第2話 どうやら魔法が無い世界らしい
突如よく分からない所に呼び出され、経済を救ってくれと言われた富楽は困惑の中にいた。特に解せないのは、呼び出した本人であろう目の前の女性も困惑し混乱している様子だという事。
ここがどういう場所なのか、今はどんな状況下なのか、経済を救ってくださいとはどういう事なのか知らなければどうしようもない。とりあえず落ち着いた場所でちゃんと話そうという事になり、二人は場所を移す事になった。
部屋を出て分かった事だが、富楽が居た建物は豪邸と言っても良い程大きな屋敷だった。ただ広いだけではなく、掃除も行き届いており、所々に高価そうな装飾品も見られる。別に疑っていた訳ではないが、領主というのも合点がいく。
案内されたのは屋敷の応接室だった。メディナは「ここで待っていてください」と言い部屋を出て、しばらくするとメイドと執事を連れて戻って来た。どうやらこの二人を交えて話していく様だ。
メイドの方は20代後半くらいの女性だ。キリっとした真面目そうな目つき、姿勢も良く一目で真面目さが見て取れる。そして髪の色がこれまた変わっていて、エメラルドの様な緑色。肩まで伸びた緑色の髪を束ねてポニーテールにしている。
執事の方は80代くらいの男性。歳相応の落ち着いた雰囲気で、メイドと同様姿勢が良い。髪の色は歳でそうなったのか元々なのかは分からないが白髪で、オールバックでビシッと決めている。
メイドと執事は何か思う所があるのか複雑な表情で富楽を見ている。
「こちらが笹霧富楽さんです」
「あ、どうもー。多分異世界人の笹霧富楽です」
メディナが紹介し、富楽が軽い挨拶をする。
メイドと執事もそれに続いて自己紹介。
「この屋敷のメイド長、リア・シャーネィです」
「メディナ様の執事ジェーツ・ドワインです。以後お見知りおきを」
各々自己紹介も済んだ所で、富楽はさっそく話を切り出す。
「とりあえず聞きたいのは。俺はなんでここに来たのかって事だな。部屋で倒れて、起きたと思ったらここに居たんだ。一体何がおきたんだ?」
その質問に、リアもジェーツもメディナも思い悩む様な表情をしている。
「実は・・・私達にも分からないのです」
「えぇ!?」
ジェーツが放った言葉は衝撃的なものだった。死んで異世界に来てしまった。そこまではいいが、自分を呼んだであろう者達がそれを理解していないというのは予想外だ。
驚く富楽に向け、ジェーツは事の顛末を語り始める。
「ここペンブローク領は、国全体の景気悪化の煽りを受け深刻な経済状況に陥っています。産業は失われ、格差は広がり、政策も上手くいかなかった事でメディナ様への不満も募っていき、領内では度々デモも行われています。そんな状況に不安を感じていたのでしょう。突然メディナ様は奇跡にでも頼るしかないと騒ぎ、趣味で集めていたオカルトグッツの置かれた部屋に籠ったかと思えば・・・」
「なるほど、オカルトグッズであれこれしてたら俺が召喚されちゃったと」
異世界という事で魔法が当たり前の世界かと思っていたが、どうもこの世界でも魔法の類はオカルトの類の様だ。だからどういう理屈で来たのかと言われても分からない。
「申し訳ありません笹霧さん。うちの領主が・・・」
メイドのリアが富楽に謝りながらペコペコ頭を下げる。
「あぁ、いいよいいよ。どうせ元の世界で俺死んでたろうしな」
突然の異世界で混乱していたから意識していなかったが、酔いも完全に覚めているし、二日酔いみたいな症状もなく、体は万全な状態になっている。転移得点の様なものだろうか、この世界に来た際に完全回復した様だ。その点で言えばメディナは俺の命の恩人なのかもしれない。
しかし、どうやって転移させたのかも分からないとなると、どうしたものか。少なくとも、今ここで何故この世界に来たのかを追求した所で答えは出ないだろう。であれば、もう一つの聞くべき所を聞くとしよう。
「じゃあ、経済を救って欲しいって話だけど、それはどういう事なんだ?景気が悪くなっているから助けて欲しいってのは聞いたけど、どこがどう悪いのか教えてくれないと、景気が悪いだけじゃあ判断しかねる」
それを聞くとメディナは期待の眼差しを富楽に向ける。
「じゃ、じゃあ、富楽さんの魔法的な力でこの領の経済を立て直してくれるって事ですね?」
「あ、俺にそういうのないよ」
「へ?」
そうか、彼女たちは富楽が異世界から来た事で、富楽の方が魔法のある世界から来たものだと思っていたのか。しかし、当然富楽は魔法的な力を使えない。
その事実を知るや、メディナは露骨に気を落とす。
「そうかー、魔法とか使えないのかー。じゃあこの領の経済もこのまま・・・」
「だが、経済に関してはある程度理解がある。もしかしたら解決できるかも知れんぞ?」
メディナの落ち込んでいた顔が、再び期待の表情に変わる。
「本当・・・ですか?」