第22話 サルーキ領の現状
ペンブローク領から離れる事が決まり、サルーキ領へ向かう当日。
これから富楽とヴィヴィエットが出発しようとしており、それをリアとジェーツが見送ろうとしていた。
「じゃあ行ってくる」
そう言うと富楽は屋敷のドアを開け、ヴィヴィエットはリアとジェーツに手を振った。
「富楽様、ヴィヴィ、いってらっしゃいませ」
「二人とも気を付けてね」
リアとジェーツが富楽とヴィヴィエットを送り出そうとしていたその時。
「待ってくださーい!」
慌てた様子の声と共にメディナが現れた。手には何かの人形を持っている。
メディナは持っている人形を富楽に差し出して言う。
「これを持って行ってください、富楽さん。」
メディナが持ってきたのはブサカワ系の木製人形だった。なんとも言えない表情のおっさんの様な人形で、どう反応すれば良いのか困る代物であった。
「なに?この、何?」
富楽はポカンとした表情で困惑していると、メディナはその人形の事を説明する。
「これは、ちゃんと帰ってこれる様にという願いが込められたお守りです。私のコレクションの中から持ってきました」
富楽は人形を受け取り、それを見つめた。
とてもご利益がありそうな見た目ではない。むしろ呪いの人形と言われた方が納得できそうな代物だ。だが、富楽がこの世界に来たのもメディナのオカルトめいたコレクションによるもの。これにも何か効果があるかもしれないし、なかったらなかったでちょっとしたお守りくらいに思えばいいか。
そう考え、富楽はメディナに礼を言い、改めて屋敷を後にした。
時は過ぎ、場所は変わり、サルーキ領の駅。
富楽とヴィヴィエットは駅から出てきて、辺りを見回していく。
見た感じだと、サルーキ領は産業がズタボロになっているとは思えない程綺麗だった。煌びやかな建物が建ち並び、店の中では色んな品々が売られていて、所々で客引きの声が聞えてくる。人通りもそこそこで、とても経済が崩壊しているとは思えない程賑わっていた。
ヴィヴィエットは見回しながら感想を言う。
「なんだか、結構発展してますね。全然ボロボロじゃない様な・・・」
ゴーストタウンの様な惨状でもイメージしていたのだろう。ヴィヴィエットは想像していたものとのギャップに驚いている。
一方、富楽は予想していたのだろう、全く驚いている様子は無い。
「多分これは張りぼてだな」
「張りぼて?」
「ま、すぐに分かるさ」
そうこうしていると、少し離れた所からオルドルの声。
「お待ちしておりました。こちらです、富楽さん」
声が聞こえる方を見ると、そこにはオルドルが居て、その隣にはそれに乗って来たのだろう自動車があった。自分で運転してきたのだろう、付き人等の姿は見えない。
富楽とヴィヴィエットはオルドルが運転する自動車に乗り、目的地であるオルドルの屋敷へと向かった。その間自動車の窓から外の景色を見ていたのだが、ヴィヴィエットは景色の変化に驚かされる事になる。
街の中心地は派手で煌びやかだったものの、少し進み街から外れていくと、サルーキ領の真の姿があらわになっていった。ほとんどの建物からは人気が感じられなくなり、シャッター街の様な惨状が広がっている。さっきと同じ領とはとても思えない。
「これってどういう事?さっきまでのはなんだったの?」
その疑問にオルドルは運転しながらも答える。
「領主のベントランは、これからは観光だと言い出し、観光業に積極的にカネを流す様になりましてな。結果、駅周辺だけが妙に栄えている、体裁を取り繕うだけの歪な都市が出来上がってしまったのです」
富楽は付け加える様に語る。
「産業が無くなった国とかでやりがちなやつだな。何かを作り出す当てがない奴は、消去法で観光業を選ぶことが多い。机上の空論では稼げる様に見えちゃうからな。でも観光業を主要産業にしようとすると、必要な物も他所から買わなきゃいけない、利益を出すのも他所だのみと、需要も供給も他所に依存する事になる。そんなのほぼ確実に破綻するよ」
話を聞いていたヴィヴィエットはふと思い出す。
「そういえば、サルーキ領には鉱山がありましたよね?鉱物資源でどうにかならないんですか?」
ヴィヴィエットの提案に富楽は苦笑い。
「それがなぁ・・・」
今度はオルドルが付け加える様に語る。
「ベントランが採掘権を売ってしまったのです。だからサルーキ領の鉱物資源は、もうサルーキ領のものではありません」
またまたヴィヴィエットは驚く。
「売った!?じゃあサルーキ領には本当に何もないって事!?」
富楽は知っていた様で、軽い感じに言う。
「そーゆーこと」
「じゃあ、せめて食糧とかは自分達で作れるようにしなきゃ・・・」
ヴィヴィエットが言いかけたところで富楽は即座に否定する。
「多分それも無理だろうね。資料を見たところ、結構前から食糧生産が殆ど無くなっている。何かあったんじゃないか?オルドルさん」
オルドルは悲しそうな表情を浮かべながら語る。
「はい。水源が鉱毒で汚染されて、まともに作物を作る事ができなくなっているのです。採掘権が売られる前までは規則を無視した採掘が当たり前に行われていましてね。採掘権が売られてからは規則が守られる様になって、だんだんと回復してはきているのですが、まだまともに食糧を生産できるまでには・・・」
ここまでサルーキ領の現状を聞いて、ヴィヴィエットは唖然とするしかなかった。
「フーさん。これ、本当に大丈夫なんですか?」
「任せておけ。ここまで事態は既に想定してから来ている」
どうしようもない様に見えるサルーキ領の現状に、不安を隠せないヴィヴィエットとオルドルだったが、余裕そうな富楽の言葉で少しだけ不安が紛れたのだった。
そうこうしていると、オルドルの運転する自動車は目的地であるオルドルの屋敷へと到着した。




