39話 腹黒美少女へのご褒美③
「ん〜、どっちにしましょう?」
目を輝かせながら御堂は苺のショートケーキかチョコレートケーキのどちらにするかを選んでいる。御堂は基本的には落ち着いた大人の対応ができるが、本当に好きなものになると見る目がない。知力が顕著に低下するというべきか、あるいは子供っぽくなるというべきか。
「何ですか?その子供を見るような目は」
「別になんでも?ただ純粋に……」
「純粋に?」
「微笑まし———」
その瞬間、俺はローテーブルの下で足を踏まれる。
「いでっ」
まあ、女の子の力だからか、あまり痛くはないけど。それにどちらかというとぺしぺし踏んでくる感じだし。
「———お前、ほんと俺には容赦ないよな」
「貴方の前で猫を被ることに利点が見出せないので」
「そりゃ残念なこった」
合理的に考える御堂にとって、確かに労力とその結果を考えるのは大切なのだろう。俺の前で完璧を演じるのを諦めていることがその良い証拠となるはずだ。
「んで決まった?俺も食べたいんだけど」
「あともう少しなんです。あと少しでっ」
何だろう、審査でもしているのだろうか?そんなことを考えながら彼女を横目に見る。
「決めましたっ!ショートケーキにします!」
「後悔ない選択か?」
「は、はい!」
一瞬躊躇いの色が伺えたが、それも束の間。すぐに意を決した覚悟でケーキと向き合う。
ケーキの選択にここまで真摯な奴がいるのかと少し笑ってしまいそうになったが、御堂が不機嫌になってしまいそうなのでやめておいた。
「じゃ、どうぞ?」
「は、はい」
そうして御堂はあむっと一口食べると、「ん〜っ!」と頬を押さえながら悶えている。
「お味のほどは………って聞くほどでもない、か」
「すごく美味しいです」
「まあ、半額で買ったクリスマスケーキの売れ残りだけど」
「それでもです」
2口、3口と次々にケーキを口に放り込む彼女を横目に、どこかで聞いたクリスマスの話を思い出す。
「そう言えば、クリスマスケーキの売れ残りを食べると残念な人になるらしいぞ」
「残念な人レッテルを貼られても、美味しさで帳消しになるので問題ないですね」
「さいで……」
「そうです。まぁ、いざとなったら運命共同体の契りで貴方も道ずれなのでご安心を」
胸を張ってそう言う御堂を見て、自然な笑みが漏れる。まあ俺が残念な人レッテルに対する盾になるくらいはご愛嬌で許してあげよう。
「あーっ、また笑いましたね!なにか私に対する侮辱を感じます」
「ごめんごめん。馬鹿にするつもりはないよ」
「じゃあお詫びとして私をすいーつらくえん?ってところに連れてってください………それで……その、許します、から」
突然、もじもじと指を弄んで俯きながら御堂はそう言った。
スイーツらくえん、か。
彼女が指しているのはパフェとかケーキが食べ放題の例の店なのだろう。○○とスイーツてんごくに行ったとか、その手の話はよく耳に挟む。
「べっ、べべ。別に、貴方と行きたいとか、そういうのじゃなくてっ!」
「他意がないのは、その、わかってるから。落ち着いて」
何と勘違いしたのか、顔をゆでだこのように耳まで真っ赤にさせる御堂。
「かわいい………」
「かわっ!?」
自然と口から漏れてしまった言葉はもう呑み込めない。彼女は近くにあったクッションを膝元に置くと、そこに顔をうずめる。
「ばか………」
俺は、小さく囁かれたその言葉を聞こえなかったことにして残りのケーキを食べる。
チョコレートのケーキが甘く感じたのはきっと何かの気のせいだろう。




