第31話 メイドたちがなんだか怖い
「二人共、落ち着きなさい。お嬢様方が困惑されていますから」
部屋へ入って来たメイド長が、まるで救世主のように見えた。
その救世主の言葉により、二人は私たちから離れ、佇まいを正した。しかし、どちらも不満げな顔を主人に向けている。
「えっと――カトレア、何かあった?」
何かあった――ですって! というような顔をした。
なので、ビビってしまう。ほんの少しだけどね!
「レナ様、ここに残るって――本当、ですか?」
カトレアの血走った目は急にしおらしくなると、目がうるうるとしだした。そして、口元をぎゅっとするような仕草がとても可愛い。
「本当、だよ」
私がそう言うと――カトレアの目に涙が溜まった。
あ、やべ。
そして――。
一瞬、悩んだ。
この涙は、どっちの意味なのかと。
私と離れるのが、悲しいからなのか――。
それとも、私のせいでこの王都に残らなければならないことを憂い、ブロード家の地に帰れないことを嘆いているのか――。
分からない。
分からないから、私は私の望みを口にすることにした。
「カトレア――勝手に決めて、ごめん」
私はそう言うと、ソファから立ち上がり、カトレアの前で足を止めた。
「でも、私を選んで欲しい」
「え?」
私の言葉を聞き、カトレアは驚いた顔をした。
「カトレアも、ここに残って――私の世話をして欲しい。だって――私の面倒なんて、カトレアにしか務まらないと思うから」
「私――ここに、残っていいんですか?」
「姫様にはもう、許可を貰ってる。だから――カトレアが、良ければ、だけど」
カトレアの目に溜まった涙が溢れたため、私はビクッと、してしまった。
「はい。私は――レナ様のお側にいたいです。あなたの隣が、私の居場所ですから」
その言葉で、私はめちゃくちゃじんときてしまった。
ああ、なんて良い子!
「か、カトレア」
私は感極まり、彼女の名前を呼ぶ。
「レナ様」
カトレアも、私の名前を呼び――しばらく、見つめ合った。
「ちょ、ちょっと……ここで、変な空気を出すのは止めて貰っていいですかね?」
妹が、不満げに口を開いた。
し、失礼な! っていうか、変な空気って何?
「ラナお嬢様――私は、必要ありませんの?」
マーガレットはラナに詰め寄り、不安そうな目で見つめる。
「そ、そんなことは、ないけど……」
珍しく、圧倒されていた。
「では、私が必要――と、言うことですわよね!」
マーガレットはさらに、ラナへと詰め寄った。
「そ、そうね、必要? だと、思うわ」
その言葉で、さらに詰め寄ろうとしたマーガレットの襟を、メイド長は掴んで引き止めた。
一応、マーガレットは上級貴族出身のため、本来ならありえない対応。(メイド長は下級貴族出身なので)
しかし、それが許されるのは、ある意味マーガレットの人徳のなせる業? なのかもしれない。
妹は少しだけ、びびっていた様子だったが、直ぐに気持ちを切り替えた。
「と、とりあえず、マーガレット。あなたは私と共に、ここへ残ってくれる――ということでいいのね?」
「ラナお嬢様、そんなの当然ですわ!」
「そう、ありがとう。マーガレット、これからも頼むわね」
妹は感謝の言葉を述べ、優しくほほ笑んだ。
「当然ですわ、ラナお嬢様。この私に、全てをお任せください」
そう言って、マーガレットは畏まった顔となる。
そして何故か、彼女の鼻から一雫の血が流れるのだった。
それを見て、ラナもカトレアも小さく悲鳴を上げた。




