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百合好き転生令嬢は、黒髪に生まれたことで親族たちから疎まれていますが、念願通り百合に囲まれ今日も幸せです  作者: tataku


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第19話 これは武者震いだから大丈夫

 訓練場にやって来た。

 

 ドーム状の建物で、観客席もあるが、誰一人いないため、もはや貸し切り状態。

 

 妹は控室でドレスから訓練着に着替える。チェインメイルのシャツを着て、その上から長めの外套を羽織った。薄めの黄色と白のストライプ状になったデザインで中々にお洒落だ。

 

 ズボンは白のシンプルなもの。

 

 そして、何故か私まで着替えるはめとなった。まぁ、見学とはいえ――確かに、汚れる可能性はある――かも?


「本来は訓練としてではなく、模擬戦等で使われます。本来の訓練場だと人が一杯いますから」


 それは助かる。私達姉妹は人混みにあまり慣れていない。前世の記憶では人混みにまみれた生活をしており、苦手意識はなかった。その記憶を思い出しても、今の私ではあまり耐性がない。


「この剣で大丈夫でしょうか?」


 アリシア様の両手にはそれぞれ剣がひとつずつ。


「はい、問題ありません」


 ラナは剣を受取り、構えた。


 訓練用なので、当然刃はついていない。

 

 私は少しだけ距離を取った。


「いつでも、かかってきて貰って構いませんよ?」


 アリシア様も、剣を構える。


 ラナから打って出たが、簡単にいなされる。妹は体勢を崩すが、持ち直し、アリシア様のほうへ剣を突き出した。しかし、冷静に弾かれる。

 

 しばらく打ち合いが続く中、アリシア様は殆どその場から動かないのに対し、ラナは激しく動かされている。

 

 素人から見ても、実力の差は歴然。

 

 ラナはバーバラや精鋭部隊の人には敵わないものの、兵士の中では強い方だ。そのラナがここまで相手にならないとは。


 しばらく打ち合いが続き、ラナの動きが止まった。肩で息をしており、アリシア様の方は呼吸が落ち着いている。


「流石です、姫様」


 アリシア様は、少しだけ剥れた顔をする。


「ラナ様は、姫様呼びなのですね」


 それを聞いて、妹は慌てた顔になる。


「いや、その――私まで名前呼びしていいとは思っていませんでしたから」

「出来れば、その、呼んでいただけると……嬉しいです」


 アリシア様は両指をもじもじとさせている。


「わ、分かりました。アリシア様……よろしく、お願いいたします」


 2人とも、顔が真っ赤っ赤。


「なんか、すみません。強制した感じ――になっておりますよね」


 急に不安になったらしい。


「大丈夫です。私も、アリシア様と仲良くなりたいって、そう――思ってますから」

「本当ですか?」

「本当です。恥ずかしながら、私も、姉様も、友達と呼べる人間はいませんから。だから、アリシア様がそうなっていただけるのなら、凄く嬉しいです」

「えっと、その、ありがとうございます」


 アリシア様は照れ隠しにか、片手で鼻と口元を隠し、視線が落ちる。


 私は妹と視線が合い、2人で静かに笑った。


「そう言えば折角だから、姉様もアリシア様に稽古をつけて貰ったら?」


 え?


 アリシア様は私を見て、目を輝かせる。


「レナ様も出来るのですか?」

「はい、姉様も当然できますよ。私といつも稽古をしてますから」

 

 ちょっと待て、私は殆ど見ているだけですけど!?

 

 妹はいたずらっ子の顔でこちらを見ると、剣をこちらへと投げたので、つい、取ってしまった。


「アリシア様、私、殆ど出来ないから!」

「姉様、謙遜しなくていいですよ」


 おい!


「なるほど」


 と、アリシア様は呟く。


 何が、なるほど――なんですかね!?


「それでは、行きますよ」


 そう言って、剣を私の方へと向ける。


 私は心の中で叫びながら、身構えた。


 そして、模擬戦開始。

 

 分かっていたことだけど、不様を晒すことになる。


 よし、こんな記憶はさっさと忘れよう。さもなければ、今日の夜、ベットの上で身悶えることとなる。



 

 * * *



 

 私と妹は腰に剣を携え、訓練着のまま街へと出掛けることになると――そう、思っていた。


 だから、どこか安心していたのだ。

 

 大して扱えないけど、やはり手元に武器があると安心する。もしかしたら、ちょっとヤバい精神状態なのかもしれない。


「では、着替えを終えたら街へと赴きましょう」


 と、姫様は言った。


 え?


 まじですか?


 そして私たちは、剣を取り上げられ――訓練着から赤いドレス姿へと戻ることになってしまった!


 これでは攻撃力も、防御力も、著しく低下してしまうではないか!


 私は抗議するため手を振り上げた。


「やはりお二人とも、本当に赤いドレスがお似合いです。そんなお二人をエスコートできるわたくしは、本当に幸せ者ですね」


 と、アリシア様は言った。


 そんな見え透いたおべっかに惑わされる私ではないぞ!


 だけどまぁ、ここは折れてあげようではないか。


 ふんっ!




 * * *

 


 

 馬車に揺られるたび、少しずつ不安が積み上がっていく。

 

 姫様は窓に映る景色の説明を、嬉しそうにしてくれている。


 私はだんだんと、上手い返しが出来なくなってきた――ような、気がした。


 まぁ、初めっから上手い返しなんて出来ていなかった気もするけど……。


 それでも、アリシア様は気にせず説明を続けてくれる。なんだか、気を使ってくれているような気がした。


 それは、私の気のせいだろうか?


 


 街の繁華街で、馬車が止まる。


 アリシア様が馬車から降りると、私たちの方へと視線を向けた。

 

 私の隣に座っているラナは、私の服の裾を掴んだ――その手が震えている。大丈夫だ、と口にしようとして――自分の唇が震えていることに気づいた。


 何て情けないのだ。震える妹を前にして、私は彼女の手を握ることすらできない。私たちは外の世界を恐れている。だけどそれは――過去の話だと思っていた。だって、私たちはあの土地から離れることができた。見知らぬ土地に足を置き、見知らぬ家――見知らぬお城の中へと入った。見知らぬ人たちとも会い、ちゃんと会話だってしたのだ。


 だから――。


 大丈夫だと思っていた。


 もう、大丈夫だと。


 でも、やっぱり――。


 街は、怖い。


 街の中は、怖い。


 たくさんの人間がいるから。


 その中には怖い人がいる。


 私達を殺そうとする怖い奴らが、簡単に紛れ込めるから。


 だけど――いつまでも、このままではいけない。


 いつまでも、閉じこもり続けるわけにはいかない。


 私を見上げるラナの瞳に私が映っている。情けない、私の姿が。


 私は妹を抱きしめた。


「大丈夫。だって、ラナの隣には私がいるんだから」


 服の裾を引っ張る力が強くなる。


「……震えてる、じゃないですか」

「これは――武者震い。だから、大丈夫だよ」

「なんですか? それ――初めて聞きましたけど」

「え? あぁ――確かに、なんだろうね?」


 意味としては何となく分かるけど、説明できるほどではない。


「……何ですか、それ」


 そう言って、妹は笑った。


「本当に、仲がよろしいんですね。凄く、羨ましいです」


 妹は顔を真っ赤にして、私を突き放してきた。


「別に、照れなくても」

「照れてないですから!」


 アリシア様は私たちを見て、可笑しそう笑った。口元を手で隠して、上品に。


 私はその姿を見て、不覚にもときめいてしまった。

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