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百合好き転生令嬢は、黒髪に生まれたことで親族たちから疎まれていますが、念願通り百合に囲まれ今日も幸せです  作者: tataku


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第14話 鼓動

 王国の城下町はブロード家の領地と違ってかなりの賑わいを見せている。


 自分の住んでいた場所は田舎だったんだなぁ、と実感した。

 

 特級貴族の馬車だと分かると、みんな道を開けてくれる。慣れたものなのか、前の村人と違って、特におどおどとした雰囲気はない。


「姉様、馬鹿なことは止めてくださいよ」

「そんなこと、する訳ないじゃん」

「よく言いますね。とにかく、大人しくしていてください」


 まったくもって、信頼していない目を向けられる。


 私は窓にへばりついていた体を戻し、大人しく座ることにした。


 こんだけ人がたくさんいるのだから、流石に馬鹿な真似などできない。


 城下町を抜け、しばらく馬車を走らせると、再び跳ね橋と門が見えた。今度は人だかりがない。しかし、門の前で馬車が止まった。


 高い壁から見えるお城らしき姿。


「降りるわよ」


 お母様の言葉で、馬車から降りると、後ろからカトレア達も出てきて、こちらと合流した。


 兵士2人がこちらへ走ってくると、お母様の前でひざまつく。


 見た目はまだ若そうな男の人だが、体はなかなか屈強な感じだ。よく分からないが、かなり鍛えられているのだろう。顔つきもしっかりしている。ここでも、ブロード家との差を感じた。


 

 お母様が労いの言葉を掛けると、兵士2人はキラキラとした目をして、感激した面持ちだ。

 

 流石はお母様!


 ふんすかふんすかと、鼻を鳴らしたくなる。

 

 

 城門の扉が開いて、女性が1人出てきた。

 

 兵士2人が慌てて走り、女性の後ろへとつく。

 

 

 彼女は――綺麗な金髪をボブカットにしており、シンプルな黒いカチャーシャを付けている。


 白銀の胸当て、腰に細身の剣。


 動きやすい白のプリーツスカートの下には黒のレギンス、そして銀の装飾付きのロングブーツ。


 

 彼女は私達の前まで来ると、胸に手をおき、頭を下げる。


「初めまして、わたくしは第一王女のアリシアと申します」


 顔を上げ、私と目線が会うと、優しげな垂れ目を更に下げ、笑みを浮かべる。


 何故か顔が熱くなるのを感じた。

 

 お母様達が膝を付き、頭を下げるのを見て、私も慌てて後に続く。

 

 私は胸を押さえる。訳が分からない。ドキドキして、落ち着かない。これは何だ? これは何なんだ!


「ラ、ラウラ様、顔をお上げてください。こんな小娘に頭を下げる必要などありません!」


 姫様はお母様の前まで走って来ると、私達と同じく膝をついた。兵士2人も慌てて後に続く。


 姫様の両手は宙で揺れている。所在なさげなその手は、不安げに見えた。


 何だか――グダグダな感じに、私はつい笑ってしまうと、顔が少しだけ上に上がってしまう。


 すると、姫様と目が合ってしまった!


「す、すみません!」


 私は慌て、頭を下げる。


 後ろから妹の視線を感じる。多分、怒っていることだろう。


「いえ、久々に最強の精霊使いであるラウラ様にお会いし、緊張しておりましたが、レナ様のおかげで気が楽になりました。本当に、ありがとうございます」


 名前を呼ばれ、鼓動が速くなるのを感じる。


「レナ様のことは、シスターサラから聞いております。後でお話してくれると凄く嬉しいです」


 冷や汗をかく。


 あの女ぁ、変な話はしてないだろうなぁ!


「ラウラ様も、皆様も、立ってください。わたくしには変に気を使わないで頂けると大変、助かります」


 お母様は顔を上げ、ほほ笑んだ。


「アリシア様は、本当に――相変わらずですね」

「それが良い意味であることを、わたくしは祈ります」


 姫様も笑みを浮かべると、お母様の手を取り、2人で立ち上がった。


 私はラナと目配せし、恐る恐る立ち上がる。


「遅くなりましたが、ようこそ、ブロード家の皆様。歓迎致しますよ!」



 

 * * *

 



 城門を抜けた後、妙な気配を感じた。


 王都へ入るための大きな門を潜ったときより、もっと微小な違和感。


「姉様、どうかしましたか?」

「何か、変じゃない?」

「変――とは?」


 妹が、可愛く首を傾げた。


「えーと、何だろ。感覚としては、誰かに見張られているような感じ?」

「何ですか、それ?」


 どうやら、妹にはこの何とも言えないもどかしさが上手く伝わらないらしい。


 そんなの、お姉ちゃん悲しいよぉ!


「流石ですね、レナ様」


 先頭を歩く姫様が私の方へと振り向き、そんなことを言った。


「城門を抜けた先には特殊な結界が張られているのですが、それはあまりにも薄く張り巡らされているため、普通は誰も気づきません」


 え? もしかして、私凄い子?


 妹は私を見て、感心したような顔をしている。


 何これ、めちゃくちゃ気持ちいい!


「この結界は、母――この国を統治する女王のものとなります」

「へー、そうなんですね。一体、何の結界なんですか?」

「魔力探知です」

「魔力探知?」

「この敷地の中で何かあれば、すぐに母は知覚いたします。ある意味――ここは女王の手の中、と言えますね」


 おぉ、何だか凄く怖いことを言われた気がする。

 

 

 

 * * *




 私達が今日からしばらく泊まる屋敷は、城門を抜けてすぐの場所にあった。この辺りは屋敷が多く、基本的には特級貴族のための屋敷とのこと。

 

 姫様に案内された人間は私とお母様、ラナと3人のメイドだけ。


 精鋭部隊の皆さんは馬車の方を片付けた後、他の兵士の方々で隣の屋敷に案内することとなっているらしい。

 

 お屋敷からお城の距離はざっと百mほど。


 お城は5mほどの高台の上に建っており、アニメで見たように、白い塔がたくさん、空高く伸びている。


 あぁ、もう――感動してしまうではないか!


 

 お城の隣にある立派な建屋は、教会の本部らしい。

 

 妹は城を見上げ、言葉をなくしているようだ。

 

 そんな私達を姫様は優しげに見つめており、私は恥ずかしくなって、回れ右をすることとなってしまった。


 

 泊まる屋敷の大きさに関しては自分家のほうが広い。だけど、部屋の中にある装飾品などはかなり洒落ており、正直な話――少しだけ居心地が悪い。

 

 カトレアなんて動きが固く、カクカクとした動作。緊張しているのがよく伝わってくる。


 ちょっと、彼女の弱い脇腹を突っつきたくなりますな〜。まぁ、我慢するけどね!




 寝泊まりする部屋は20ほどあるため、各自好きな場所を勝手に選んだ。


 姫様は屋敷の中を丁寧に説明してくれていたが、兵士は慌てた様子で彼女を呼びに来た。


 姫様は、明日9時迎えに来ることだけを伝えると、頭を下げ、すぐに屋敷から飛び出して行った。


 姫様が居なくなり、何故かホッとした。だけど、残念な気持ちもあって、理由のわからない感情で頭がおかしくなりそうだ。


 予想通り、今日はなかなか寝付けなかった。

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