第26話 債務の罠のしくみ
富楽はオルドルにサルーキ領が置かれている状況。そしてこのままだとサルーキ領が陥ってしまう債務の罠と属国化について話していく。
「債務の罠ってのは、到底返済が出来ない様な負債を相手に負わせ、借金をかたに相手に不利な要望を飲ませるってやつだ。本来国や領に貸しを作って支援するってのは、産業を成長させて成長した後で借りを返してもらう、投資的な意味合いのものなんだが。債務の罠にはめるための支援は言わば乗っ取り。負債を返せない状態を作って言いなりにさせる事に繋げるものだから、意図して成長をさせず、自立出来ない様に負債に依存させる様な作りになる」
オルドルは神妙な面持ちで聞く。彼としては、サルーキ領が属国化しようとしているともなれば気が気でないだろう。
「では、復権派の支援策はサルーキ領を復権派の言いなりにさせる様なものになっているという事ですか?」
富楽は頷き答える。
ガルザックから渡された書類には、確かにサルーキ領を立て直すための支援策が書かれていた。書かれていたのだが、その支援策には問題があった。
「あぁ。まず支援の内容なんだが、復権派の領が必要な物資とインフラを用意するって事になっている。これは一見すると、他所がかってに必要なものを用意してくれるから嬉しい事の様に見えるが、必要な物が他所から与えられるって事は、支援を受けている側は必要な物を自分達で作らなくなってしまう。他所で作ってもらうのが当たり前になってしまったら、いつまでたっても自給力は育たず、自立できなくなってしまう。供給能力が失われている状態だから、借りを作って他所から買わなきゃいけないのはそうなんだが、他所から支援を受けるのなら、支援を受け続けるんじゃなく、借りを作らなくて良い様にしていかなきゃいけないんだ」
オルドルは腑に落ちないといった表情を浮かべた。
「でも、なんで復権派はサルーキ領にその様な支援を?言いなりにした所で、サルーキ領にはろくな産業も資源もないのに」
普通に考えたら、言いなりにしようとするのなら魅力的なの資源なり産業なりがあるものだ。しかしサルーキ領はもう大したものは産み出す事はできない。他の領から見ても魅力は無い筈なのだ。
意図が読めない様子のオルドルだが、富楽には目星が付いている。
「どうやら工場を建てる事が目的らしい。支援の条件として機械部品の工場を誘致する事が条件にあった。ここサルーキ領では、住民の流出と産業の喪失で空いている土地が大量にあるし、職を失って困っている人も大量に居る。つまり、工場を建てれる土地と安く雇える労働力がある訳だ。復権派は、サルーキ領を機械部品を安いコストで生産できる生産拠点に変えようとしているってとこかな」
それを聞いたオルドルは怒りで手をワナワナと震わせる。
安く土地を買い、安く人を使おうとしているのだ。その地に住んでいる者からすればあまりいい気は無しないだろう。
「なるほど、復権派はサルーキ領の事を自分達の都合の良い様に作り変えようとしているのですか。では、復権派はサルーキ領を助ける気はなく、復権派の言いなりにさせるのが目的だという事なのですか?」
富楽は首を横に振り、否定の意思を示した。
「いや、言いなりにさせる事が目的なら、ガルザックさんはわざわざ俺に知らせる事なんてしなかっただろう。恐らく、復権派は悪条件を突き付けたいのではない。今のサルーキ領はそれくらいの条件を飲ませるくらいしないといけない程に落ちぶれているといった方が正確だろう。復権派も自分達の領を統治しなきゃならない立場だからな。いかに同じ国の仲間とは言え、無条件で助けるなんて事はできんだろうよ」
復権派としてもこの様な支援策は不本意なのだろう。支援する際に要求する見返りが、空いてしまった土地と安い労働力くらいしかサルーキ領には残っていなかったといった所か。
富楽は続けて言う。
「俺に書類を渡した理由も、多分ガルザックの言葉通り、より良い策を求めての事だろうな。俺は復権派の筆頭に民主主義の理想を実現させてみせるって啖呵切ったから、やれるもんならやってみろって言う事だろう。今話しを進めている領主や有力者を納得させるだけの改善案を出してみせろってな」
「では富楽さん。これからどうするのですか?ベントランが領主から降ろされる事が決まっているのなら、作戦も練り直すのでしょう?」
富楽は頭をトントンと指で叩きながら少し考えた後、これからやる事を伝える。
「ひとまず、ペンブローク領に戻って今後の方針を練り直す。場合によってはメディナさんの協力も必要になるしな」
当初は産業再生までの目途を立てて、そこからサルーキ領の経過観察くらいの予定だったが、予定が狂った。
今回主導権を握っているのは復権派、彼らは既にこの壊滅状態のサルーキ領を第二次産業によって立て直す策を進行している。ここで復権派と対立した所で、産業の立て直しが遅れて、結果的に領民が苦しむ事になる。面倒だが、どうすれば彼らを納得させる事が出来るのかを考えなければならない。今後は復権派を説得するための材料集めを進める事になる。
しかし、工場を誘致させて第二次産業を育てる目途が立っているのは利用しない手はない。基本は復権派の策をベースに自立させるための改善案を考えていくという事になるだろう。




