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百合好き転生令嬢は、黒髪に生まれたことで親族たちから疎まれていますが、念願通り百合に囲まれ今日も幸せです  作者: tataku


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第23話 決断

 籠の鳥。


 それは多分、良い意味では使われない。


 でも、私はそれで幸せだった。同じ籠の中に、妹と――カトレアだって、一緒にいてくれたんだから。


 籠の扉を自由にできるのは、お母様様ただひとりだけ。誰よりも強くて、優しい人。誰よりも、私たちを愛してくれる人。


 だから、心配する必要なんてない。あぁ、私はなんて幸せ者なんだろ?


 ……。


 分かっている。


 本当は、分かっている。


 それが、あまり良いことではないことぐらい――私にも、ちゃんと分かっている。


 多分、それは――お母様だって、本当は分かっていることのはずだ。


 彼女は――この世界で一番大切な人を亡くし、その忘れ形見である娘2人を――殺されそうになった。それも、自分の親族に。


 そんなの、頭がおかしくなる。


 頭がおかしくなって、身動きが取れなくなったとしても、誰も責める権利などない。


 だけど、このままではまずい気がする。


 あなたは、私たちを籠の中から出したつもりになっただけ。


 私たちは、その籠から出たつもりになっただけ。


 決断しただけで、一歩も足が進んでいない。


 だけど、あなたなら絶対に大丈夫だ。


 だってあなたは、皆が憧れる――最強の精霊使いなのだから。


 そして、私たちも絶対に大丈夫。


 だって私たちは、そんなあなたの――子供たちなのだから。


「お母様」


 私は膝だけでなく、両手も地面に思いっ切り押し付け、頭を下げた。


 街を出て、私たちは間違いなく一歩前へ進むことができた。だけど私たちはまだ、お母様の籠の中の鳥だ。

 

「ごめんなさい。勝手に街へ出て」


 ごめんなさい。まだ――あなたに、心配をかけてしまうような娘で。


「い、いいのよ。分かってくれたのなら――」


 私の方へと、足を動かした。

 

「お母様は――いつ、この王都から発つの?」


 その言葉で、母の足の動きが止まる。


 私は――顔を、上げた。


「それは――」


 お母様の、困った顔。


「ラウラ様、予定では明後日の早朝となっております」


 後ろに控えていた、精鋭部隊長のバーバラが口を開く。


「……それは、あくまでも仮の話であって、決まったことではないわ」

「あの方たちには、そのような日程でお伝えしてありますが」

「文句をいうようなら、また黙らせればいいだけの話よ」

「またかなり揉めてしまいますよ? ただでさえ、ラナ様にお会いしたい――というのを断り、ラナ様を祝福するパーティーの計画を取り止めさせましたので」

「構わない。少なくとも――あと1年は、ラナに会う資格すらないわ」

「お気持ちは分かりますが……」


 バーバラは珍しく、困った顔をした。


 彼女は――お母様と、上級貴族たちの間で板挟みとなっている。お母様が信頼を寄せる人があまりにも少な過ぎるため、そのシワ寄せのほとんどがバーバラへと向かってしまう。


 正直な話、バーバラの仕事量は異常だ。その上で、私とラナにまで気をかけ、よく面倒を見てくれる。あまりのハードワークな日々に私は不安となり、彼女に尋ねたことがある。


 今の仕事を辞めたい、と思ったことはないのかと。


 だけど、バーバラは笑いながら、そんなことは一度たりともないと、私に言った。


 小さい頃から、お母様の側で仕え続けるバーバラ。


 たくさんの縁談を断ってでも、ブロード家に尽くしてくれるバーバラ。


 そんな彼女の姿を見ると、私たちは恵まれていることを実感する。


 私は自分の小さな手を眺めたあと、思いっ切り握りしめた。


「お母様は――明後日の早朝に、この王都を発つ気はないの?」

「それはその時、決めればいいことよ」


 その言葉に、バーバラは苦笑した。


 このままだと、この人はこの地から離れられない気がする。


 安心できるまで、ずるずると――。


「お母様、私たちはもう――大丈夫だから」

「それは、あなたが決めることではないわ」


 確かに、その通りだと思った。


 だから、笑いたくなってしまう。


 だけど、笑っている場合なんかじゃない。


「じゃあ――明後日までに、認めさせる。絶対に、無理やりにでも――認めさせるから」


 お母様は、驚いた顔を私に向けた。


「これはいい。これは傑作だな」


 後ろの方で、女王様が急に笑い出した。かなり大きな声で。


 お母様はそんな女王様の姿を見たあと、私を睨みつけた。


「レナ――あなた、危ないことでもするつもり?」

「まさか、そんなことしたら本末転倒だから」


 お母様の咎めるような視線を、私は受け止める。


「ひとまず、お前の負けだな。ラウラよ」

「これは、勝ち負けの話では――」

「いいや、これは勝ち負けの話だよ」


 そう言ったあと、女王様は私の方へと視線を向けた。


「何をするつもりかは分からぬが、期待しておるぞ――ラウラの娘、レナよ」


 私にウインクをすると、王女さまは身体の向きを変え、お城の方へと歩き出す。すると、兵士の方々がぞろぞろとついて行った。


 周りを見ると、皆が王女様に向かって頭を下げている。そのため、私も慌てて皆の真似をした。


「レナ」


 お母様は、私の名を呼んだ。


「何を考えているのか分からないけど、この敷地から出ては駄目よ」


 この敷地――とは、おそらく城門の中のことを言っているのだろう。


 この土地には特級貴族のための屋敷、教会の本部、そしてお城しかない。


 兵士の方々がちゃんと見回りをしくれているし、お母様にとっても、ここは安全な場所なのだろう。この敷地内には、特殊な結界が張られており、女王様によって平和が保証されているようなものらしいから。


「レナ?」


 お母様から、疑わしげな目を向けられる。


「大丈夫。この敷地から出るつもりなんてないから」

「そう? それなら、いいのだけど」


 そう言いながらも、まだ不安そうな顔。


「無理はしたら駄目よ」

「ちゃんと分かってるから」


 私の言葉を聞き、お母様はため息を吐いた。


「それにしても、いつまで座り込んでいるつもりなの?」


 お母様に言われて、今更気づく。


 アリシア様と妹に視線を向けると、2人は苦笑する。私がゆっくり立ち上がると、2人とも後に続く――のだが、私の腕から手を離す気配はない。


 よっしゃあああ!


 当分、離さなくていいからね!


「ラウラ様、本当に申し訳ありません。お見苦しいところをお見せいたしました」


 アリシア様は恥ずかしげに、顔をうつむかせた。耳まで真っ赤っか。


 やべ、何かキュンときてしまった!

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