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第3話 教会騎士はエロくて困る

 シスターサラが魔法で私の身体を確認し、問題ないが今日は絶対安静、とのことで――再びベッドの上に戻された。

 

「今日は誕生日で、まだ日が傾いてませんけど?」


 本当、ありえない。まじでありえないと思いますよ! 私はベッドの上で抗議をした。そう――それはまるで、圧政から立ち上がるヒーローのように。


 しかし――妹に睨みつけられ、振り上げた拳を下ろすことになる。だが皆さん、どうか勘違いしないで欲しい。これは私が情けないからではない、そう――これは、私が優しいからだ! 本当――姉の鏡だよ、私は。

 

「レナ様は今日、15 歳になられましたのよね?」

「そうだけど、よく知ってるね」

「それはもう、次期ブロード家の領主となるかもしれない御方ですもの。皆が知っていて当然のことですわ」

 

 なんか嫌だな、それ。

 

 私と妹は全く似ていない。だが、この世界ではすごく珍しい双子。それもよく知られているひとつの要因だろうと思う。

 

「明日が楽しみですわね」


 と、シスターサラは言った。

 

 この国の人間は、15歳の誕生日の翌日に、教会でひとつの儀式を行われる。


 体の中に眠る魔力を目覚めさせ、その子の魔力適性を見極める日。


 この世界は魔力至上主義。結果次第で私か妹、どちらかが次期領主候補となる――はずだ。魔力の質によっては、どちらもなれない可能性がある。

 

 正直な話、私は領主になりたいとは思わない。のんびりな百合スローライフ生活こそが、私の夢だからだ。

 

「先ほど、レナ様の身体の中を隅々まで見させて頂きましたが――」

 

 言い方までいちいちエロイなぁ、こいつは!

 

「明日は凄い結果になるかもしれませんわね」

 

 何故か小声で、私の耳元に話しかけてくる。息が耳たぶに触れ、少し身震いした。

 

 私から体を離し、妖艶な笑みを浮かべやがる。

 

 本当――エロイなぁ、こいつは!

 

「それでは、失礼致しますわ」

 

 シスターサラはカーテシーで挨拶をした。

 

 つい、下の方をガン見してしまう。でも、見えなかった!

 

 私が感謝の言葉を告げると、シスターサラは軽く頷き、妹とメイド長に挨拶をした。


 部屋の扉を開けると、シスターが数人ほどお見えになった。彼女たちは重々しく頭を下げる。家のメイド数人も私の方を見て頭を下げ、一緒に部屋を出ていった。


 私、本当に色んな人間に迷惑をかけたらしい。反省はするけど、きっとすぐに忘れてしまうだろう。それが私なのだ!


 ――そう、ありたい。


 そういう私でありたいのだ。私は意外と気にしぃで、色々考えて、中々寝付けなくなる傾向がある。

 

 前世の私は違う。辛いことだってあったのに、挫けず、前ばかりを見ていた。周りから馬鹿にされようとも、必死に生きた彼女の人生は――私には眩し過ぎる。だけどどこか悔しくて、馬鹿だ間抜けだと――揶揄したくなる。


 彼女は――この屋敷の中でしか騒げない、今の私とは違う。正直、別人の記憶だと言われたほうが、まだ納得するし、そうであって欲しいと思う。彼女はあの世界で、今も元気に生きている。そう――あるべきなんだ。

 

「それでは姉様、絶対安静にしていてくださいよ。せめて、今日ぐらいは」

 

 刺々しい言葉を残して、妹は自分のメイドを引き連れて部屋から出ていった。

 

 メイド長が頭を下げる。彼女と共に他のメイドたちも部屋から出ていこうとしたため、私がいたずらをし――迷惑をかけたカトレアだけは、残るように伝えた。

 

 みんなが出ていったのを確認した後、カトレアの方に視線を向ける。私はベッドの上で、上体を起こした状態で彼女を眺めた。


 頭が項垂れており、顔がよく見えない。距離がいつもと比べてかなり離れている。

 

「カトレア、いつものように――近づいて貰ってもいいかな?」

「は、はい」

 

 声が震えている。今にも倒れてしまいそうな歩き方で、すぐに足が止まった。やはりいつもよりかなり距離がある。


 失礼だとは思いつつも、少しだけ顔を覗いた。カトレアの目はまだ赤く、鼻水が垂れる。カトレアは顔も赤くし、ハンカチで慌てて鼻を拭った。

 

 私が笑うと、カトレアは頭をさらに項垂れさせた。いつもなら子犬のように怒って、私を萌えさせるのに。

 

 彼女は私より2つ年上で、背は私より小さく、150cm。しかし胸は中々に大きく、体の線は細い。人によっては、最高にえろい身体。だけど、子犬感が全体的に漂っており、シスターサラのような色気はまったくない。それなのに、無性に触りたくなってしまう。そんな不思議な魅力があり、ついついチョメチョメないたずらをしてしまう。

 

 あ、別にエロい感情からではなく、親愛の感情による行動です!

 

 カトレアは、二重の大きな目をしており、瞳がいつもうるうるしている感じで、犬っぽくてついついいじめたくなってしまう。薄いピンク色のくせ毛を、私がプレゼントした黒い大きなリボンでポニーテールにしている。それは私の趣味だ。まるで犬の尻尾のようで、かなり可愛い。だけど、今日はそのしっぽが小刻みに震えている。

 

 私はカトレアのことが大好きだ。妹は何人ものメイドに世話をさせているが、私は数年前からカトレアただ一人だけ。彼女以外に身の回りの世話をさせたいとは絶対に思わない。

 

 他のメイドは下級貴族の出だが、カトレアは元々奴隷の身であり、私の気まぐれで買った存在。


 ふふふ。


 私は――認めよう、私は最低な奴だと!


 奴隷の子を、気まぐれで買うとか――本当、屑ですね!


 だけど私は――彼女を家族として大事に思っているし、対等の立場だと考えている。しかし、実際はそうじゃないのかもしれない。


 本当――私のせいで迷惑をかけた。もう私の世話はしたくないと思われても仕方がない。私はよく、カトレアを怒らせてしまうから。


 だから、きっと妹のほうがいいだろうし、妹なら私なんかよりもカトレアのことを大事にしてくれる。次期領主になるのも妹なわけだし――全てのメイドが、私なんかより妹の方がいいと、そう思っているはずだ。

 

 ブロード家は皆赤い髪で生まれ、赤みが強ければ強いほど、精霊に愛された証となる。そんな中、私1人が黒髪で生まれた。親類から疎まれる私なんかより、妹を選ぶのは当然の話。

 

 私はベッドから起き上がり、彼女の前に立つと、カトレアは顔を上げてくれた。


 今にも、泣き出してしまいそうだ。

 

「ごめん」

 

 私はカトレアに頭を下げた。それで許されると感じたからじゃない――そんなの、自分のためだ。

 

「な、なんでレナ様が謝るんですか!? 謝るのはわたしのほうです! 私が追いかけなければ、こんなことには――」

「追いかけられるようなことをしたのは、私の方だよ」

 

 私は顔を上げ、カトレアを見つめる。彼女の目に涙が溢れかけた。

 

「いつだって私は、カトレアを困らしてばっかりだ。もしカトレアも、妹のほうがいいって言うのなら、私の担当を外れてくれてもいい」

 

 カトレアの目に溜まった涙が溢れてしまう。


 又、泣かした。


 言い方が卑怯だったか? 外れてもいい、ではなく、外れてくれと言うべきだった。私がそう言えば、カトレアはなんの憂いもなく、妹のために働けるのだから。


 カトレアは、震える足で私の方へと近づき、震える手で――私の服を掴んだ。

 

「レ、レナ様、ごめんなさい……。な、何でもしますから。だ、だから……私を、捨てないで、ください」

 

 カトレアは私の服を引っ張り、わんわん泣き出してしまった。そのため、私はかなり戸惑ってしまう。


 ど、どうしたらいい!?

 

「ち、違うよ。捨てるんじゃないよ? 妹にまかせるんだよ? そっちのほうが全然待遇いいし、仕事だって楽になるんだよ?」

「捨てるんじゃないですかぁ! 私なんてもういらないんだぁ!」

 

 余計ひどくなった。


 自分の両手が空中に彷徨い、行き場を見失う。


 誰か――。

 

 誰か、助けてくれ!

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