関わらず借金が減る事はなく、さらなる緊縮財政が検討されている状態でして」
「その借金ってのはどんな借金だ?どこの誰にカネを借りている?」
「えっと、たしか国民の皆様から借りているとか言われていましたが・・・」
そこで富楽は勘づいた。国民からの負債を政府が負っている、この構造には覚えがある。
富楽はその直感を確信に変えるため、もう一つ質問を投げかける。
「この国の通貨は政府が発行しているのか?」
「あ、はい。政府が紙幣を発行し流通させ、我々はそれを使っています」
政府が通貨を発行しているのに、何故か国民から通貨を借りている事になっている。ここまで分かれば十分だ。
「そりゃあ自国通貨建て国債だな。それ、負債ではあるけど借金じゃねーよ」
「「「え?」」」
富楽の言葉によってその場が固まる。
どうやら自国通貨建ての負債と外国からカネを借りた場合の負債の違いを理解していなかった様だ。
不思議そうにメディナが問う。
「負債なのに借金じゃない?どういう事なんですか?富楽さん」
「自国通貨建て国債というのは通貨の発行履歴、自国通貨建て国債が増えているって事は、それだけ自国通貨を発行して増やしていますよって意味だ。国民が持っている通貨そのものが債権で、政府がその負債を負っているという形になる。だから政府に負債があり、国民に債権があるって話になるのさ。つまりだ、自国通貨建て国債が増え続けているっていうのは国民の持つ通貨の量が増え続けているって話になる」
富楽が自国通貨建て国債について説明するが、メディナは腑に落ちない様子。
「うーん、でもお金が増えてるだけなら、これ以上増やしちゃいけないなんて話にならないと思うんですけど」
「いや、通貨は無制限に増やせる訳じゃない。そもそも、通貨の信用というのはそれと必要な物を交換できるからこそ成り立っている。だから交換できる品が足りないって話になると、これ以上通貨を増やしちゃいけないって話になるんだが・・・」
ここで富楽は話を止めて少し考え、再び話始める。
「そう言えばこの国の通貨って何を信用の裏付けにしてるんだ?」
今度はリアが答える。
「えっと確か、それと同価値の金と交換できると習いました」
「なるほど、金本位制か。ならこれ以上通貨を増やす事は出来ないという話は、金の保有量に対して通貨の量が多くなりすぎているという事だろう。ひょっとして、この国では貯金で備えるのが当たり前になっているんじゃないか?」
「はい、確かに。我が国では多くの国民が将来のために貯金で備えるのが常識になっています」
富楽は頷き納得した様子を見せ、結論を伝える。
「うむ、大体は把握した。この国ではかつての経済成長によって大量の通貨が国民の元に行きわたった。そこまでなら問題はなかったが、多くの国民は手に入った通貨を消費せず、貯金に回す事で大量の通貨が停滞する事になり、国内の通貨総量が金の保有量に対して過剰に増えてしまう事になった。そこで通貨の総量を減らすため、政府支出の削減により通貨の供給量を減らし、増税による通貨の回収量を増やそうとしたが、国民が将来のために貯金をしなきゃいけない状態がそのままなんで、国民は貯金を止める事ができなかった。国民は消費を減らして貯金に回す通貨を増やし、消費を減らしていった事で景気は悪化し、景気悪化で将来の不安は増し、国民の貯金意欲は上がってしまい、結局政府の負債は減らないままとなってしまった。この国の政府の負債の増加と緊縮財政で負債が減らなかった理由は、まぁこんなところかな」
富楽の説明に3人は感心の表情。
富楽は別の世界に来てすぐだというのに、話を聞いただけで現状を把握してしまったのだ。もちろん富楽がいい加減な事を言っている可能性もあるが、言い当てている所はあるし、胡散臭いオカルトではあるが、経済を救うために呼び寄せた存在という事もあり、どこか期待したくなる様な説得力がある。
メディナは自分が呼び出した存在は本当にこの国を救ってくれるかもしれないと期待に胸を膨らませる。
「では、解決のためにはどんな政策が必要なんでしょうか」
それと聞くと富楽は額をトントンと叩き少し考え、現状伝えれる事を話していく。
「本格的にやるとすれば、現場の話を聞いたりして産業の現場の状況を把握しなきゃいかんが。まぁ政府の負債が減らないのは国民が貯金を減らせないという問題だから、やるべきは国民が持つ将来の不安を解消してやる事だな。将来の金銭的な不安が解消されれば、国民は勝手に貯金に回すカネを減らし、その分だけ政府の負債は減っていくからな」
「ほうほう」
メディナは理解した様子だ。
「それと国民に自分達の貯金と政府の負債が繋がっている事を伝え、国民自身に自分達が貯金をしなくなれば成功である事を理解してもらう事。いくら貯金をしなくても安心できる様な制度を用意したとしても、国民が貯金を止めなかったら政府の負債は減らないからな。こればっかりは国民自身に知ってもらわんとどうしようもない」
一通り説明を終えると、富楽は一息つき、如何かな?と言わんばかりに両手を広げ、この場の三人に提案する。
「ま、こんな所だな。この問題であれば解決する自信はある。だが、俺は別の世界から来たばかりの完全な部外者。信用出来ないのならそれは仕方ないし、部外者に頼るべきではないという意見が出てもそれは当然の事だ。俺は経済を立て直すのに協力するのもやぶさかじゃないが、どうする?」
リアとジェーツは悩んでおり少し不安そうだが、メディナは目を輝かせている。
スラスラとテンポの良い説明、目は自信と確信に満ちており、異世界から来たという特別感もある、ちょろくて単純な性格をしているのもあるのだろうが、メディナはすっかり富楽を信用している様だ。
メディナは前のめりになり富楽に顔を近づけ、リアやジェーツの意見を待たずに結論を出す。
「お願いします!富楽さん!!」
こうして富楽は、成り行きで異世界の経済を救う事となったのだった。