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異世界人の経世済民 転移者は経済を立て直す  作者: キャズ
需要不足編

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第17話 一段落

 有力者会議から帰った後、屋敷に帰った富楽が自分の部屋に行こうとした時、メディナはそれを呼び止める。


「あの、富楽さん」


 富楽は足を止め、メディナの方に体を向けた。


「ん?どうした?」


「ありがとうございます。ペンブローク領に活気を取り戻し、景気回復の道を示し、有力者達との関係改善まで実現できた。全部貴方のお陰です。もし富楽さんが居なかったら、今頃どうなっていた事か」


「なぁに、良いって事よ」


 富楽の言葉は大した事はしていないと言わんばかりの軽いものだった。それに対し、メディナは何か思いつめた表情をしている。

 富楽はその表情の理由が気になりメディナに問う。


「何か不安な事でもあんのか?」


 問われたメディナは思いつめた表情の理由を語っていく。


「もし富楽さんが居なくなってしまったら、私はこのペンブローク領を支えていく事が出来るのでしょうか?富楽さんは別の世界から来た異世界人。もしかしたら、何かの拍子でこの世界に居続ける事が出来なくなるかもしれない。そうなった時、私はちゃんと領主としてやっていけるでしょうか?富楽さんはすごいです。でも、だからこそ、富楽さんが居なくなった時の事を考えると、不安なんです」


 不安を吐露するメディナに対し、富楽は何だそんな事かと言わんばかりに軽い口調で答えていく。


「だからこれから経済を学んでいくんだろ?大丈夫。俺が見るに、メディナさんは結構見込みがある。少し勉強すれば、すぐにちゃんとした経済政策を進めれる様になるだろうよ」


 メディナは実感なさそうに言う。


「私が、見込みがある?」


「あぁ。メディナさんは、エイマンさんの言いなりになっていた頃、景気は回復傾向にありますだとか、このまま続ければ大丈夫ですとか、エイマンさんの言う通りにすれば経済が良くあるかのような説明をされていたんだろ?」


 メディナはかつての自分を思い返し答える。


「はい」


「でも、エイマンさんの言っている事は間違っている。景気は良くなっていないと気づいた。それは何でだ?」


 メディナは再び過去を思い返し答える。


「それは、ペンブローク領で暮らす人達が苦しんでいたからです。エイマンさんは皆が儲かっているかのようなデータや、産業が成長しているかのようなデータを見せてきていたのですが、とてもそのデータ通りとは思えなかったんです」


 富楽は指をパチンと鳴らして言う。


「それだ。その、領内で暮らす人達を見て物事を判断する事。それが経済政策において最も重要な事なんだ」


「人を見る事が?」


 富楽は静かに頷き説明していく。


「経済の統計データってのは結構いい加減なものが多くてな。例えば、俺の世界ではGDPという指標があるんだが、これは国内で生産された物やサービスの合計を記録したもので、その国がどれだけ価値ある物やサービスが作れるのかの指標として使われている。しかしこのGDPというデータ、政府が通貨を発行して何かを買えば、たとえ必要のない物であってもGDPは増える。泥団子でも1000万で買えば1000万分のGDPが増えるんだ。そしてこのGDPというデータ、国民がどれだけ必要な物を作っていても、その人にカネが流れなければGDPは増えない。農家がどれだけ食糧を生産していても、その人にカネが流れなければGDPは増えず、農家は必要な物を作っていないとされてしまう」


 富楽の説明にメディナは怪訝な表情を見せる。


「それって、GDPを見ても何も分からなくないですか?」


 メディナの感想ももっともだ。GDPは富楽が知る限り最も過大評価されている統計データ、GDPだけを見たところで経済状況など分かりはしないのだ。


「GDPだけだとな。そもそも経済の統計データってのは、その数値が上がったか下がったかで良し悪しが分かるものじゃない。その国の産業の状況や、そこに住む人達の生活、そういったものを照らし合わせて初めて判断できるものだ。GDPが上がった場合、何がどういった理由で売れたからGDPが増えたのか。GDPが下がった場合、物やサービスが作れなくなっているのか作っている人にカネが流れなくなっているのか。そこにある産業やそこに住む人達の生活、そんな現場の状況を見て初めてGDPは価値あるデータになる。そこで暮らす人達の生活を見ようとしないのであれば、経済の統計データなんていくら見ても意味はないんだよ」


 人の営みを知る事の重要性を語る富楽だったが、メディナは少し釈然としない様子。


「でも、国民が豊かになっていないのなら経済政策は上手くいっていないって考えるの、普通の事だと思うんですけど」


「その普通が案外出来ないもんなんだよ。変に権力を持った人達は特にな。経済政策に本当に必要なのは、高度で複雑なものじゃなく、一般庶民でも気づく様な普通で平凡で当たり前の価値観だったりするもんだ」


「そういうものなんですかー」


「そういうもんだ」


 メディナはしっくりと来てない様子ではあるものの、一応は受け入れた。


「メディナさんは、領民の生活を見て経済政策の是非を判断すべきだと意識できている。しかし、景気が良くなっているかどうかは判断できても、どうすれば景気を良くする事ができるのかが分からなかった。だから、これから経済を学んでいって、どうすれば領民がお金を使える様なるのか、どうすれば領民が価値ある物を作れる様になるのか、自分で判断できる様になれば良い。そうすれば、俺が居なくとも自分で政策を打ち出せる様になるだろう。分かったかな?メディナさん」


 メディナは気合いを入れて答える。


「はい。これからもよろしくお願いしますね、富楽さん」


 それから数日後、これまでペンブローク領で行われていた政策と、これからの政策の方針について、ラジオと新聞によって大々的に広められた。

 表向きには、これまでの格差を拡大させる政策はメディナが先走って進めた事として公表され、有力者達は格差拡大の政策には関わっていないものとされた。そして、今までの格差を広げてしまう方針を改めるため、これまで進めてきた社会保障強化や独自通貨の発行の政策に加え、法人税増税、正確には法人税を減税前に戻す事が領民達へと伝えられた。

 格差の拡大に有力者が関わっていないという話はそこまで大衆に信用はされなかったものの、現在格差の是正に向かっているという事実と、メディナが自分に責任があると言って責任の所在を明らかにした事で、領民が資本家系の有力者に対してヘイトを向ける様な事態にはならなかった。庶民対金持ちの構造にならなかったおかげで、資本家も庶民も一丸となって経済成長に取り組める様になったのだ。

 経済政策を修正し、大衆の信用を得て、傀儡状態を終わらせ、有力者達との協力を取り付けた。これにてペンブローク領の経済政策は一段落ついたのだった。

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