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第13話 甘えん坊

 王国へと出立する当日の話。


 馬車に揺られ、初めての遠出。

 

 恥ずかしながら、私とラナも、ブロード家の領地内から出たことがない。

 

 お客様はいつも向こうから来るだけで、こちらから伺ったことはない。

 

 お母様曰く、外は危険だと言って、領地より外へは私たちを出さなかった。

 

 今思えば、かなり過保護な話。


 

 

 馬車の前と後ろにはブロード家の精鋭部隊が私達を守ってくれている。

 

 私達が通る道は、私達が向かう数時間前に部隊が先行し魔物などの危険を排除しているとのこと。


 少し不謹慎な話だけど、正直、一度ぐらいは魔物の姿を見てみたいかもしれない。


 だって、どんなに強い魔物が現れたとしても、私のお母様なら一捻り間違いなしだからね!


 


 馬車の中はお母様と、ラナと私の3人だけ。私とラナは隣同士で座り、お母様は向かい側の席。

 

 後ろの馬車にはメイド長とマーガレット、カトレアの3人。メイドを連れていけるのは、それぞれ1人だけ。



 私はカトレアを選ぶ以外に選択肢はない。だけど、ラナはどーするのかと思っていたが、特に迷うことなくマーガレットを選び、彼女に鼻血を盛大に吹かせた。


 それでラナは心配して、別のメイドに変更しようとしたから、私は止めておいた。


 後にその話を聞いたマーガレットは私に対し、泣いて感謝した。そんな彼女を見て、まぁ悪い気はしないものだ。


 ふふふ。


「そういえば、何でラナはマーガレットを選んだの?」


 馬車に揺られながら、私は素朴な質問をぶつけた。


「何でと言われましても。一番年が近く、気が楽だからですけど?」


 ラナは何でそんなことを聞くんだろう? という顔をしている。

 

 ラナは私と違って、本当に鈍い娘だ。これではマーガレットも浮かばれない。


「それにしても、お作法の練習ばかりで、せっかく魔法が使えるはずなのに、全くできないのはつらいよね」


 私は話題を変え、妹に同意を求めた。

 

 すると、妹は珍しく子供らしい笑みを浮かべる。


「それ、姉様だけですから」


 私は窓に寄りかかっていた体を起こして、妹の方に近づく。


「ちょっとそれ、どーいうこと?」


 妹はにまにましている。

 

 嘘だろう? 嘘だと言ってくれ!


「姉様がお作法の勉強をしている間、お母様に教えていただきました」

「お母様、それ、どーいうこと!?」


 これはまさに、裏切り行為だ!

 

 妹に先を越されるのは、姉として見過ごすことなど出来るはずがない。

 

 ――ってか、羨まし過ぎる! 私だって、早く魔法使いたいのに!


 お母様は困ったように笑うだけで、何の言い訳もしてこない。


「姉様、見て下さい」


 ラナは人差し指を上に向けると、小さい火の玉が急に現れ、指の上に留まった。

 

 産まれた時から一緒の妹が出した魔法に、私は何とも言えない感情に襲われる。


「今は馬車の中ですから、この程度しかできませんが、もっと凄いことだってできますよ?」


 妹はドヤ顔を見せた後、火の玉を消した。


 

 いつの間にか、家族を守ろうと大人のふりをしてきたラナ。



 だけど今、昔の無邪気な妹の姿と重なって――悔しい思いが消えてしまう。


 私は、妹の頭を撫でた。


「な、なんですか? いきなり……」


 妹は困惑した顔をするが、特に手を振りほどかれる気配はない。


「よかったね、ラナ」

「急に姉の顔をしないでください。不愉快ですから」


 剥れた顔をしながらも、特に抵抗はしない。


 何故か。


 何故かは、分からない。


 何故かは分からないけど、言葉にできない感情が――こみ上げてくる。

 

 私は我慢できずに、彼女を抱きしめた。


「今までありがとう。これからは――私も、頑張るから」


 二人だけの抱擁は、おそらく数年ぶり。


「いきなり、何なんですか?」

「分からない」

「何ですか、それは」


 本当、なんなんだろうね?


 自分のことなのに、私には分からないんだ。


 この感情を、私はきっと――言葉にはできない気がした。


「仕方がないですね、姉様は……」


 妹の手が、私の腰に軽く触れる。


「昔から――本当に、甘えん坊なんですから」


 その通りだと思った。


 その通り過ぎて、こんな自分を笑いたくなる。


 だけど、それは――。


「ラナもだよ。私たちは昔から、甘えん坊のままなんだと思う」


 妹の、小さな笑い声。

 

「確かに……そうかも、知れませんね」

 

 妹の手が少しだけ――強くなった気がした。




 * * *



 

 寝るときは馬車の中だと覚悟していたけど、各地の村に貴族が泊まるための場所があり、そこで寝泊まりした。

 

 村に入るときは深夜のため、出迎えは少数の大人だけだったが、朝の旅立ちは大勢の村人に送り迎え。

 

 大人もそうだが、子ども達まで緊張した面持ち。私は少し悩んだ後、彼らのために勇気を出すことにした。


 私は馬車の窓にへばりつき、hey! という感じで、ピースしまくったら、後ろから妹に頭を叩かれ、怒らせてしまった!

 

 しかし、お母様と子ども達は笑ってくれたので良しとした。



 ――とまぁ、旅の思い出などこんなものだ。


 

 一番の記憶は、馬車の旅は正直つまらん、と言うこと。


 初めは見知らぬ景色に感動してたんだけどね。如何せん、長すぎるよ!


 


 * * *



 

「姉様、王都が見えてきましたよ」


 私は眠りから意識を取り戻し、窓にしがみつく。

 

 10m以上はあるだろう壁。


 大きな門の前に検問所があり、跳ね橋前からたくさんの人が並んでいる。


 私達が近づくと、兵士の方々が大声で道を空けさせ、並ぶことなく素通りすることが出来た。


 跳ね橋を通る時、妙な違和感を感じた。


 ふむ――気のせいか?


 ブロード家の領地を出る時に感じた違和感と、何だか似てる気がした。


「今の違和感は、結界を通った時に感じるものよ」


 首を傾げた私に、お母様はそう言って笑った。


「気付かない者も多い中、どうやらあなた達ふたりは感知したようね。それは大したことなのよ?」


 何となく妹の方に視線を向け、しばらく見つめ合うことになった。


「何か嬉しそうだね」

「姉様の、馬鹿」


 何故か妹は剥れてしまい、窓の方へと可愛い顔を向けてしまう。


 おいおいおい。


 その可愛い顔をもっと私に見せておくれよ!


「今の結界は魔物を近づけさせないためのもの。ブロード家の領地を出る時にも感じたかも知れないけど、こちらの結界は質がかなり高い」


 と、お母様は言った。

 

「王国は光の精霊の加護を得ており、防護結界の力にすぐれたものが多くいる。私達の領地内の結界も、王国から頂いた精霊石の力によるものね」


 なるほど、と私は頷いた。


「まぁ、ラナなら知っていたかも知れないけど」


 妹はこちらに顔を向ける。


「とーぜんです」


 と、ちょっとドヤ顔。

 

 本当、可愛い奴め。


 私は彼女の腕を突っついた。


「な、何ですかいきなり。うざいので止めてください」


 私はしばらく妹で遊び、長旅の疲れを癒やすことになった。

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