第40話 私は罪深い女?
「ここ――アリシア様のお部屋ですよね?」
と、私は尋ねる。
「ええ、そうですよ」
「えっと、何で私――ここで、寝てるんですかね?」
「レナ様は、何処まで記憶があるのですか?」
「何処まで……」
私は、記憶を遡る。
……。
……あ。
あぁ!
「わ、私、確か、お母様を分からせるって決意して、それでメリエーヌ様に杖を向けられて、それで――」
それで――どうなった?
まさか、あれで気を失ったのか?
では、あの決意はなんだったのだ!?
うおぉぉぉ。
私は、頭を抱え込む。
「記憶は――ラウラ様と戦った記憶はないのですか?」
「え? お母様と戦ったの?」
誰だ、そんな無謀なことをしたのは。
あ、私か。
全く、記憶にはございませんが。
「はい、レナ様はラウラ様と戦われました」
「それで、気絶させられたの?」
全く、痛みはないけど、記憶が飛ぶぐらいやられたのか?
それって、やばくない?
もしかして……お母様、激おこ?
想像して、身震いした。
「いえ、気絶したわけではないみたいです」
「あ――そう、なんですか」
では、なんで私は倒れたのだろうか?
「レナ様は五年後の姿となり、ラウラ様と戦い、ラウラ様を認めさせました」
「え! ……そう、なんだ」
正直、実感がわかない。
「格好良かったですよ、レナ様」
アリシア様にそんなことを言われてしまうと、気恥ずかしくなる。
「何を照れているのですか、姉様は」
「う、うるさい」
妹はむすっとした顔。そして何故か、カトレアまで。
「本当、レナ様は愛されていますね」
アリシア様は、くすくすと笑われる。
「これはわたくしも、うかうかしてはおられませんね」
「え? それは――」
どういう、意味?
* * *
どうやら私、3時間も眠り続けていたらしい。
申し訳なさ過ぎて、私は姫様に謝罪した。
すると、何故か頬を膨らました。
一体、何故?
「レナ様にそんなことで謝罪を受けてしまわれると、とても悲しくなります」
私は困惑し、なんと返事を返したものかと悩んでしまう。
「えっと――その、すみません」
「ですから、謝罪は必要ありません」
「え? あ――はい。そう、ですね、うん」
私は訳が分からないまま、取りあえず頷いておく。
姫様はあまり納得がいっていない感じだったけど――取りあえず、セリアルとデルタの方へと顔を向けた。そして、彼女たちにも謝罪する。
デルタは笑顔で、「全然大丈夫だよー」と言ってくれた。
だけどセリアルは、私の顔を見て何故か不敵な笑みを浮かべる。
「別に構わないわよ。だってあんたは、いずれこの私の義妹となるんだから」
「? どういう意味?」
なんで、セリアルが私の義姉となるのだ?
もしそんなことになってしまえば、ものすごくめんどくさいことになる気がする。
なんかこう――びしばしとしごかれてしまいそうだ。
「本当に鈍いわね、あんたも。私とラナが結婚したらあんたは――いや、違うのか。あんたが私の義姉となるわけ……ね」
と言って、何故かセリアルは顎に手を置き、少し考え込む。
「いや、ありえないわ。あんたが私の義姉とかありえないわよ。だからやっぱりあんたは、私の義妹ね。これは決定事項よ」
と、腕を組み偉そうに言葉を吐いた。
ラナはげんなりとした顔。
そして、マーガレットとデルタからは黒いオーラが滲みだしていた。
なんともいえない空気となる。
そんな中――手を、ぱちん、と叩く音がした。
視線を向けると、両手を合わせた笑顔のアリシア様。
「それではわたくし、陛下にレナ様が目覚めたこと、お伝えしてきますね」
そう言って、アリシア様はベットの上から降りられると、皆の顔を見回した。
「あ、いや、そんなの――私たちが報告してきますから!」
と、セリアルだけでなく、デルタまで急に焦りだした。
「いえ、構いませんよ?」
「い、いや、そんなの、私たちが構いますから!」
「せ、セリアルちゃん、私たちで報告に行きましょ」
デルタが、セリアルの服を掴んで引っ張る。
「そ、そうよ、そのとおりよ、デルタ。あんた、いいこと言ったわ!」
セリアルはデルタの顔を見て、何度も頷く。
「そ、それでは、私たち――今すぐ、報告に行ってまいりますから!」
「王女様、失礼いたします!」
「いえ、わたくしが――」
アリシア様の言葉を最期まで聞かず、二人は焦った感じで部屋から出ていった。
二人の様子を見て思う。
やっぱりアリシア様って――。
「お姫様なんですね」
と、私は感慨深く呟いた。
「それにしても、なんであの二人――急に畏まったんだろ? さっきまで、姫様の前であんだけ普通にしゃべっていたというのに」
「そんなことありませんわよ。レナお嬢様が起きられるまであの二人、かなりかしこまっておられましたもの」
と、マーガレット。
「ふーん、そうなんだ」
「きっと、姉様が起きたから気が緩んだんじゃないですかね?」
「ふむふむ、なるほど。それで、さきほど我に返った訳だ」
「つまり、姉様のせいですね」
「なんで、そうなる」
と、私は軽快に突っ込んだ。
「レナ様……」
と、アリシア様に名前を呼ばれる。
あれ? 何だろ?
ジト目を向けられている気がする。
「……レナ様に、姫様って呼ばれると――何だか、距離を置かれた気が致します」
と、アリシア様は何故か拗ねた子供のように言った。
その姿を見て、なんだか可愛いなぁーと思ってしまった私は、不敬罪かもしれない。




