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百合好き転生令嬢は、黒髪に生まれたことで親族たちから疎まれていますが、念願通り百合に囲まれ今日も幸せです  作者: tataku


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第28話 メリエーヌ様は時間感覚がおかしい

「……早くてもあと、一時間はあのままでしょうなぁ」


 と、婆やさんがメリエーヌ様の方に視線を向けたまま、ため息を吐いた。


「え? でも、あとちょっとって言ってましたけど?」

「メリエーヌ様にとっては、一時間などほんのちょっとの話ですからのぉ」


 え? 何々、どういうこと?

 

「メリエーヌ様は悠久の時を生きる方ですので、時間感覚が我々とは少しだけ違うのです」


 と、アリシア様が答えた。

 

「あと少しと言われ、数日も待たされたことがありますのぉ。そのことについて文句を言ったら、何を言ってんの? って顔をされましたぞ!」


 婆やさんは悔しさをにじませ、今にも地団駄を踏みそうだ。


「でもそれ、少しってレベルじゃないですよね?」


 私の言葉に、婆やさんは目を輝かせ、アリシア様はギョッとした顔をされた。


「おぉ、流石はレナ様。レナ様ぐらいですぞ、儂に共感していただけるお人はぁ!」

「え? そうなんですか?」

「そうなのですぞ。誰もがメリエーヌ様に気を使い、正直になろうとしないですからのぉ」

「ば、婆や……」


 アリシア様が、少し焦った顔になった。


「何? 悪口?」


 綺麗な声が脳を震わせ、身震いした。


 メリエーヌ様が、大きな本を抱えてこちらに向かってくる。


 妹はふらつきながらも私の背中までやってきた。そして私の腰辺りを掴むと、服を軽く引っ張った。これはおそらく、無意識での行動。下手に話しかけたら、直ぐに私から離れてしまうだろう。だから私は、気づかないふり。


 アリシア様がほんの少しだけ、悔しそうな顔を私に向けてきた。多分、ラナが自分ではなく、私を頼ったことが悔しいのだろう。目が合うと、直ぐに視線を逸らされた。


 ふふふふふ。


 これはもう、仕方がない話なのだよ――アリシア様。


 なんせ、私の方がお姉様だからね!


 ふふっ――。


 あーっはっはっはっはぁ!


 と、笑い出したい気分。


 まぁ、私は大人なので我慢するんだけども。


「悪口などとんでもない。儂は、事実をありのまま伝えているだけですぞ」

「そう? なら、別にいいわ」


 いいんだ。


 めちゃくちゃ私怨を感じたんだけど。


 メリエーヌ様は、急に私の方へと体ごと向けてきた。そのため、ビクッとしてしまった。


 冷や汗が流れ落ちてしまいそうだ。


 さっきから――ジッ、と見つめられる。


 長い。


 無言で眺める時間が、明らかに長い!


 無表情なのに、何だか目力が強すぎて――ちょっとたじろいでしまう。


 妹の――私の服を掴む力が強まった。


 い、妹が、私を頼りにしているのだ。だからこれはもう――負けられない戦いなのだよ!


 私はメリエーヌ様に対抗し、見つめ返すが、数十秒で耐えきれなくなる。


 意地でも顔は動かさなかったが、徐々に視線が逸れていく。


 そんな中、メリエーヌ様が足を前に踏み出し、ゆっくりと――こちらへと近付いてきた!


 距離が縮まれば縮まるほど、妹が私の服を引っ張る力が強くなっていく。


「レナ=ブロード」


 と、メリエーヌ様は私をフルネームで呼んだ。


「貴方の記憶、覗くわ」

「え?」


 メリエーヌ様の手に、突然杖が現れる。


 そして、杖の先端を私の額に突きつけた。


「思い浮かべて。精霊クロノスに会ったときのこと」


 会ったときのこと?


 それは――。

 

 額に押し付けられた木製のぬるい感触が、急速に熱を持ち始めた。そして、その熱が私の頭の中を駆け巡る。だけどそれは、ほんの一瞬の出来事。


「そう、分かったわ」


 そう言って、メリエーヌ様は私の額から杖を離し、その先端が床に落ちた瞬間、それは形をなくして消えてしまった。


「えっと――何が、分かったんですかね?」

「そうね……」


 と、メリエーヌ様は少しだけ思案した後、ぽつりと呟いた。


「それより――あなた、ここに残るの?」


 この部屋に――ではなく、このお城に、ってことだよな?

 

「そう――ですね、そういうことになってます」

「そう、それならいいわ」


 メリエーヌ様は小さく頷くと、再びソファに寄りかかり、本を読み始めた。


「あ、あのー」


 と、私は声をかけた。


「……何?」


 上目遣いで、私を見る。


 まだ用なの? といった感じだ。


「私はこれから、どうすればいいんですかね?」


 だって、メリエーヌ様がここに残るように言ったんだよね? だから、何かあるはずだよね? ないって言われたら、私泣いちゃうから!


「明日、祝賀会があるのよね?」

「あー、はい、パーティーですね。どうやら、あるみたいです」


 正直、今から気が重い。

 

「では、明後日教えるわ」

「教える? って、何をですかね?」


 返事が返ってこない。


 視線が本の方に落ちてしまった。


 もしかして、聞こえなかったのか?


 何だよ〜その大きい耳は、飾りなんですかね?


「何を教えてくれるんですか!?」


 今度は、お腹に力を入れ声を出した。


 すると、思ったより大きく声が部屋の中に響き渡ったため、少し恥ずかしくなる。


 だけど私の声は力強く、しっかりと届いたはずので、多少の気恥ずかしさは我慢するしかない。

 

 メリエーヌ様は目線だけでなく、顔まで浮上させてくれた。


「あなた、遠慮がないのね」

「え? そう――ですかね?」


 かなり気を使っている方だとは思うのだけど?

 

「もしかして、馬鹿なの?」

「いや、それはありえないですから!」


 そう――わたしは、賢い女。

 

「ふーん……」


 メリエーヌ様はしばらく私を眺めたあと、本を閉じ、立ち上がった。


 そして、再び私の方へと近づき、顔を覗き込んでくる。無表情のまま、ジロジロと。


「私への耐性、もう――大丈夫なようね」


 耐性?


「確かに――脳の震えはなくなった気がします」


 だけど、メリエーヌ様の美少女っぷりに、心はドッキドキだけどね!


「面白いわ、あなた」

「え、私――おもしれー女ですか?」


 何だか急に、少女漫画の主人公にでもなった気分。


「そうね、面白いと思うわ」


 褒められている?


 メリエーヌ様は相変わらず無表情なため、感情が読みづらい。


「別に褒めては、いないわよ」


 あら、やだ。


 声に出しちゃってましたか?


「そう――なんですか、実に残念です」


 と、私は誤魔化すように笑った。


「明後日から、あなたには魔法の使い方を教えてあげる」

「え! まじですか!?」

「ええ、本気よ」


 うぉー、まじかぁ、私――大賢者の弟子になってしまいましたよ!


「お願いしますね、師匠!」

「……師匠?」


 何故か、メリエーヌ様は首を傾げられた。


「え? 違うんですか?」

「……弟子に、なりたいの?」

「そりゃー、できたら――ですけど」


 メリエーヌ様は、少し思案中。


「あなたも、物好きね」


 いや、普通だと思いますけど?


「いいわ、あなたは私の弟子」


 私はガッツポーズをした。そう――心の中で。


「じゃあ、今後、細かいことはメリナに聞いて」

「メリナ?」

「儂のことですぞ」


 と、婆やさんは自分を指差した。


 メリナ。


 何か、めちゃくちゃ可愛い名前だ。


「なぜ、メリナさんなんですか?」

「何せ、儂もメリエーヌ様の弟子ですからなぁ」


 と、メリナさんはドヤ顔になった。


 まじかぁ、私だけじゃないのかよぉ。


「つまり儂は、レナ様の姉弟子となる存在なのですぞ!」

「おぉ、姉弟子!」


 それ、何だかいい響き!


「……同じ時代に、変なのがふたりもいるとわね」


 と、メリエーヌ様は、ぽつりと呟かれた。

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