第24話 親と子
「ところで、もうお昼は済ませたの?」
「え? あ、うん」
屋台で食べたパン。意外と腹にきている。
「そう――」
お母様の顔が、何だか悲しげに見える!
「それなら、いいのだけど。……じゃあ、私はお屋敷の方へ戻るわよ」
私は何度か、頷いて見せる。
「レナ」
再び、私の名前を呼んだ。
「何度も言うけれど――無茶は駄目よ。絶対に」
目線が、急に鋭くなる。
「わ、分かってるから」
お母様はしばらく私を見つめたあと、バーバラを引き連れて屋敷の中へと入っていった。
扉が閉まり、お母様の姿が消えると――アリシア様は長く――めちゃくちゃ長く息を吐いた。
「い、生きた心地がしませんでした」
アリシア様はいつの間にか、ショボショボ顔となっている。
申し訳ないけど、あまりの可愛さに萌え萌えキュン✩だね!
「ところで、姉様は何か作戦があるんですか?」
そう言って、妹は私の腕から手を離してしまう。
何だか、お姉ちゃん――淋しいよぉ。
「そうです、私も気になっておりました」
姫様の手まで、私から離れてしまう。
おぉ、神よぉ。
私は嘆きのあまり、天を見上げた。
「姉様?」
妹は、むすっとした顔を私に向ける。
どうやら、お怒りのようだ。
しかし、それは悪手だよ――ラナ。
怒っている顔すら、私を萌えさせるだけだから。
本当は、ずっと眺めていたい。眺めていたいけれど、私はその誘惑を振り払うため――。
「ごめんごめん」
と、素直に謝った。
「全くもって、悪いと思っていないような顔ですけど?」
愛しの妹が、不満顔だ!
「大丈夫、ちゃんと悪いって思ってるからさぁ」
私は妹を抱きしめると、頬をすりすりとした。
「や、止めてください。馬鹿にしてるんですか?」
と、文句を言いながらも、されるがままとなっている。顔を真っ赤にさせながらも。
「わ、わたくしには、してくれないのですか?」
「「え?」」
妹と、声が重なった。
私は妹の肩に手を置いたまま、身体だけ離すと――驚きの発言をした人物に顔を向けた。
「す、すみません。変なこと――言ってしまいましたか?」
アリシア様は顔を真っ赤にし、焦った表情。
はい、変なこと言っちゃいましたね!
「う、羨ましかったものですから……」
と、アリシア様は口にされると、恥ずかしげに顔を俯かせてしまう。
にまにましてしまいそうだ。
そのため、思いっ切り歯を食いしばった。
「そ、それで――姉さまには一体なんの秘策があるんですか?」
何ともいえなくなった雰囲気をなかったことにするためか、妹は話題を無理やり元に戻した。
「いや、実は言うとまだ何にも考えてない」
妹だけでなく、アリシア様まで『は?』というような顔をした。
「姉さま、あれだけ堂々と言っておきながら――何も考えてなかったんですか?」
「大丈夫。これからちゃんと考えるつもりだから」
妹はめちゃくちゃ呆れた顔を私に向けてくる。
むむむ。
失礼なぁ! と、私は憤慨した――かもしれない。
「とにかく、メリエーヌ様に会えば何とかなる気がする!」
大賢者メリエーヌ。
この世界に唯一残ったとされるエルフの女性。
彼女に会えばなんとかなると、私の直感がそう訴えている!
たから、大丈夫だ。
「何なんですか? その人任せな考えは」
「いいの! 人は助け合って生きていくものなんだからさー」
「レナ様、それはとっても素晴らしい考え方だと思います」
と、何故かアリシア様が全面的に支持してくれた。
そのため、妹はしばらく口をつぐんだあと、話題を変えた。
「……メリエーヌ様って、どんな人なんですか?」
「さぁ」
と、私は首を傾げた。
「知らないのに、そこまで信頼してるんですか? 意味が分からないんですけど」
そんなこと言われても、正直困る。だってこれは、ただの直感なのだから。
だけど私は、自分の直感を意外と――信じていたりする。
だって、その直感により――私はあの時、死なずに済んだと未だに信じているのだから。
「アリシア様は知ってる?」
「何度かお会いしたことはありますが……残念ながら、知っている――と言えるほどではありません」
「もしかして……怖い人?」
唯我独尊――って感じの、女王様が苦手とされている人。その事実を考えると、何だか不安になってくる。
……会うの、止めたくなってきたなぁ。
「怖い、というわけではありません、けれど――」
そこで言葉を止められると、何だかビビってくるんですけど?
「初めてお会いした日、人並み外れた美しさに、私は息を呑んでしまいました。完璧すぎる美、人とは思えぬほどの美しさは、人によっては恐怖を与えるほどかもしれません」
ふふふふふ。
舐めてもらっては困る。
その程度で、恐れおののく私ではないのだ!
まったく――。
今すぐ、会いたくなってしまったではないか!
「あの御方は、エルフの上位種であるハイエルフであり、精霊様により近い存在だと言われています。何処か浮き世離れしており、とても神秘的な雰囲気を纏っています。ですので、怖い――というわけではありませんが、どうしても会うとなると緊張はしてしまいますね」
なるほど。
何だか恐れ多いので――対面する前に、とりあえずはドアの隙間から、こっそりと拝むだけにしときたい。
「すみません」
突然、アリシア様は謝罪した。
「そんな――情けないこと言ってはいけませんよね。だってレナ様は、すぐにでもメリエーヌ様にお会いしたいのでしょうから」
「え? まぁ――それなりには」
ちょっと緊張してきたから、出来ればちょっと待って頂きたい、かも?
「そうですよね」
と、アリシア様は深刻そうに何度か頷いた。
「時間がないんですから、焦る気持ちはよく分ります」
うん。まぁ――そうなんですけどぉ。
「婆やがメリエーヌ様にお伺いを立てているはずです」
そう言って、アリシア様は手をポンと叩いた。
「ですので、一旦わたくしの部屋へ行きませんか?」
と、言った。
何故に、アリシア様のお部屋に!?
その理由が分からないのに――姫様のお部屋の中を夢想し、私の頭はゆでだこになる勢いでのぼせ始めた。
も、もしかして、ふたりっきりですか!?
そこで私――ちょめちょめされてしまいますか!?
 




