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百合好き転生令嬢は、黒髪に生まれたことで親族たちから疎まれていますが、念願通り百合に囲まれ今日も幸せです  作者: tataku


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第38話 決着

 お母様の炎は龍の形となり、彼女の周りをぐるぐると回転する。


 5年後の私は、お母様の戦闘スタイルをある程度は把握している。どのような場面でそれを知ったのかはわからないけど。


 だからまぁ、私のほうがかなり有利だと思う。


 だってお母様は、私がなんの魔法を使うのかも分かっていないのだから。

 


 距離としては――4m以上。

 


 お母様から動く気配はない。彼女は、近距離、中距離、遠距離、【攻撃】【防御】ともに全て対応可能なオールラウンダータイプ。


 それに比べて、私は完全な近距離タイプ。


 だから、距離を離したのはあまりいい対応ではないけれど、流石にあの魔力の濃度に当てられては、条件反射的に距離を取ってしまうのは仕方がない話だと思う。


 まぁ――距離をつめるのには自身がある訳だし、特に問題には感じていない訳だけど。

 

 

 それにしても、向こうから仕掛けてくる気配がない。

 

 お母様なら軽くジャブを打つ方法など幾らでもある。なのに、完全に受け身なのは舐められているから?


 例えそうだったとしても、特に悔しい感情とはならない。むしろそうなるだろうとは思っていたし、正直――本気になられても困る。

 


 私は精霊印とパスを繋げると、そこから流れてくるマナと魔力を循環させた。


 そして、自分だけが――世界の一歩先へと足を踏み入れる。


 二秒先、三秒先へと、私は自分の身体を移動させて行く。


 時は私を束縛せず、少しの間――私は世界から切り離される。


 世界は、何も変わらない。


 私だけが、時間を自由に行き来する。

 


 距離を1mまで縮めたところ、彼女は反応した。向こうからしたら、瞬間移動したようなものだ。


 炎の龍が私へと迫ってきたので、別の時間軸へと吹っ飛ばした。


 基本的に私は、実際に触れたものにしか現象を引き起こせない。


 だから、触れた指先に魔力を集中させていたのに、ごっそりと力を剥ぎ取られた。


 正直、舌打ちを打ちたいレベル。


 相変わらずとんでもない魔力だ。


 これでも、あの人は間違いなく――魔力の出力を減らしている。


 本当――末恐ろしい人。


 だけどまぁ、今は余計なことを考えている余分はない。だって、お母様は既に私を認識している。

 


 すぐに距離を詰め、彼女の身体に触れた瞬間――手が弾かれる。どころか、体ごと吹き飛ばされた。


 魔力と魔力の衝突。


 私だけでなく、お母様も後ろへと身体が弾け飛ばされる。

 


 取りあえずは引き分け――のように見えるかもだけど――私の魔力をお母様の中に潜り込ませることには成功している。


 後は、それを気づかれないようにするだけだ。


「なるほど――」


 と、お母様はぽつりと呟く。


「確かに、時を司る大精霊に相応しい力ね」

「納得してくれた?」

「――だけど、魔法の効果範囲は狭そうね」

「そう思わせているだけかもよ?」


 私の言葉に、お母様は笑みを浮かべると――後ろへと大きく飛び、距離を離すと、空中にいくつもの炎を形成する。そしてそれを、弾丸のように飛ばしてきた。


 だが、私に触れた瞬間――それらは別の時間軸へと消えていく。


 私は再び数秒先の自分と現在の自分を繋いだ。


「悪いけど、こんな狭い結界の中だと――私の方が有利かもね」


 私はお母様の後ろへと移動し、手を伸ばした。


 だけど、私とお母様の間に炎が噴出し、それは壁となる。火は揺らめき、勢いが増すと、燃え広がっていく。


 少し悩んだが、触れることなく後ろへと飛び退くことにした、。火が私を追いかけるが、5mほど離れた場所で炎の行進が停止した。

 

 お母様の周りは火の海となっており、彼女を守るかのようにゆらゆらと揺れている。


「不思議なものね、同じ顔なのに――まったく違う」

「そりゃーそうだよ。だって、魂が違う」

「……」

「誰一人、レオナお母様の代わりになんてなれない」

「あなたを――レオナの代わりだと、思ったことなんてないわ」

「本当に?」

「その――つもり、なのだけどね」


 お母様は、苦笑する。


「あなたにとっては、違うのかしら?」


 一瞬、躊躇する。


 だけど、私は言葉にした。

 

「私は――レオナお母様と比べられている気がして、何処か息苦しくもあったよ」


 それはずっと、胸に秘めていたこと。


「だけど、勘違いしないでよ。それでも、私はお母様のことが大好きだから」

「私も――私も、レナのことが大好きよ。確かに、あなたの面影にレオナを求めてしまっていたのかもしれない。でも――二人の子供として、あなたのことを愛している。レナはレナとして、私の中にいるわ。それは誰一人、代わることのできない――特別なあなたよ」

「それは、とてもうれしい言葉だね」


 何処か、胸がすく思い。


 だけど――。


「今の私は――私のことが大嫌いだったよ」


 私は笑う。


 少しだけ、自嘲気味に。


「だけどね、5年後の私は――私を好きだと胸を張って言える。だって、私を好きだと言ってくれる人が側にいて、その人のために頑張れる私を知ったんだから」


 そんな彼女がいてくれるから、私は私のことを好きだと、胸を張って言える。


「それは多分、お母様が私を信じて――私を送り出してくれたから」


 そう言って、私は一歩――前へと足を踏み出す。


「だから、ありがとう」


 お母様を守るようにして揺らめく炎に手を触れ、魔力を流し込む。


 そして、彼女の中に残した時の魔力を発動させると、彼女の魔力が停止した。

 


 その瞬間、炎が消える。

 


 私はすぐに彼女の前まで身体を移動させた。


 私は笑みを浮かべる。


 多分、とびっきりの笑顔を。


 そして、彼女の頬をつまんだ。

 


「はい、これで私の勝ちだから」

 


 目を大きく、見開いている。


「文句は、聞かないからね、お母様」


 その言葉で――小さく、笑う。

 


 間。

 


「――そうね、私の負けだわ。レナ」

 


 その言葉と共に、結界が消えた。

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