勇者パーティの独り
俺は勇者パーティーの魔法使いだ。
勇者パーティー。そう聞けばどこに行っても高待遇、勇者がポンッと魔法を打つだけで街が滅ぶ、優しい優しい勇者率いるパーティー、考えなしに進んでもそのうち魔王を簡単に倒し、永遠に世界を救った勇者御一行!なんて、夢の冒険譚を皆想像するだろう。
あながち、はじめは間違いではない。俺らが勇者パーティーだとわかれば誰もがゴマをすり、宿でもすぐに一級の部屋が用意され、すぐに泊まることができる。勇者の魔法は人並み外れたどころではなく、魔王と同等、いやそれ以上だった。ポンッと打つだけで街が滅び、力を込めれば1000年の歴史ある国が一つ滅んだ。勇者は優しいという性格を煮込みに煮込み、熟成させたぐらい、気持ち悪いぐらいに優しい。人のミスは気にしない、横領も個性だと許し、不出来な者も個性だとパーティーに受け入れた。
そんな彼が勇者だからこそ、勇者パーティーはおかしかった。先の通り、明らか横領するであろう者も受け入れ、予想通り金を盗られ、逃げられた。魔法もろくに打てない、勇者に憧れる初心者の少年も加わり、理想の勇者と現実の勇者の違いに絶望し、最速一日で辞めていく者もいた。
そんな今までの勇者の行動を見て、自国の王が宮廷魔法使いと騎士団長をぜひ勇者パーティーにと入れてくれた。
「勇者殿、これから短い期間だがよろしく頼もう!」
「よろしくお願いします。僕は必要最低限しか関わりませんが。」
「ああ!共に世界をそして人々を救おう!よろしくお願いするよ!!」
暑苦しいのが一人増え、ロボットのようなやつが増えた。
「よろしく。俺は魔法使い。」
「は?魔法使いいんのかよ。はあ...キャラ被りかよ。」
前言撤回。全然ロボットじゃなかった。まあでも、宮廷魔法使いと騎士団長。上の人間ならさぞ頭も人もいいのだろう。俺の負担が減ったな。
そんな俺の考えは俺の理想に過ぎなかった。
「だから!僕が魔法を打つって!」
「そしてオレが剣で討伐する!それでいいのではないか!」
「そうしたら、僕になにをしてろと言うんだ!魔法使いくんもだ!君もなにか言ったらどうなんだい!?」
「いや!そいつは別にいなくても構わないだろう!ボクとキャラが被っているんだ!なんだったら、ボクという宮廷魔法使いがいるのに、なぜまだいるんだ!」
「魔法使いくんは僕の幼少期からの友達さ!それを除いてもパーティーメンバーを追い出すなんて...!ありえないだろう!」
「残留を決める、そいつがボクよりも優れているという点がなにかあるのか!?キミとの付き合い以外に!なにか!」
「魔法の上手さも、剣技も、頭脳も、個性を人と比べるのは不要さ!」
「だからあ!そうじゃない!」
「まあまあ、宮廷魔法使い殿も勇者殿も落ち着きたまえよ!そう揉めても何も生まないさ!」
「それは激しく同意だよ!ほら!あそこでおばあさんが困っているじゃないか!助けに行こう!」
「はあ...勇者パーティーに勇者は必要不可欠...仕方ないな。魔法使い、お前は必要ではないがな。」
「あははは、もちろんですよ、はい。」
なんなんだ、このパーティーは。仲が悪いとかじゃないの次元じゃないぞ...俺がパーティーを出れば落ち着くのか?一度、勇者に提案してみるか。
「勇者、俺はもうこのパーティーを出ようと思うんだ。だから」
「もしや昼間のことを気にしているのか!?そうであれば気にしないでくれ。君と僕は友達じゃないか。君と僕はたとえ生と死が二人を分かつときも離れぬ、そんな仲だろう!昼間のことを気にしているのであれば、大丈夫だ!」
「...おう、ありがとな。」
話を途中で区切った挙げ句、俺はパーティーを出なくていい、か...ちがうんだよ!話をせめて聞けよ!
友を自称するのは構わないが、友を自称するなら友の言葉は聞いてくれよ。明日出る、金銭面は気にしないでくれ、そこまで言わせてくれよ...
もういい、疲れた。一回寝よう。
「いいだろう!?」
「はあ、わかったよ。魔法は俺より強いやつはいない。」
「ではオレが審判を務めよう!」
夢で宮廷魔法使いと勇者と騎士団長の声が聞こえた...気がするが、今の俺には夢の内容まで気にする力はない...
「チッ。」
「おはよう!魔法使い殿!」
「おはよう、魔法使いくん!」
「あぁ、おはよう。」
なんだなんだ、人の顔見てすぐに舌打ちとは...今日はいつも以上に宮廷魔法使いの機嫌が悪いな...
いや、今日は少しいつもよりは宮廷魔法使いの機嫌がマシだったような気がするな...
ご飯もひっくり返されず、蹴られもせず、暴言も吐かれず、魔法の的にもされなかった。
なんかあったのだろうか...昨日の夢は夢ではなく、現実でなにか起こっていたのか...あとで騎士団長に聞いてみるか。
「騎士団長。突然済まない、昨夜なにかあったのか?」
「うん?なにもなかったが...ああ、あれはあったな!勇者殿と宮廷魔法使い殿が魔法で手合わせをして、勝ったほうが負けた方の言い分を聞くというのが...だが、それ程度だ!なにもない!」
いやいやいや、それ程度だ、じゃねえよ!
「申し訳ないんだが、言い分というものはなんなのか、教えてもらうことは可能だろうか。」
「ああ!構わない!魔法使い殿、あなたをこの勇者パーティーから追い出すか否か、という話でな。勇者殿は追い出さない、宮廷魔法使い殿は追い出す、という意見であった!そして、勇者殿に宮廷魔法使い殿は惨敗したのだ!」
はあ...あいつらなに勝手なことを...
「それで結果には今後、有無を言わないのような誓約でも組んだのか?」
「ああ、そのとおりだ!そして、その公平性のためにオレが手合わせの審判を務めさせてもらった!」
「そうか...教えてくれてありがとう、手数をかけたな。」
「この程度気にしないでくれ!」
本当に何をしてくれているんだ...あの勇者...まあ、これで少しの間は宮廷魔法使いが静かになるのだろう...もうそう捉えよう...
宮廷魔法使いが俺の意見に逐一に反発しなくなったことで、少し魔王討伐までのスピードが上がった。
「では、魔王討伐についての策を講じよう!」
「ああ。」
「ああ!」
「僕は頭が良くない。魔法使いくんに負担をかけて申し訳ないが僕の意見は魔法使いくんに策を考えてもらうことだ!」
「オレも頭が切れるとは決して言い難い!今まで策を考えてきてくれた魔法使いくんに魔王を討伐するときも我々の行動を考えてもらうがいいと思う!」
「ボクはそうは思わない。今まではボクの優しさで従っていたが、魔王討伐は討伐のスペシャリストであるこのボクに任せてくれれば、こんなそこらへんにいる魔法使いよりも圧倒的に良い策を考えることができる。」
「ふむ...二票と一票か...魔法使いくんが今回も考えるか、宮廷魔法使いくんに任せるか、魔法使いくんに決めてもらおうか!」
は???ただの魔法使いにそんなにも重役を課すか?まあ、俺の意見は決まっている。一人からの圧もすごいしな。
「俺は今までたくさん策を考えてきたが、今回は最後だ。最後はスペシャリストの宮廷魔法使いに任せたい。」
「!そうか!そうだよな!そこらへんの魔法使いでもその判断ぐらいはできるか!」
「了解した!では、宮廷魔法使いくんに魔王討伐時の動きの策を考えてもらうとしよう!よろしくお願いするよ!」
「ああ、こんなどこにでもいる魔法使いが考えた今までの策よりも圧倒的に良い策を講じてみせよう!動きは当日教えよう。サプライズさ。」
「了解した!では、よろしく頼む!」
最後の最後で参謀のようなことは終わりだな。
よかった、これで負担がかなり減る。
三人を抑えるだけになる...
なんとかその場その場の方々と大きな問題になることはなく、魔王討伐当日までこれた。
「では、本日の動きを共有する。と言っても、なにも特別なことはない。みな、一人を除いて魔王程度一人でも討伐できるほど強いのだ。なので、各々好きなように行動してくれ。ああ、お前は好きにしろ。いてもいなくても変わらない。」
「了解した!」
「わかった!では、各々自分で自分の身は自分で守ってくれ!」
「...俺は一応ついていくよ。自分の身も自分で守るよ。」
「そうか。じゃあ、勝手にしてくれ。お前が死んでも責任は誰も負わないからな。」
「ああ、それで構わない。」
魔王を一人でも討伐できるは言いすぎだが、俺程度いてもいなくても変わらないだろう。だが、ここまできたんだ。最後は自分の目で見たいから、ついていこう。
この後を知っていれば、やめろと止めたのに、そのときの俺はそんな自己満足のためだけに魔王討伐に同行した。
「は!?なんだよ!この強さ!魔法が何も効かないじゃないか!」
「この剣もだ!王国の最高峰の職人に作らせたというのに、刃がなにも通らない!」
「そうか!でも、僕の聖剣は全然通るな!...ふむ、ではそこで見ていてくれ!僕が魔王を倒してしまおう。」
「はあ、まあいい。あの勇者がすぐに倒すだろう。今はここで見ていてやるとしよう。」
「すまない!オレにできることはないようだ!頼んだぞ!勇者殿!」
「ああ!任せてくれたまえ!」
二人の魔法も剣も使えず、勇者の攻撃しか通じない...俺の魔法も弾かれるだろうな...
弾かれるどころではなかった。オーラに消されてしまった。
これは本当に足手まといだな。
「な!?防げないだと!?」
...そんな!勇者の攻撃の流れ弾がこちらにくる!
「風の槍!」
「え!?ちょっは!?」
急に魔法を打ったと思ったら、俺を魔法の目の前に飛ばした!?
...これは絶対に死んだな。
そこまで俺のことが嫌いで、人とも判断していなかったか...誤算だったな。
「熱い熱い熱い熱い!痛い痛い痛い!苦しい苦しい!うがあああああぁぁ...」
「...ほっ、助かった。雑魚魔法使いも最後には役に立ったな。」
勇者の魔法の流れ弾に本来の位置では当たらなかったというのに、宮廷魔法使いの魔法によって目の前まで飛ばされ、勇者に長らく連れ添った魔法使いは長らく連れ添った勇者の魔法で殺された。
勇者の魔法である聖なる炎で焼かれた魔法使いは、衣服や骨の灰など、なにも残らず死んでいった。
その後の勇者パーティーはというと。
勇者によって倒された魔王は、魔法使いと同じく跡をなにも残さず消えていった。
魔王討伐による被害者は、魔法使い、ただ一人だった。
「魔王の討伐が終わったよ!...あれ?魔法使いくんを知らないかい?」
「...すまない、オレは下がったあと今の今まで二人のオーラの圧が強すぎて気絶していたんだ。先ほど、宮廷魔法使い殿の魔法で起こしてもらったところだ!だからすまない!オレは知らない!」
「そうか、では宮廷魔法使いくんは知っているか?」
「ああ、あいつは俺らのオーラに恐れ慄いて尻尾を巻いて逃げたよ。」
「そうなのか!ということは伝言などはなにもないのだな!」
「いや、あるさ。”俺が勇者パーティーの一員なんて烏滸がましかったんだ。歴史に残る記録などを作る場合は勇者パーティーは初めからこの三人のパーティーであったということにしておいてくれ”だそうだ。」
「そうか!では、その意向に沿うとしよう!」
ここで、騎士団長が起きていれば、勇者が人を疑うということを知っていれば、未来は大いに違っただろう。だが、神の意地悪か、そんなタラレバは叶うことはなく、勇者パーティーは王国に戻った。
「勇者パーティー。みな、よく魔王を討伐してくれた。」
「「「とんでもございません。国王陛下。」」」
さすがは宮廷魔法使い、騎士団長、勇者というべきか。
国王の御前ではいつもの性格の悪さ、騒がしさ、空気の読めなさをなにも表面に出すことはなかった。
「此度無事に勇者パーティーが魔王を討伐してくれたことを記念し、国中にその功績を残す像を立てようと思う。そして、王宮の中にはそなたたちの肖像画を飾らしてもらうとしよう。だがまずは、疲れを取るために近くの宿で休んでくれたまえ。」
「「「ありがたきお言葉。」」」
「...つかぬことを聞くが、そなたたちのパーティーは四人だったろう。もう一人の者はどうしたのだ?」
「その者は少々都合が合わなかったため、勇者パーティーを魔王討伐よりも前にやめております。」
「そうだったのか。それは申し訳ないことを聞いた。よく人員が減ったパーティーで魔王を討伐してくれた。国を代表して心から感謝申し上げよう。平和を保ってくれてありがとう。」
「「「ありがたきお言葉。」」」
「これからは今まで忙しかった分の疲れを取るようにゆっくりしてくれたまえ。」
「「「はっ。失礼いたします。」」」
その後、国王以外、誰も魔王を討伐した勇者パーティーに人が一人少ないことをわからず、彼らの三人の功績は称えられた。
魔王討伐に辿り着くまでの行動の案は宮廷魔法使いの成果となり、これまで魔法使いが行ってきたことは、勇者パーティーの三人の成果となっていった。
その後1200年、世界各地で魔王討伐した三人の勇者パーティーの功績は称えられ続けた。
各地にある像で、伝記で。彼らの功績はその時代を生きた者たちの末代まで伝えられ続けた。
勇者パーティー、国王を除き、ただ一人も、もう一人、魔法使いを覚えているものはいなかった。
彼が、魔法使いが生きた証は、なにもなかった。
彼の墓は、この世界のどこにも建たなかった。
彼のそれまでの功績は、誰にも称えられなかった。
彼の人生は、最後の最後まで独りで終わってしまった。