第14話 根回し
メディナがエイマンに対立の意思を見せたその日の夜。メディナは自身の屋敷で、富楽にエイマンとの会話の内容を伝えた。
その内容を聞いた富楽は、考えをまとめて語っていく。
「なるほどなるほど。向こうさんも相当焦ってるみたいだな」
「エイマンさんの方も求心力を失ってピンチだったなんて、私はなんだか複雑な気分です」
メディナからすれば、これから自分を利用していた強大な敵に立ち向かうといった意気込みだったのに、なぜか相手が勝手に弱体化していたのだ。喜べばいいのやら、呆れればいいのやら、何とも言えないといった感じだろう。
「そこは喜んどけばいいよ。相手が勝手に弱ってて困る事はないからな」
笑いながら話す富楽。それに対し、メディナは真剣な表情で今後の事に関して話を切り出す。
「で、これから次の有力者会議の対策を練るんですよね?」
「あぁ」
有力者会議。その名の通り、領内の有力者が集まって領の方針を決めるための会議だ。次の議題は勿論、メディナさんを辞めさせるか否かというものだろう。有力者会議の結果次第で、メディナさんは領主を辞めるか現在の方針を改めるかしなければならなくなる。ここで決着がつくと言っても過言ではないだろう。
続けて富楽は言う。
「とりあえず、有力者会議の前にある程度話しを通しておきたい。会合を行うから、メディナさんは協力的な有力者に出来るだけ声をかけておいてほしい」
メディナはフンスと気合いを入れる。
「根回しですね。分かりました」
こうして、富楽とメディナは自分達に協力的な有力者を集め話し合う事となった。
ペンブローク領の街にある役所、その一室でメディナとメディナに協力的な有力者は大きな机を囲む様に座っている。富楽は進行役だからなのか、一人だけ立って話をしていた。
「ここまでお話したのが現在の状況です」
富楽が現状の説明をし終えた所で、参加者の一人が口を開く。
「領の制度を歪めた者達の責任はどうするんだ?」
職人達の代表が責任の所在について言及した。これまで間違った政策の煽りを受けていたのだろう、その言葉からは強い憤りを感じる。
これまで景気悪化で苦しい思いをしてきたのは想像に難くない。悪政の責任を追及したいその気持ちも分かる。だが、それを認める訳にはいかないのだ。
「今回は有力者への責任の追及は行いません。ここで誰が悪いのかを追求しても、無駄に悪者探しに時間がかかり、経済を立て直すのが遅れるだけですから。責任の所在など、景気をよくしてからにすれば良いのです。今話すべきは、誰が悪いのかではなく、どの政策が悪いのか。正すべき制度の話に注力しましょう」
「ふぅむ」
職人達の代表は不満そうに唸る。分かってはいるが気に入らないといった感じか。
富楽は集まっている者達に十分に納得させるため、さらなる説明を始める。
「我々はこのペンブローク領の自傷行為を止めるために活動しています。通貨が国の血液だとすれば、権力者達は重要な臓器、労働者の様な生産事業者は手足と言った所か。そして少し前のペンブローク領は、重要な臓器である権力者が、手足である労働者に血液である通貨を流さず、手足が壊死しそうな状態だった。だから我々は領内で好き勝手やっていた権力者に対立しているし、ペンブローク商品券での応急処置も行ったのです。重要な臓器が手足を殺すのを防ぐためにね。ですから、手足である労働者が重要な臓器である権力者を攻撃しようと言うのなら、我々は止めなければならないのです。それをご理解頂きたい」
参加者一人が富楽の説明に答える。
「つまり、ペンブローク領の仲間同士で奪い合い、攻撃し合うのを止める事が目的なので、資本家の味方だとか、労働者の味方だとかではないという事ですな?」
「はい。次の有力者会議では、資本家系の有力者達にこちらの味方になってくれる様に話を進めていく予定です。皆様には、資本家系の有力者達にこちら側についた方が得である事と、エイマンさんの側についていると損をする事を伝えるのに協力してほしいのです」
富楽の説明が終わると、参加者の一人が代表して宣言する。
「分かりました。相手の非を責める様な発言は控え、こちらについた場合の利点を強調する事としましょう」
ここに集まっている人達は組織の代表する様な人が多く、ここペンブローク領の問題を本気でどうにかしたいと考えている人が集まっている。目的が一致し、やる気のも知識もある人達が集まっているからか、話し合いはとてもスムーズに進める事ができた。
事前の情報共有が終わり、最後にメディナは締めの言葉を放つ。
「それでは、このペンブローク領の経済を立て直すため、必ず支持を勝ち取りましょう」
集まっている者達は静かに頷いた。
富楽とメディナ、そしてペンブローク領の経済を立て直すために集まった一部の有力者達は意思を一つにし、次の有力者会議に赴くのだった。




