第23話 状況確認
オルドルの屋敷は、建物自体は豪華なものの明らかに手入れがされておらず、汚れたカーテンもそのまま、植木も好き勝手伸びていて、庭も荒れ放題。廃屋に片足を突っ込んでいる有様だった。
自動車から降りた富楽とヴィヴィエットは屋敷を見た感想を言う。
「これまた随分と質素な暮らしをしてる様で」
「オルドルさんも大変そうですね」
「面目ない。なにぶん使用人も残っていないもので、家の事にも手が回らず、この有様でしてな」
まぁやつれた様のオルドルを見れば、ろくに使用人も雇えない経済状況なのは想像に難くない。何か事情があるのだろうが、生活費までも切り詰めているのだろうし、見栄えに気を遣っている余裕も無いのだろう。
富楽とヴィヴィエットとオルドルは屋敷に入り、応接室で今後の事を話し合う。
「まず状況確認だ。現在の領主ベントランは自分の地位を守るため、権力のある貴族達にすり寄り、領内の有力者にばかり利益が流れる様にしてしまった。だから今のサルーキ領で働いても、労働者はろくに稼ぐ事は出来ない。って事でいいかな?」
「はい。少し前のペンブローク領をさらに悪くした感じと言えば、イメージもしやすいかと思います」
富楽の確認にオルドルは同意する。
「今のサルーキ領では産業は壊滅していて、基本的に何も作れなくなっている。だから産業を再生させる所から始める必要がある」
「はい。ベントランは観光業を育てるためと言い、第一次第二次産業を冷遇し、サルーキ領に必要な産業を破壊してしまいました。悲しい事ですが、今のサルーキ領に自給力はありません」
再び富楽の確認にオルドルは同意する。
「そんでオルドルさんは一応貴族ではあるものの、領主を動かせる有力者ではない。だからオルドルさんは権力者に話す機会を作る程度の力しかないと」
「はい。随分前に領主を選ぶ権限は失ってしまいました」
状況確認を終えると富楽は考える。
ペンブローク領で使った手は色々な条件が揃っていたからこそ出来た事だ。
ペンブローク領は供給能力は十分にあり、需要不足が問題であったため、通貨が流れる様にするだけで問題が解決する状態だった。だが今回は供給能力が不足している状態。買う物が足りない状態で通貨が流れる様にしたところで何の解決策にもならない。
ルプス連邦は領主に自分で領の制度を決める権限があり、大衆にも政治に関われる程度の権力がある、そんな中途半端な民主主義の国だ。だからペンブローク領では制度を変える事が出来たし、大衆を味方に付ける事で有力者を黙らせる事も出来た。だがオルドルは領主ではなく、領主を動かせる有力者でもない。せいぜいサルーキ領の有力者と話す機会を作る程度しかできない。
「まぁ何はともあれ、現場の状況を見てからだな。予めサルーキ領の現状を把握できる資料には目を通しておいたから、産業の現場を視察させてくれ」
「はい。事前に話しは通してあるので、明日から現場の視察もできますよ」
「産業の現状を把握したら、理解を求めるため有力者と話し合いたい。必要な時に言うから、その時に話し合いの場を設けてくれ」
有力者に対しての不信感が強いのか、有力者との話し合おうと言う富楽に、オルドルは気乗りしない感じの様子。
「自分の利益しか考えていない様な人達ですよ?協力を得られるのですか?」
「協力はあまり期待できないだろうが、こちらの活動を邪魔させないくらいなら十分に見込める。ペンブローク領でもそうだったが、生産者からの搾取が産業を衰退させてしまう程になってしまうと、カネで買える物自体が無くなっていくから、結果的に富裕層も損をする事になるからな。産業を成長させれば結果的に富裕層も得をする。それを理解してくれればそれで良い」
「あの人達が理解してくれるとは思えませんが、分かりました。やってみます」
「後はどれだけ産業を再生させる目途が立つかだな。それ次第で他の領からの支援を要請できるかどうかも変わってくるからな」
兎にも角にも経済政策は現場の状況を把握してから判断するもの。本格的に方針を決めるのは明日からの現場の視察を終えてからになるだろう。




