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異世界人の経世済民 転移者は経済を立て直す  作者: キャズ
需要不足編

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第15話 有力者会議

 有力者会議当日。普段ペンブローク領の政策の議論が行われている議場に、領内の有力者と富楽を含めた数名の関係者が一同に会していた。集まっている人達には二種類の資料が配られており、それを元に話しが進められる様だ。

 ペンブローク領には51名の有力者がいる。その内庶民が主体となっている有力者は8名、他の43名が名家出身や大商人といった資本家系の有力者となっている。

 メディナの陣営は、庶民が主体となっている8名と、ペンブローク領を憂い味方になってくれた2名の計10名。

 エイマン率いる陣営は、利益の独占に依存している有力者17名。

 現状メディナは人数的に不利だが、どっちにでもつく日和見主義が24名と多く、日和見主義の有力者を味方に付けた方が勝つという状態だ。

 日和見主義の中の一人、最も高齢で貫禄のある有力者が口火を切る。


「ではメディナ様をこのまま領主に据えるべきなのか否か、不信任を提出したエイマン殿と現領主のメディナ様、双方の進めようとしている政策の方針について聞き、結論を出す事としましょう。まずは、エイマン殿が連れて来た学者先生、ランツ殿からお話しをどうぞ」


 エイマン陣営からは前に会った経済学者ランツ・リッチャーが前に出る。ランツは有力者ではないが、政策の方針を伝えるために専門家を呼んだ形。立場としては富楽と同様の立場だ。

 ランツは講演台に立ち、エイマン達の進めようとする方針を宣言する。


「我々は、無駄な支出を減らして赤字を減らし、政府支出を必要な所に絞る事で重要な産業を成長させる、選択と集中により赤字の削減と経済成長の両立を考えています。なので、メディナ様が進めようとしている支出拡大の方針は、受け入れる事はできません」


 次に富楽が講演台に立ち、メディナが進めようとする方針を宣言する。


「私達は、領民の不安を解消する事で通貨の停滞を減らし、領内で通貨が流れる様にする事で領内の産業を立て直す、円滑に通貨が流れる社会を作る事で赤字の削減と経済成長の両立を考えています。なので、エイマンさんが進めようとしている支出削減の方針は受け入れられません」


 エイマン陣営とメディナ陣営、双方の方針が出揃った。

 日和見有力者は双方を吟味する様に見ている。やはり、彼らはどちらの味方という訳でもない様だ。富楽とメディナは事前に日和見有力者にも面会して話をしてみたが、彼らの答えは「前向きに検討します」というもの。つまり話くらいは聞いてやるよって感じだった。対立する感じではなく、双方の話を聞いてから決めるという感じだったので、恐らくエイマン達も同じ様な対応をされていた事だろう。

 そんな日和見有力者の試験官の様な視線が集中する中、ランツは説明を始める。


「では、こちらからお話しするとしましょう。我々が用意した資料の三枚目を見てください。御覧の通り、今我らがルプス連邦は危機的状況にあります。財政赤字は膨らみ、インフラもままならなくなり、このままでは深刻な状態になる懸念が・・・」


 ランツは前の講演会と同じく危機感を煽るデータや発言を言い並べていく。相変わらず、何を表したものなのか伝わらないデータや専門用語を羅列するせいで分かりにくい説明だ。

 ランツは懸命に話していくが、日和見有力者の目はランツの方ではなくこちら側、メディナが率いている庶民寄りの有力者達の方に向いている。彼らはランツの説明に興味が無い様子。

 それもそうだ。そもそも、ここに居る日和見有力者達は御用学者の情報に騙されるようなタマではない。御用学者がいい加減な事を言うのは百も承知。御用学者に求められている能力は人を信じ込ませ騙す能力であり、庶民を騙す能力があるかどうかだ。つまり彼らは、庶民寄りの有力者の反応を見て、ランツに大衆を騙す能力があるかどうかを確認しているのだ。

 そこで富楽がしなければならないのは、大衆はもうエイマン陣営が広めているデマに流されていない事を示す事。


「今ペンブローク領で支出削減を行わなければならない理由は以上となります」


 ランツが支出を削減すべき理由を一通り説明を終えると、富楽に出番が回って来た。


「私達はエイマンさんやランツさん達とは異なり、支出拡大こそが今のペンブローク領に、ひいてはルプス連邦に必要な政策だと考えています。今ペンブローク領では、政府支出の削減によって産業の現場に通貨が流れなくなり、産業が失われようとしています。それを解決するためにも、産業の現場に通貨を流し、産業を存続できる様にしなくてはいけません。ペンブローク領の産業がどんな状況に陥っていたか、そしてペンブローク商品券の流通でどの様に変化したのかは、現場を知る人に話してもらいましょう」


 そう言うと、富楽は労働組合の代表へとバトンタッチ。こんどは労働組合の代表が話していく。


「私はペンブローク領の労働組合の代表をしているのですが、ペンブローク商品券が流通する前は働いてもろくに稼ぐ事ができず、このままでは仕事を続ける事もままならない惨状でした。ですが、ペンブローク商品券が流通する事で生産事業者にお金が流れる様になり、いままでの仕事を続けられる様になったのです。もしペンブローク商品券を流通させていなかった場合、いまある産業は失われ、いままで当たり前に買えていた品も買えなくなっていた事でしょう。そもそも、自国通貨建て国債拡大のリスクというのは、消費者の増加による供給不足のリスク。供給不足を問題視するのであれば、なおさら生産者にお金が流れない事こそ問題視すべきでしょう」


 労働組合の代表は一礼し、富楽へとバトンを渡す。


「聞いてもらった通り、今回の通貨の流通によって産業は守られ、供給不足を防ぐ事に成功しています。インフレリスクを問題視するのなら、尚更通貨を流すべきなのです」


 富楽が支出を増やすべき理由の説明を終えると、エイマン陣営からヤジが飛んできた後、ランツが反論する。


「領民に通貨を流しても、貯金に回って流れが停滞するだけです。無制限に通貨を増やしてはならない以上、渡しても貯金に回してしまう様な人達に渡すべきではありません。資料にもグラフを載せていますが、通貨は大衆に流す分だけ停滞し、政府の赤字に繋がっているのです」


 反論を聞いた日和見有力者の一人、スキンヘッドの有力者は富楽に質問を振る。


「との事ですが、大衆に通貨を流すとその通貨は停滞し、赤字増加に繋がってしまうという問題についてはどうするおつもりですか?富楽殿」


 富楽はしたり顔で答える。


「その情報は最新のものではありません。大衆に通貨を流しても貯金に回ってしまうというのは、私が経済政策に関わる以前の話。政府の赤字が貯金によって増える事を説明し、貯金をしなくても安心できる社会を目指す方針を伝えた今は違います。私達の資料の5枚目をご覧ください」


 それを聞いた参加者達は配られていたメディナ陣営の資料に目を向ける。

 資料には直近の通貨の流れがどうなっているのかを表すデータが記載されており、最近は政府支出が増えても貯金に回る通貨が減っている事が示されている。

 参加者がちゃんと見てくれているのを確認し、富楽は話を続ける。


「ご覧の通り、今回の政策以降、政府支出が増えているのに貯金に回る通貨は減少傾向にあります。大衆に回した通貨が貯金に回っていたのは、国民への説明不足と安心できる社会保障の不足によるもの。国民に貯金が政府の赤字になっている事を説明し、貯金を止めれる社会保障を進めれば、国民に通貨を流しても政府の赤字は増えないのです。そして、それは私達の政策で既に証明されているのです」


 とりあえずこれでランツの意見は完封した。

 ランツの意見は、通貨を増やし過ぎると通貨価値が下がってしまう、通貨を国民に流しても貯金に回るから経済効果が無いという二つの主張。富楽の策は、生産事業者にちゃんと流せば通貨価値は守られる、説明をしてから安心できる保障を用意すれば貯金に回らなくなるという政策。富楽が自身の策を実現した時点で、ランツは議論で富楽に勝つことが出来なくなっていたのだ。

 ランツはただ悔しそうに富楽を睨みつける事しか出来なかった。

 ランツが反論できない事を察した最高齢の有力者は、話しを先に進める。


「双方の主張はおおよそ分かりました。富楽殿の言う様に、今までの選択と集中の方針だと現場に通貨が流れておらず、このままだと領内の産業が失われてしまうという意見には概ね同意します。ですが、そちら側の資料に記載されている法人税の増税、これはどういう事ですか?通貨を流すべきだと言っておきながら、我々からはカネを取ろうというのはどういう事なのか、説明して頂けますかな?富楽殿」


 それを聞いたランツはすがりつく様に訴えかける。


「そ、そうだ。奴らはただ金持ちが恨めしいだけなんだ!だから皆に流すべきだと言っておきながら、その実富裕層を貧しくする事が本当の目的なのだ!」


 議論では勝てないと察して富楽の策を貶める方向に舵を切った様だ。

 そんな様子のランツに日和見有力者の面々は白けた表情を向ける。富裕層寄りの発言をしているものの、それ以上にみっともなさが目に付いてしまっている様だ。

 富楽はその質問も予想していましたと言わんばかりに冷静に答えていく。


「法人税を上げるのは通貨の流れを正常にするための措置です。法人税を上げる事で利益の独占に対して多くの課税がされる様にし、一部の人にだけ通貨が流れてしまうのを防ぎ、現場で働く人達にまで通貨が流れる様にする訳です。それに法人税増税は富裕層の方々も得をするものなんですよ」


「ほう」


 日和見有力者達は、富楽が何を言うのかと発言に注目する。


「法人税は企業の利益に課されているもので、人件費や設備費等を支払った後の残ったカネに課される税です。つまり、設備や人員にカネを流せば流すほど税負担が減る仕組みになっている。法人税がしっかりと課せられていれば、人材や設備にカネが流れる様になり、産業は守られます。しかし法人税が不十分であれば、人材や設備に流れるカネは減り、産業は失われる事になります。法人税とは、人材や設備にしっかりとお金を流している人達が損をしない様にするための制度。法人税を上げれば、結果的に産業の現場にカネが流れる様になり、通貨があれば色々な物を買えるという通貨の価値そのものが守られ、資本家である皆様の資産価値も守られる事になるのです」


 ここまで聞いた日和見有力者の一人、タレ目の有力者が反応を見せる。


「つまり、法人税減税によって我々が利益を独占する様になってしまっているとでも言いたいのかね?」


 日和見有力者の高圧的な言葉。続けてこれ見よがしにランツやエイマン陣営の有力者が富楽にブーイングを浴びせる。

 だが富楽はそれに動じる事なく冷静に答える。


「勘違いしないで頂きたいのですが、法人税減税は完全に政府側の責任、この件で資本家へ責任を追及する事はありません。そもそも皆様は非営利団体ではないのだから、自己の利益を追求は当然の行為。法人税を減税なんてしたら現場にカネを流さなくなるのは当たり前。そうならない様に法人税を課していたのに、それを減税してしまったのですから、メディナさんの責任と言わざるを得ません」


 ここは政治の舞台だ。誰が悪いのかではなく何が悪いのか、どの制度をどの様に改めるのかどの様に進めるのかを話し合う場だ。政治の舞台で悪者探しをした所で時間の無駄でしかないのだ。だからこそ最高責任者という者が居る。最高責任者とは、政治で起きた問題を自身の責任とする事で、責任のなすりつけ合いが起きない様にし、円滑に政策の議論が行われる様にするために居ると言っても過言ではない。

 責任の追及が無いと分かると有力者達は落ち着いた雰囲気に変わり、それを確認した富楽は説明を続ける。


「今回ペンブローク商品券の流通で証明した様に、経済の基盤は供給能力。供給能力を守り、成長させる事ができれば、その分通貨を増やす事だってできるんです。法人税の減税は、その肝心の供給能力を削ってしまうもの。だから法人税の増税をお願いしたいのです」


「つまり、法人税を増税させて産業の現場に通貨が流れる様にすれば、結果的に産業も成長し、追加の通貨発行だって可能になる。追加の通貨発行ができれば我々の利益にも繋がるのだから、今の利益の独占に繋がる方針を改めさせてほしいと」


「はい」


 タレ目の有力者の言葉に富楽が答えたその直後、ランツは慌てて言い放つ。


「皆さん、騙されてはいけません。資本家が利益の独占を止めれば結果的に儲かるなんて、そんなものは口だけの戯言、信用に値するものではありません。富楽の様な得体のしれない者の言う事じゃなく、私の様なしっかりとした身分の・・・」


 まくし立てようとするランツにスキンヘッドの有力者は釘を刺す様に言う。


「ランツ殿。今は政策の是非を語る時です。この場に立って話をしている以上、信じるか信じないかではなく、今のペンブローク領の問題は何なのか、どの様な政策が必要なのかを話して頂きたい。少なくとも、富楽殿は現状の問題は何なのか、どんな政策が必要なのかを説明してくれています。それに対しランツ殿、貴方はどうやって供給能力を維持するのか、国民が貯金をしなければならない状況で通貨を流すのかを説明できていない。私としては貴方の方が信用できなくなってしまいそうですよ」


 権威プロパガンダを振りかざす事しかできないランツに、日和見有力者の面々も呆れ顔。現状の問題の解決策も出せず、大衆を騙す能力も失われた事も露わになったランツは、もう御用学者としての評価を得る事はないだろう。

 ランツはただ悔しそうな表情を浮かべる事しか出来なかった。


「では、双方意見を出し切った様なので・・・」


 最高齢の有力者が会議を締めくくろうとしたその時、しびれを切らしたエイマンがランツを押しのけ言い放つ。


「待ってください!皆さんはこれまで、選択と集中の方針で利益を得ていたではありまんか。ワシらが選択と集中の方針を進めてきたからこそ、皆さんは政府が支出削減を決めた後でも稼ぐ事が出来ていたのですよ?それなのに、今更その方針を止めるおつもりか?」


 切羽詰まった様子で話すエイマンだったが、最高齢の有力者は冷静かつ冷徹に告げる。


「エイマン殿、我々は今まで何をしてきたかではなく、これからどうするのかを話し合うために集まっているのです。今までやってきた成果があるからと言って、これからの政策を歪めていい訳がありません。選択と集中の方針は、富楽殿が言う様にもはや限界が来ています。我々が求めているのは、そんな限界が来ている問題をどうするのかというものです。富楽殿はその問題に目を向け、対案を出しています。エイマン殿は選択と集中で発生している問題の解決策を提示する事はできますかな?」


 貫禄のある言葉で否定の意思を示されたエイマンは力が抜け落ち、その場に崩れる。日和見有力者の心は完全にエイマンを離れ、説得する様な策もない。エイマンの策は尽きたのだ。

 そんな敗北者の様相のエイマンにメディナは歩み寄り、手を差し伸べた。


「エイマンさん。今は貴方と私は対立する立場にいますが、私は貴方を倒したい訳ではありません。このペンブローク領を豊かにするため、私はエイマンさんにも協力してほしいのです」


 エイマンはメディナの顔を見上げて問う。


「協力?」


「はい。此度の選択と集中による格差の拡大は、元を辿れば中央政府が通貨の供給量を減らす事に決めたのが原因です。通貨の供給量が減らされる事が分かった貴方は、そんな中でどうやって稼ぐのかを考え、選択と集中による利益の獲得という策を思いついた。通貨供給を減らすなんて事が起きなければ、貴方は利益の独占なんて考えなかった筈です。だから、エイマンさんも私達の政策に協力して、政府の支出削減の方針を改めるのに協力してほしいのです。ここペンブローク領で実施している政策を成功させ、適切な通貨の流れを作れば通貨を増やしていける事を証明し、中央政府による通貨供給の削減という大本に対抗するために」


 メディナはエイマンに微笑みを向けた。

 メディナにもエイマンに色々と思う所があっただろう。自分の利益のためにメディナを傀儡にし、領民から富を吸い上げる様な政策を進めさせたのだ。報いを受けさせたいという気持ちもあるはずだ。だが、メディナはその気持ちを抑え、エイマンに和解を求めた。

 エイマンは考える。ここでメディナが勝つような事になれば、エイマンはペンブローク領での影響力を大きく失う事になるだろう。だが、ここで徹底抗戦しても勝ちの目はない。だったらここで和解に応じた方がマシか。

 そんな打算の元、エイマンはメディナの手を取り、和解の握手を交わした。


「分かりました。私も貴方の経済政策に協力します」


 悔しそうな顔を浮かべながらも、エイマンはメディナとの和解に応じた。決着だ。

 エイマンがメディナとの和解に応じた事で、今回の有力者会議は意味をなさなくなった。結果、有力者は全員がメディナ陣営に票を投じる事となり、メディナは領主を続けられる事となった。そしてペンブローク領では、資本家も庶民も一丸となって全体を豊かにする経済政策を進められる事が決まったのであった。

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