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異世界人の経世済民 転移者は経済を立て直す  作者: キャズ
供給不足編

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第19話 他領の領主達

 パーティーの会場となっているのは普段舞踏会等が行われている建物だった。そのため、会場はとても広く豪勢だ。天井には煌びやかなシャンデリアが吊るされ、壁や柱には絵が刻み込まれてそれ自体が芸術作品の様になっている。会場には料理が置かれたテーブルがいくつも用意され、パーティーの参加者は会話をしつつ各々好きな料理を手に取り舌鼓を打っていた。

 富楽は会場を見渡した後、メディナに質問を投げかける。


「なぁメディナさん。ここに集まっているのはどんな人達なんだ?」


「やっぱり領主やその付き人が多いですね。集まっている領主は、キャバリア領、サルーキ領、キシュウ領、シャーペイ領、クレステッド領、ピレニーズ領、ピンシャー領、バセンジー領、スパニエル領の領主。見たところ領主以外にも、貴族や商人の方々も参加している様です」


 集まっている人達は、領主や貴族や大商人が主という事もあって一目で上流階級の人達だと分かる人が多い。

 メディナは外見はちゃんと上流階級しているため、この場に居ても違和感は無いが、富楽はくたびれたおっさん感が強く、着飾ってはいるものの浮いてしまっているのは否めない。そのため、良い所のお嬢さんの隣に不似合いな服を着たおっさんが立っているという絵ずらとなっている。

 なんか俺場違いだなと思いつつ富楽が会場を見渡していると、一人の男性がお辞儀をし、富楽の傍にいたメディナに話しかけてきた。


「こんにちはメディナ様。私はスパニエル領の領主ディバル。ディバル・ロウド・スパニエルです」


 スパニエル領の領主ディバル。歳は40代半ばくらいだろうか、草葉の様な緑の髪と瞳を持った紳士的な雰囲気の中年男性だ。穏やかで優しそうな印象と貫禄が合わさった感じで、この人に任せれば大丈夫だと思わせる様な安心感を感じさせる人物だ。

 メディナもお辞儀と挨拶を返し、握手を交わす。


「どうもディバル様。ペンブローク領の領主、メディナ・リィル・ペンブロークです。何かご用ですか?」


「経済政策について少しお聞きしたい事があるのです。我がスパニエル領でも国民の安心によって貯蓄に回るお金を減らす方針を進めており、領民もそれに賛同してくれているのですが、一向に領民が節約を止めてくれないのです。領民は支持もしてくれて、皆節約をやめてお金を使おう、貯金は出来るだけしない様にしようと領民自身が広めているにも関わらずです。どうしてスパニエル領では貯金に回るお金を減らす政策はうまくいかないのでしょうか。そして、なぜペンブローク領では成功しているのか。その秘訣を教えて頂きたい」


 ディバルは頭を下げて懇願する。目上かどうかだとか、男か女かだとかを気にもせず、教えてもらう立場だという事をわきまえ頭を下げる。それだけで彼の人柄がよく分かる。

 経済政策の話という事はここからは富楽の出番。自分が引き継ごうと言わんばかりに富楽は前に出て会話に入る。


「経済政策って事は俺の出番かな?」


 富楽が口を出すと、ディバルは富楽の方を向いた。


「では貴方が噂の経済顧問、笹霧富楽さんですか。お噂はかねがね」


「どうもどうも」


 ディバルと富楽は握手を交わすと、富楽は堂々とした態度で答えていく。


「さて、ディバルさんの質問についてだが。もしかして、領民に説明する際に、皆で協力しようだとか、皆で考えましょうだとか、全体を意識させる言葉使ってないかい?」


「えぇ。領民の方々には自分の事だと意識してほしいので、皆さんの事なんですよ、皆さんが豊かにならなければいけないんですよと、領民の方々には説明しているのですが」


「それがいかんね。皆でやろう、皆で考えようってやり方は厄介でね。下手にやると一人一人の責任感が希薄になって、当事者意識がなくなり、自分がやらなきゃいけないって考えが失われる原因になってしまう事があるんだ。おそらくスパニエル領で起きているのはそれだな。皆がやらなきゃいけないとか言っているのに、自分がやらなきゃいけないとは考えてないのさ」


「やはりそうですか。薄々と気づいてはいたのですが、だからと言って、こちらも皆でやらなきゃいけないと言うしかなく困っているのです。ペンブローク領ではその問題を解決し、領民自身が自分が節約を止めれる方法を追求している。どうしてその様な事が出来るのですか?」


「重要なのは自己を意識させる事だな。皆が節約を止めれば景気が良くなるって言うと自分はやらなくても解決すると考えてしまうから、自分が節約を止めれる様になれば景気が良くなると思ってもらう様にする。経済政策の是非を自分がどうするかで判断してもらう事で当事者意識を持ってもらってるんだよ。大衆の意見を聞く際にも、どうすれば景気は良くなると思うか?じゃなく、どうすれば貴方は節約を止めれるか?といった他人がどうこうではなく自分はどうするかを意識させる様にしているよ」


 富楽が一通り説明を終えると、ディバルはしばらく考えた後、富楽に一礼した。


「ご教授ありがとうございます。こちらも富楽さんの進めた経済政策については色々と調べたのですが、いやはや、まさか政策の内容ではなく説明の仕方に工夫があったとは」


 感心するディバルに富楽は自信満々に付け加える。


「もしそれで上手くいかなかったらまた俺の所に来ると良い。必ずや解決策を出してみせよう」


「おー、頼もしいですな。富楽さん」


 とディバルと富楽がやり取りをしていたその時、背後から知らない男の声が響く。


「キサマが笹霧富楽か!」


 怒りを込めた声に驚き振り返ると、富楽の知らない男性がそこに立っていた。


「ん?誰だ?」


 身勝手そうな雰囲気を身に纏っている中年男性だ。明らかに富楽に対して苛立っているが、顔見知りでもないし、当然その怒りに身に覚えはない。まぁ挨拶をせずにいきなり怒りを向けてくる時点でろくな奴でないのは確かだが。


「あ、確かあなたは。サルーキ領の」


 メディナはそいつが誰か知っている反応を見せる。ディバルも知っている様で、知らない様子の富楽にディバルは伝える。


「このお方はサルーキ領の領主ベントラン・ラッズ・サルーキさんですよ、富楽さん」


「ふむ。で、そのサルーキ領の領主さんが一体何用で?」


 ベントランは富楽を指差し、再び怒りの声を放つ。


「お前の経済政策のせいで我が領の経済は無茶苦茶だ!お前がやっていた領内限定の通貨の発行、あれを施行したせいで我がサルーキ領は大変な事になっているんだぞ!どうしてくれる!」


「あぁ、俺の政策を真似して失敗した口か。しかもよりにもよって、領内限定の通貨発行とは・・・」


 どうやら単なる言いがかりの様だ。勝手に真似をして、勝手に失敗して、怒りをぶつけてくるとかたまったもんじゃない。

 ベントランは呆れる富楽に怒声をぶつけ続ける。


「ペンブローク領で説明されていた様に、その通貨で納税出来る様にして通貨を流したのに、フィルが流れなくなっただけではないか!生産事業者も居なくなって産業は失われるし散々だ!お前は大丈夫だから安心してくださいと説明していたではないか!どういう事だ!」


 富楽は溜息を吐き、呆れ果てた口調で返答する。


「あのねぇ、領内限定の通貨発行ってのは調整がすごく難しいんだ。領内の産業の規模や状況を把握し、さらに従来の通貨を同時に流通させる事も考え、適切な供給量を常に調整し続けなきゃならんものだ。聞きかじった程度の知識で出来るもんじゃない。生産事業者が居なくなったって事は、富裕層に流して格差を拡大させたんだろう。通貨は下から上へと流れるから、上から流すと現場に流れなくなるに決まってるだろう。安心してくださいって発言も、あくまで労働者層へ向けた言葉だ。通貨の管理者である領主が安心していい訳ないだろ。それに、あの政策は応急処置的なものでしかない。本来であれば、労働者にはちゃんとした通貨を流してやるべきで、それができないから疑似的な通貨で利益を出せる様にしたまでだ。こうすれば良くなるだろう程度の考えてやっていい事じゃないんだよ」


 説教された事に対してか富楽の態度に対してかは分からないが、ベントランはさらなるイラつきを見せる。


「だったらどうしろと言うのだ!」


 富楽は頭を掻き、めんどくさそうに告げる。


「詳しくはちゃんと現場を見て判断するしかないが、十中八九、無暗に富裕層にばかりカネを流して格差広げたんだろ。ここまで行ったらもう通貨を増やす事はできんだろうし、無理にでも富裕層から通貨を回収して労働者層に流す様にしなきゃならんだろうな」


「それだと領内の有力者からの支持を失うではないか!これ以上支持を失う事はまかりならん。それ以外の方法はないのか?」


 ああ言えばこう言う態度のベントランに、富楽も流石にイラついた様子で返す。


「貴方は経済政策に失敗して、修正案を求めている立場なんだぞ?態度に関しては俺も人の事言えんからあれこれ言う気は無いが、話を聞く気がないとなると、こっちもどうしようもないぞ?」


「知った事か!お前の政策でめちゃくちゃになったのだ!お前がどうにかしろ!有力者の支持を失う事も許さんからな!」


 せっかくどうにかしてやろうというのにこの態度。これは無理そうだ。協力する意思があるのならやり様はあるが、話を聞かず、自分の求めた答えしか認めない手合いはどうしようもない。

 富楽は呆れ、再び溜息を吐く。


「領主が富裕層と仲良しこよしなんてやってたら格差の是正なんて出来はしませんよ。貴方の様な指導者の持つ権力は本来、労富裕層の様な非生産者を抑え、労働者層が安心して生産活動に従事してくれる様に・・・」


「もういい!自分で何とかする!!」


 ベントランは話途中で言い放ち、去って行った。

 短時間のやり取りだったが、富楽はどっと疲れてしまった。


「なんだったんだ?あいつは」


 ディバルは言う。


「領主にも色々な方が居ますからな。ああいった人も居ます」


 メディナは言う


「教えてもらう立場なんだから話はちゃんと聞いてほしいよね」


 誰かが言う。


「いやはや面倒な奴に絡まれて災難だったな」


 一同は突然の知らない声に驚き、その方向へ顔を向けた。

 そこには一人の青年の姿があった。いち早く青年の正体に気づいたディバルは声を上げる。


「アルダート殿!」


 アルダート、それはここシュナウザー領の領主の名だ。歳は20代後半いくかいかないかくらいだろう。メディナ程ではないがとても若い。美しい瑠璃色の髪と威圧感のあるルビー色の瞳を持った、まるで王子様の様な雰囲気の美青年だ。

 アルダートは富楽の方を向き話す。


「私がここシュナウザー領の領主、アルダート・ギィグ・シュナウザーだ。貴殿が笹霧富楽だな?」


「うむ。今回俺を呼んだのはあんただろう?俺に何か用があんのか?」


「いやなに、巷で話題の経済顧問と是非とも話をしたくてな。出来れば場所を変えて話がしたいのだが、良いかね?」


 富楽は迷わず即答する。


「良いだろう」


 アルダートは何か考えはある様だが、悪意のある様子はない。今後国全体の事を考えるなら、アルダートの様な権力の強い領主との交流は悪くないだろう。そう考え、富楽はアルダートの要望を了承した。

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