32話 イブにしたこと①
今日は12月24日。イブは特にないもすることがなく、学校の課題を終わらせてから、ダラダラとゲームをしていた。いつもは家族と一緒に過ごすクリスマスであるが、あいにく親は単身赴任で、俺は一人暮らし中というわけである。てなわけで俺は今年はクリぼっちだろうと予想していたのだが・・・
ピーンポーン
静かな沈黙の空間にチャイムが流れる。時刻はまだ13時半。こんな時間に誰だろうか。
「はい」
インターホンから訪問者の顔を確認する。黒いコートを身にまとった長身の男性だった。
「どちら様でしょうか」
「私、宅配便をお届けに参りました。お荷物がございますので、お受け取りください」
そうして、不審な男性は、不敵にニヤリと笑みを浮かべる。
・・・怪しい・・
ただ手に荷物を抱えているのは確かなので、出ないわけにもいかなかった。
玄関に向かい、チェーンをしたまま、ドアを開く。
「やあ、伊吹。元気にしてたかい?」
そうして俺の前に立っていたのは父さんだった。
〇〇〇
「マジでビビったわ・・・」
本気で不審者を疑った。
「驚かせて悪かったね・・・まあ息子が元気で僕は安心したけどさ」
そう穏やかな笑みを浮かべて人の家のソファーにどかあっと座っていたのは俺の実の父親、稲庭真司だった。
「来るなら来ると、メッセージでもいいから言ってくれよ・・・」
突然他人の家に押し掛けるなんて非常識なのかと疑ったが、どうやら話を聞くにそれをしているのは俺にだけだったようだ。
「いやあー、驚かしたくてつい...」
悪気はあるのか、頭を掻きながらペコペコしていた。そんな父さんに対し、あきれてしまい、「はあー」と無意識にため息をついてしまった。
「んで、それなんなの?」
俺が指さしたのは先ほどまで父さんが抱えていた段ボール。それも割と大きい。何が入っているのかと純粋に疑問を持ってしまう。
「開けてみるといい」
そう言われて、段ボールのガムテープをはがし、中身を確認する。
「くまの・・・ぬいぐるみ・・・?」
段ボールからは標準サイズよりすこし大きめのクマのぬいぐるみが顔をのぞかせていた。触ってみると触り心地がよく、ふわふわしていた。
かわいい・・・じゃなくて!
「なぜこんなものを・・・?」
「ん~、伊吹へのクリスマスプレゼント?」
「ありがとう・・・ってそうじゃなくてなぜにくまのぬいぐるみなのか聞いているんだが・・・」
「もしかして気に入らなかったのか?」
「いやそうじゃないけど・・・」
久々にクマのぬいぐるみを抱いたが、やはりぬいぐるみへの愛はやんでいなかった。それをもう高校生である伊吹が父親に伝えるのは、恥ずかしすぎるのでやんわりぼかしておいたが。
「ならよかった」
父親は安堵したような表情だ。
我ながら、親バカだな・・・と思ってしまう。
「そういえば、ちゃんとご飯は食べているのか?」
「ああ食べてるよ」
「その割にはここ最近、キッチンを使った様子がないんだけど。というか冷蔵庫が空だったんだが」
ぎくっ。さすがに御堂に夜ご飯を作ってもらい、一緒に食べている...なんて言えなかった。
「まあ、そのなんだ・・・同じマンションの人がたまに作りすぎちゃったときとかに、余剰分を頂いているんだよ・・・」
「ふーん、てっきり彼女でもできたかと思ったよ。それでその彼女さんに毎日ご飯作ってもらってるのかと・・・」
「ち、違うよ・・・」
真司の予想は当たらずとも遠からずで、伊吹はどうにか顔を引き攣らせないように持ちこたえるのが精いっぱいだった。
「まあ元気そうで何よりだったよ」
そうしてそれから2時間ほど、家族水入らずの会話をして、真司は帰っていった。




