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第6話 きっと私は私じゃない

 前の世界で私は17年間生き、その記憶をこの世界で15年生きて思い出した。

 

 そうなると、私の年齢は17歳となるのか? やはり変わらず15歳のままなのか――それとも17+15の年になるのか、私にはよくわからない。


 正直5歳より前の記憶はおぼろげなため、12+10が正解なのかもしれない。いやいや違う、12+15が正解のはずだ!


 どちらにせよ私、めちゃくちゃ大人じゃないか!


 だけど、15歳のままの――私な気がする。


 だって――前世の記憶を取り戻しても、違和感しかない。今の私と昔の私は違う人間のように感じる。


 けれど――趣味とか、考え方とか、見た目とか、似ている部分も確かにある。だから、他人とも思えない。


 だからなのか分からないけれど、昔と今の価値観に頭を悩ませたりもする。


 昔と、今の自分が違う人間だと思いながらも――ふとした瞬間、どっちの私なのか分からなくなりそうな気がして――少し、怖くもある。

 

 頭の中に、もう一人別の誰かが存在している。その人は、他人とも思えない――そんな、誰か。

 


 

 * * *



 

 目が覚めて見えた天井は薄暗い。

 

「起きたのかしら?」

 

 私は声のする方へと視線を向ける。

 

「おはよう、と言うには遅すぎるかしら?」

「お母様!」

 

 私は飛び起きて、母を眺める。

 

「どうしてここに、今日は帰ってこれないんじゃ……」

「これでも頑張ったのよ。少しでもあなた達の誕生日を祝いたかったから」

 

 お母様は優しく笑い、私の頭を撫でた。


 これは違う、これは――昔の私じゃなくて、今の私の感情でもない。だってそうでしょ? 母親に頭を撫でられ、こんな感情になるには、あまりにも幼すぎる。


 きっと――今と昔が混ざり合って、不安定になっているのだ。


 だから、こんな私は――私じゃない。


 15歳の私より幼い自分が、顔を出し始めた。

 

「大変だったわね」


 と、母が言った。


「でも、あなたは頑張った。偉かったわ」

 

 その言葉に、止めかけた感情が溢れ出す。

 母は何も言わず私の頭を抱き締めてくれた。

 どんなに口を塞いでも、感情が溢れて止まらない。


 彼女の苦しみが、私の心を押しつぶそうとする。



 私――。

 


 死にたくなんて、なかった。

 



 * * *



 

 部屋はすっかりと暗くなっていく。

 

 お母様は、落ち着いた私の頭を離すと、カーテンを閉め、魔法でランプに灯を灯した。

 

「ごめんなさい」

「何を言っているの、あなたは私の子供なんだから、そんなこと、気にしなくていいのよ」

「うん、ありがとう」

「お腹は減ったかしら?」

「そりゃーそうだよ、だって、朝からまともに食事していないし」

「それじゃあ、ここに食事を運ばせましょう」

「え? 別にもう身体はなんともないけど?」

「だめよ、今日は安静にしてなさい」

「えー」


 今日はせっかくの誕生日なのにぃ。


「可愛く頬を膨らませても、駄目なものな駄目よ」

 

 お母様は魔法で銀のベルを取り出し、音を鳴らした。

 

「メイド長、レナの部屋に料理を運んでいただけるかしら?」

 

 魔法のベルは、任意の相手にベルの音だけでなく使用者の声まで届けることができる。

 

「了解――後、1時間くらいで持って来るそうよ」

 

 メイド長から返答が返って来たのだろう。

 

 魔法のベルは魔法道具であり、本体があれば魔力がほとんどない人間でも範囲内なら誰でも使用できる。私の部屋にも私用のベルがあり、普段はそれでカトレアとやり取りをしている。

 

「私は一度、ラナの方に顔をだすけれど、大丈夫かしら?」

「大丈夫だから」

「本当に?」

 

 お母様はいたずらっ子のように笑い、私の目元を指でなぞっていく。

 

「お母様!」

「うふふ、ごめんなさいね」

 

 お母様は指で口元を隠すと、そそくさと部屋を出ていった。

 

 私はため息を吐くと、ベットから起き上がった。そして、部屋の片隅にある鏡に自分の姿を映す。

 

 黒髪黒目のこの顔は、前の世界の15 歳の頃の姿と特に変わらない。違う所といえば、腰まで伸びた髪と、めちゃくちゃひらひらした白いワンピースパジャマを着る自分の姿ぐらいか。

 

 いいオイルを使っているせいか、やたらつやつやで綺麗な髪なのだが、正直うざい。


 前の世界みたいにあごラインまでばっさりと切ってしまいたい。が、そんなことをすれば、母の悲しい顔をみることになる。私を産んだ母と同じ姿を求められるのは、どこか重苦しさを感じる。

 

 私は頭を振り、気持ちを切り替えた。スカートの裾を摘んで少し上げる。ゆったりとしており、着心地がいい。フリルやレースがたくさんついており、可愛らしいデザイン。


 しかし、自分の顔と比べると、服に負けた気がする。だって、優雅で可愛いすぎるんだもん! そう、この服が悪いんです! まぁ、超絶美少女の妹だと、完全に着こなしてしまうんですけどね!

 

 私は自分の頬をふにふにと動かす。前の世界ではよく可愛いと言われていた。別に、そんなことありませんけど? といった顔をしながらも、多少なりとも良い顔である自覚を持っていた。

 

 今は超絶美女と超絶美少女の母と妹に囲まれた生活をしているため、例え周りから可愛いと言われようがまったくもって頷くことなどできない。

 

 でも、それで良かったと思う。もし、自分と妹の顔が逆だった場合、鏡の中でしか愛でることが出来なくなってしまう。そんなの、嫌すぎる!

 

 私はやっぱり、見る専門。妹の百合百合に満ちた映像を、早くこの目に焼き付けたいものだ。


 だけど――私から離れていく、妹の姿を想像すると――なんだか、モヤモヤしてしまう。


 本当、自分でも訳がわからない感情だよ――こんなの。

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