第28話 自立を促すための支援策
「まず、労働者に損をさせずに人件費を下げる策だが、これは労働の報酬をある程度物やサービスの直接支給に置き換える事での実現を考えている。現金での支給を抑え、代わりに現物での支給で報酬を得られる様にして、雇う側が労働者に渡さなければならない金を減らすって方法だ」
それを聞くと、メディナは自分の気付きを話す。
「あー。それって、富楽さんがペンブローク領でやっていた、社会保障強化でお金を必要とする理由そのものを無くす戦略みたいな感じですか?」
メディナも富楽と活動してきて大分分かってきた様だ。進めようとしている策がどういうものなのか察するのも早い。
「おう。それの現物支給版だな。労働者への報酬をある程度の現物で支払う事で、雇う側の金銭的な負担を減らす。サルーキ領は供給能力が壊滅しているから、現金での支給よりも、現物での支給の方が必要な物が行き届きやすいだろうしな」
自身を持って説明する富楽だが、ガルザックはそれでは不足だと言わんばかりに返す。
「ふむ。しかしその分のカネはどうする?現物支給をするにしても、それを買うカネが必要。じゃから現物支給にしたからとて、金銭的な負担が減るとは思えんがのう」
しかし富楽はこの反論を予想していた様子。
「カネを渡さなければならない事を問題視しているのなら、そこは問題ない。現物支給の良い所は、カネを流す対象を支援する側が決めれる所だ。だから必要な物を自身の領内で製造してその物資を支援として渡したり、インフラの整備を自身の領内の企業に頼んだりすれば、支援のために出したカネは領内に留まり、自身の領内の経済を回す事になる」
「なるほど。現金支給じゃとサルーキ領にカネを渡さんといかんが、現物支給じゃとワシらの領内にカネが流れる。ワシらの所のカネが足りなくなるなんて事にならん、という事じゃな。それに、こちらは売れなくて余ってしまっている品を売りつける事もできると」
ガルザックも察しが良い。さすがの年季を感じる。
「現物支給の良い所はそこだな。支援のために出したカネが外へ行かず、自分達の元へ返ってくる。カネを出しても領全体としてみれば全くカネを出さなくて良い。だから、領全体としてみれば金銭的な損はない。デフレで困っているのなら、むしろ客不足が解消されて良いまである」
富楽とガルザックが話している中、オルドルは不安な様子で話しに入り込む。
「ちょっと待ってください。それだと必要な物を他所から受け取ってばかりで、サルーキ領の自立に繋がらないのではないですか?」
「まぁ必要な物を受け取るばかりだと自立は出来ない。返せない債務によって他所の言いなりになってしまうだろう。そこで、そうならない様に現物支給の内容を工夫して自立に繋げる。領内の供給能力が無い内は他所からの支給に頼り、領内で生産できる様になれば現物支給を領内の生産物に変えていく。現金だと相手が欲する物を用意しないといけないが、現物支給は言ってしまえば、買って欲しい物を買わせる事ができる仕組みだからな」
富楽の話にメディナは納得した様子で言う。
「ふむふむ。現物支給の内容を自分達で生産した物に変えていく事で自然に自分達に必要な物を自分達で作っている状態にしていくって感じですね」
「サルーキ領の様に必要な物を作る能力がが失われた場合、どうしても他所から借りを作って必要な物を買わなきゃいけなくなる。だけど他所から買えばいいなんて事を続けてしまうと、属国化が進んで自立できない様になってしまう。だから、必ず他所の物が流通する状態から、自分達で作った物が流通する状態に移行していく必要があるんだ。その移行を現物支給によって円滑に進める」
ガルザックも納得した様子を見せた。
「大まかな方針は分かった。では、どの様にしてサルーキ領の産業を立て直すつもりなのか聞こうかのう」
「これを見て欲しい」
そう言うと、富楽は地図を取り出し広げて見せる。そして川の所を指差し語る。
「かつて農業用水の水源として使われていたこの川だが、今は鉱山の毒で汚染されて農業用水として使えなくなってしまっている。そのせいで、サルーキ領の第一次産業とそれを前提とした第二次産業が崩壊している」
続けてオルドルは悩ましそうに言う。
「サルーキ領の第一次産業が崩壊しているのは、鉱山が売られた事と、水源の汚染によって農業が成り立たなくなった事によるものです。皮肉な話ですが、鉱山が買収された事でルールが守られる様になり、鉱毒の流出が収まった事で水質も回復傾向にあります。自然の回復力と人の手助けがあれば4~5年でなんとか水源として使える様になるでしょう」
オルドルから富楽に会話のバトンが渡る。
「そこで、現在採算の取れない農業を支援し存続させつつ、水源の回復に努める。水源さえ再生できれば、それに伴う産業も再生していくだろう。それともう一つ、できればお願いしたい事がある」
「もう一つ?」
「サルーキ領が自分でインフラを整備できる様になった場合、ある程度負債の返済を免除する仕組み等があると有難い。返済を最優先にすると、どうしても自分達のインフラを後回しにする様になるからな。だからインフラを自給できる様にする事も、借りを返す手段にしておきたいんだ」
ガルザックは悩む様子も無く返答する。
「ふむ、分かった。現物支給による人件費の軽減と、サルーキ領における産業の再生案、しかと聞き届けた。その案、持ち帰り他の復権派領主にも掛け合ってみるとしよう」
「ずいぶんとアッサリ決めるんだな。ちょっとくらいもめると思ってたんだが」
正直拍子抜けではある。復権派の利益追求を諦めてもらう内容なのだからもう少しゴネるのが普通だ。もちろん相手がゴネた場合に言い負かす算段も用意していたが、それがまるまる不要になった。
「当然じゃろう。最初にも言ったが、ワシはサルーキ領にとってより良い案を探しておったんじゃから、そちらがサルーキ領の自立のための案を出すのなら無暗に否定はせんよ」
ガルザックは満足そうに笑っている。他の復権派の仲間が富楽の案にどんな反応をするか次第ではあるが、少なくともガルザックには好印象といった所か。
ガルザックに認めてもらう案を出すという目標はアッサリと達成。このままいけばサルーキ領の自立も上手い事いくだろう。そう思っていたのだが・・・。




