第33話 パーティー
アリシア様がやってきた。
昨日と同じ、姫騎士風の格好。
今日もドレスでないんかい!
まぁ、姫騎士風のアリシア様――とても素敵ですけどね!
妹がカーテシーで丁寧に挨拶したため、私もそれに倣った。
いやいや――この私がカーテシーで挨拶とか、キモくないですか?
「本当におふたりとも、花の妖精のようにお美しいです。その髪型も、とても素敵ですね」
と、歯が浮くようなセリフを、アリシア様は笑顔で仰った。
こ、この人、絶対に女たらしだ!
て、敵だ、この――女の敵!
「カトレアさんに、マーガレットさんも、よろしくお願い致します」
と、メイドのふたりにもアリシア様は丁寧に挨拶をした。
初めの日に、一度自己紹介しただけ。それなのに、名前をちゃんと覚えているとは。
流石だなぁと、私は感心してしまう。
初め、アリシア様はメイドにまで様をつけたため、ふたりが軽くパニックになったのは、中々に面白かった。
まぁ、あん時は私も少しビビってはいたんだけども。
それにしても、マーガレットは上級貴族出身のためか、初日と違い落ち着いて挨拶を返した。緊張しているのは伝わってくるが、それでも完璧に決めて見せる。
これは――うん、面白くない!
それと比べて、カトレアは最高だ。
何せ彼女は、お姫様を前にして――しどろもどろに挨拶を返したから。
うん、可愛い!
* * *
パーティは、お城の大広間で行うとのこと。
アリシア様を先頭にして、私たちは歩き出す。
その道のり、メイドふたりがめちゃくちゃ緊張しているのがよく伝わってくる。
でも、仕方がない。だって、メイドの失態は主人の失態となる訳なんだから、ふたりはどうしても気を張ってしまうものだ。私が彼女たちの立場だったなら、同じようになっていたと思うし。
それに、一国のお姫様がこんなにも美しいのだ。緊張しない方がおかしい。
そのことをアリシア様も認識しているからか、気を使って声をかけている。だけど残念ながら、会話らしい会話とはならない。
本当は、私かラナがうまくこの場を和ませるべきなのだろうけど、お互いにそのような才能はない。
なので、大した盛り上がりのないまま大広間へと到着した。
複雑な模様が刻まれた大きな扉。
兵士の方々が頭を下げると、扉が開かれた。
部屋の真ん中にある――赤のカーペットでできたメイン通路の向こうには、謁見の間と同じように低い階段があり、立派な椅子に座った女王様と、その隣に立つメリナさん。
その階段の前には、お母様とメイド長――だけでなく、特級貴族の当主たちが並んでいる。
これはもう、とんでもないプレッシャーだ。
メイン通路の両隣には、サイドテーブルがいくつも置かれており、その上には各種オードブルやデザートなどがあり、貴族たちが自由に取れる形となっている。
中には既に、たくさんの貴婦人の方々。
皆が一斉にこちらへと視線を向ける。
目。
たくさんの目。
アリシア様は入口の前で、丁寧にお辞儀をした。
すると、拍手が起こる。
女王様は椅子から立ち上がり、大きく頷かれた。
再び、アリシア様が歩き出す。
私とラナは互いに視線を送り、頷き合うと――共に足を踏み出した。
後ろを見ると、カトレアはカクカクとした動き。
うん、可愛い!
彼女のおかげで少しだけでも気が楽になった。
きっと皆も、カトレアを見て和むことだろう。
本当に、私のメイドは素晴らしい!
それにしても、話は変わるけども――マーガレットの緊張した姿って貴重だなぁと思う。カトレアと違って。
「陛下、おふたりを連れてまいりました」
アリシア様は階段から2mほど離れた場所で足を止め、頭を下げられる。
私たちも慌てて後に続いた。
「よい。今日は祝いの日なのだから」
アリシア様は顔を上げられると、こちらへと振り向き――左側へと移動した。
正直、流れが分からないから――内心、めちゃくちゃ焦ってます!
「固くなる必要はない。何せ、本日の主役はお前たちなのだからな」
女王様は私たちの方へと近づき、目の前までやってきた。
「ふたりとも、右手を前に」
私とラナは、おずおずと言われた通りにすると、女王様も私たちの方へと手を前に出した。
「アウレリウス家当主が、お前たちを承認する」
その言葉とともに、印に光が走る。それは、私たちだけでなく女王様や、他の当主の方々も。
不思議な感覚がした。
温かく、そして――。
「これは、共鳴だ」
「共鳴?」
「そしてこれは、精霊たちの祝福でもある」
そうか、なるほどと、私は思った。
光が、徐々に小さくなり――消えた。
「どうか、お前たちに精霊の加護があらんことを」
女王様は優しげに微笑むと、私たち姉妹の頭に手を置いた。
その瞬間、周りから再び拍手が起こり「祝福あれ」と、声が上がる。
「堅苦しく、無駄な言葉を吐くつもりはない。それは、気を削ぐだけだからな。だから一言だけお前たちに伝えよう」
女王様は真剣な目つきで、私たちを見る。
「前も言ったが、強くなれ。それは誰のためでもなく、自分のために」
「は、はい!」
私と妹は、ほぼ同じタイミングで声を出した。
そんな私たちを見て、女王様は満足げに頷かれると、貴婦人の方々に視線を向ける。
「さぁ、無粋な話はこれで終わり。どうか皆様方、ごゆるりとお楽しみあれ!」
その言葉で、歓声が起こる。
そして、女王様は再び椅子に座った。
その瞬間――私たち姉妹の所に大量の貴婦人たちが集まってくる。
人。
人の波。
自己紹介が始まり、大量の名前が私の頭の中へと流れ込んでくる。
そして、顔を赤らめた令嬢たち。
耳に婚約の話が舞い込むたび、私の身体を硬くさせる。
気が遠くなりそうな自分を、何とか保つ。
時間。
時間が過ぎる。
どれだけの時間?
人波がさったとき、私の身体は脱力感に襲われた。
もしも、隣に妹がいなかったならば――私はこの場で倒れこんでしまったかもしれない。
妹の疲れきった笑みを見てしまうと、ついつい抱きしめたくなる。
まぁ、そんなことをしてしまえば、妹からはどつかれてしまうけども。
視線。
振り向くと、お母様の心配そうな顔。
目が合うと、慌てて顔を背けられた。
私、まだ怒っているんですからね! といった感じだ。
私は自分の頬を叩いて気合を入れた。
今日で――私は、お母様に認めさせないといけないのだ。
それならば、こんなところでまごついている訳にはいかない。
「レナ様」
声のする方へと顔を向けると、アリシア様と婆やさんがいた。
「私たちは一旦、失礼させていただきますね」
「え? なんで?」
アリシア様が隣にいないとか、めちゃくちゃ不安になるんですけど?
あぁ、駄目だ。
先程の決意が早くも鈍りそう。
「私たちは、メリエーヌ様を迎えにいかねばなりませんから」
わざわざ迎えにいかないといけないのか。
面倒なお師匠様だなぁ。
「レナ様! 可愛く、器量がよく、魔力の優れた嫁さんゲットですぞぉ!」
婆やさんの言葉に、私の顔が熱くなるのを感じる。
「ば、婆や」
アリシア様が、婆やさんをたしなめてくれる。
「レナ様」
と、アリシア様は私の名前を呼ぶ。
「その――手当たり次第は、止めたほうがよろしいかと思います」
と、人さし指を上に向け、私に突きつけてきた。
「そんなつもりは一切ありませんけども!」
と、私は必死に否定した。
 




