第25話 私の妹はツンデレです
「わたくしの部屋に魔法のベルがあります。それで、婆やに状況を確認いたしましょう。彼女なら、常にベルを持ち歩いているはずですから」
魔法のベル。
離れた場所にいる相手と音声でやりとりができる魔法道具。と言っても、携帯電話のように使い勝手がいいわけではない。
親機となる水晶に魔力を流して記憶させた人間の間でしか使用できないし、範囲もそれほど広くはない。
だから、例え私が自分の家から魔法のベルを持ってきたとしても全く意味がない。使用できる範囲は精々、ブロード家のお屋敷のみだからだ。
つくづく思う。
携帯電話って、本当に素晴らしい!
「――ですので、今からわたくしの部屋へと向かいたいのですが、よろしいですか?」
なぜ、お伺いを立てるの?
やっぱり、チョメチョメするつもりなのかな!?
私、漫画で読んで知ってるんだから。
部屋に招かれ――それを受け入れるってことは、エッチしてもいいってサインだってことをね!
「レナ様?」
アリシア様が、小首を傾げる。
か、可愛すぎるではないか!
「えっと――私たち程度が、アリシア様のお部屋にお伺いしてもよろしいのでしょうか?」
妹が、困惑した顔でそう口にした。
そこで私は、少しだけ冷静に戻った。
妹がいる――ということはつまり、ふたりっきりではないということ。
それなら、何も問題がないではないか!
ふふふふふ。
普通に考えれば分かることだった。
どうやら私――パニックに陥り、正常な判断ができていなかったようだ。
全くもって恥ずかしい!
妹のような美少女ならいざ知らず、私のような地味な女に、アリシア様がわざわざ手を出すはずがない。
「まぁ、そんなこと言わないでください。わたくし、これからもお二人をたくさんお部屋に招いて、3人で楽しむつもりなのですから」
さ、三人で楽しむ!?
そ、それ――3Pするってことですか!?
私は衝撃のあまり、足が震えてきてしまった!
「えっと、それは――って、姉さま、何をそんなに怯えているんですか?」
私は――震える自分を何とか抑え込み、意を決して発言した。
「あ、アリシア様。エッチなのは駄目だからね!」
カトレアがよく私に言う名言を口にした。
その発言で、2人は顔を真っ赤にさせる。
「ね、姉さま! 何を馬鹿なことを言っているんですか!?」
勇気を出して発言したのに、妹から怒られてしまった……。
「レナ様はやはり――とってもエッチな御方だったのですね」
アリシアさまと目が合った。けれど、直ぐに逸らされてしまう。
ち、違いますけど!?
ってか、何でそんな話になるんですかね!?
私は、エッチなのは駄目だと注意した側なんですけども!?
* * *
少しだけ時間がかかったけれど、お互いの誤解が解けた。――はずなのに、姫様も、妹も、私をまだエッチな娘だと勘違いしている気がする。
いや……気のせい、だよね?
気になりつつも、今はアリシアさまのお部屋へと向かう。
因みに、メイド3人組はまだ、お城でパーティーの準備を手伝っているらしい。
大変だなぁーと、つくづく思う。
帰ってきたら、カトレアは疲れているだろうから、たくさん労ってあげようではないか。久々に膝枕をしてあげて、頭をわしゃわしゃと撫で回してやる。
あ、これ――カトレアじゃなくて、私へのご褒美となってしまいそうだ。
うーむ。
――まぁ、いいかな!
あと、どーでもいい話なのだけど、今日はドレスで地面に転がり、ドレスのまま正座したけど、まったく汚れていなかった!
どうやらこの赤いロングドレスは魔法のドレスらしい。だから、決して汚れないし、魔法耐性に優れ、物理耐性にまで優れているらしい。
魔法――便利だね!
いやー良かった。
もし汚れが付いてたら、カトレアには絶対怒られるからね!
* * *
言葉はなく、歩く音だけが響く。
お城の中を歩き、アリシア様の部屋まではあともう少しのはず。
それにしても、なんかドキドキするなぁ〜。
大人の女性から部屋に招かれることなど初めてなんだから、先程のようにパニックになったとしても仕方がない。
べ、別に、アリシア様のお部屋だから特別に緊張しているってわけじゃないんだからね!
あ、今のなんだか、ツンデレっぽい。
私がツンデレとか、何かキモいなぁ。想像しただけで、鳥肌が立ってしまいそうだよ。
やっぱり、ツンデレと言えばラナ。いや――ツンデレデレか? どちらにせよ、私の中で彼女以上のツンデレキャラなんて、ありえませんよ!
「……姉様、また変なこと考えてます?」
「また、って何? 変なことなんか考えてませんけど?」
むしろ、素晴らしいことしか考えてませんから!
「……本当ですか?」
妹が! 疑いの目でお姉ちゃんのこと見てるぅ!
「本当だから!」
妹がジト目を向けてくる。
何故ですかね!?
「だって姉様、え、エッチな人、ですから」
あ、今、噛んだな。
おぉ、恥ずかしがってる。
本当、可愛いなぁ。
にまにましてしまいそうだよ。
ラナは、エッチな話とか苦手だからね〜。
「ラナ様、きっと仕方がないことかと思います。レナ様は、そういうお年頃ですから」
そういうお年頃って何!?
「もしかして私のこと、エッチな娘だと思ってる?」
違いますよね? という気持ちで、アリシア様の方へと視線を向けた。
すると、姫様は曖昧に笑って私から目を逸らされた。
やっぱり、誤解――解けてませんかね!?
 




