第8話 愛は呪いにもなる
メイド達が、豪華な食事を運び、部屋の真ん中にある円卓のテーブルの上に並べて行く。
お母様と妹と3人で食事についた。
楽しかった。
本当に、楽しかった。
だけど、終わらないものなんてない。
それは、当たり前のことだ。
――――――
また少しだけ、この世界の話をしよう。
この世界には、火、水、土、風、光、聖の精霊がいるとされている。
光の精霊は王国を、聖の精霊は教会を、他の精霊は特級貴族を祝福する。光と聖の属性は近く、兄弟の様な繋がりだと考えられている。
火の精霊は、ブロード家を。
水の精霊は、オーシャン家を。
土の精霊は、エルデ家を。
風の精霊は、ミラージュ家を。
精霊は血によって引き継がれる。血によってしか引き継がれない。精霊の加護が与えられるのは、直系ただ一人だけ。そうやって千年間、受け継がれてきた。
特級貴族の直系は精霊により加護を与えられ、他の貴族達は特級貴族の直系と契約することにより、その力の恩恵を得ることができる。
直系が精霊に認められず、途絶えた家もあるらしい。
そのため、特級貴族は魔力の高い者を引き入れ、たくさんの妻を娶る。母のように、魔力の低い者を妻に選び、しかもただ一人だけと言うのは論外である。平民を妻にし、他の縁談を全て断る等、当然――猛反対された。しかし、聞く耳を持たず、反対するもの全てを屋敷から追い出した。
普段の母を知っている者には信じられないエピソードかもしれない。
母は全ての貴族の中でも、飛び抜けて高い魔力の持ち主。今世の最強の精霊使いとも言われている。
そのため、妻に先立たれた後、母には再びたくさんの縁談の話が舞い込んだ。しかし、全て断っている。それに苛立った親族がこの屋敷に乗り込み、私と妹に向けた視線を今だに覚えている。
「魔力のない妻と出来た子供など、ただの絞りカスだ。精霊様に認められる訳がない!」
そう言い放った親族は、母によって火炙りとされ――半殺しにされた。
初めて嗅ぐ、死へと誘〈いざな〉う匂い。
初めて聞く、断末魔。
怒ったことのない母の、憎しみの顔。
恐怖で震えた。
妹の泣き叫ぶ声を聞き、母は魔法を止めた。
母は泣いて私達を抱きしめる。
「愛しているの」
と、うわごとのように繰り返す。
この出来事は、私たち姉妹にとってひとつの呪いとなる。
そしてこの後、ひとつの大きな事件が起きた。
だけど今は――何も、思い出したくない。




