28話 たこ焼きパーティー
「知ってましたか?タコの心臓は3つあるんですよ?」
「へぇ、そうなのか。知らなかった」
ごちゃっとしたキッチンを御堂司令官管轄の元、きれいに片づけ、今に至る。俺は戦力外なので、キッチンのほうからは、御堂の声がする、というわけだ。
「でも、よくタコの調理法なんて知ってたなぁ。お料理教室でも行っていたのか?」
「父の知り合いが海鮮料理店の料理長をやっていたので、父に何度か連れられて、手際が良くなるまで教え込まれたんですよ。無理やり、でしたけど」
「断らなかったのか?」
「父が怖くて、断りたかったけど、断れなかったんですよ」
「なるほど」
カウンター越しに見える御堂の顔は少し曇っていた。
そういう家庭の教育方針もあるのだと心得ている。これ以上先は、彼女の家族の事情だ。自分のような人間が入り込んでいい話じゃないのは、俺でもわかる。話が展開しないように、御堂が気落ちしないように、話題を変える。
「そういえば、具材、何入れる?」
「そもそも何を買ったんでしたっけ?」
たこ焼き、と一味に言っても、具はいろいろだ。せっかくたこ焼きパーティーするなら、定番どころから変わり種的なものまで試してみようと俺が提案した。
「チーズとか、キムチ、ベビーホタテ、あとはスイーツ枠でチョコレートとかマシュマロとかも買ったんじゃなかった?」
「そういえば・・マシュマロがありましたっ!」
彼女の声が先ほどとは打って変わり、弾んでいた。
「ほんと、お前マシュマロ好きだよなぁ。この前晩飯食べに行った時も冷蔵庫にマシュマロ2,3袋ストックしてあったし」
「うぅ・・好きなもののひとつや二つ、誰にだってあるでしょう?」
「それはそうだな」
そうして数分間、沈黙が続く。彼女はタコのカットに集中しているようだ。
「よし、全部一口サイズに切り終わりましたよ」
御堂がタコを一口サイズに切ったタコをトレーに乗せてテーブルに運ぶ。
「多っ」
「今日だけじゃ食べ切れないですね・・・」
「まあ明日に回すか・・」
事前に用意していたタコ焼き機に火をつける。
水、粉とを混ぜたものを入れたら生地の完成だ。
「よーし、じゃ、流し込もうか」
「稲庭君はこういうのはやったことはあるんですか?」
「ああ、実家に同じのがあるからな。父さんが大阪生まれってこともあって月に1,2回はたこ焼きパーティーしてた」
「割と高頻度なことで・・」
「ってどうした?お前は流し込まないのか?生地」
「実はやったことがなくて・・・」
「・・・タコのカットできる奴がタコ焼きはできないって、なんか新鮮」
「う、うるさい!」
「いでっ」
そう言ってテーブル下で足を踏まれる。まあ所詮は、女の子のか弱い力なので全然痛くないのだが。
「ほら、こういう風にやるんだぞー」
流し込んだ生地の上にたこ、ねぎ、紅ショウガ、てんかすなどを適度に乗せていく。
「まずはたこ焼きピンではみ出してる生地のの間にすじを入れて切り離すんだ」
「ほうほう・・」
「んで、たこ焼きピンをふちから斜めに差し込んでと・・・ふちにそって回転させながら生地をひっくり返す」
「はい・・」
御堂は真剣に俺の手つきを凝視して、覚えようとしている。
「そっから、はみ出た生地とか具材を、溝の中に押し入れて・・あとはたこ焼きピンでそれぞれのたこ焼きを回転させながら焼いて、形を整える」
みるみると丸っこくなっていくたこ焼きたちを眺めて「おぉー」と感嘆の色を示す御堂。
「私もやってみます・・」
神妙な手つきで先ほどの俺の動作を再現しようとする。
俺はそれを横目に見ながら、自分で作ったものを咀嚼する。うん。我ながら上出来。
「っ・・あれ、、、うまくいかない・・」
ただ、悪戦苦闘のすえ出来上がった御堂作のものは形が歪だった。
「ま、そう初めからうまくいかないって。俺の技も練習あってのものだから」
一応は励ましの言葉を添えておく。
「は、はい」
「とりあえず、食べてみたら?見た目はともかく、味はおいしいと思うぞ」
そうしてたこ焼きにソース類をかけて、はむっと食らいつく御堂。
一口サイズが小さいのに、食らいつく姿はハムスターのような愛玩動物を想像させる。
「うまっ・・!」
「だろ?自分で作ったものだからかな」
他のも、もぐもぐと咀嚼し、第二ラウンドに。
「次は形が崩れないように頑張りますっ!」
「おぉ、がんばれ」
そうして彼女は真剣な面持ちで一生懸命になる。
・・のだが、形を整えようと慎重になるあまり、今度はところどころ焦げてしまう。
俺はそんな御堂が作った焦げたこ焼きを丸ごとペロッと平らげる。
「見た目はともかく、味はおいしいけどなぁ・・」
「うーん...」
負けず嫌いの性格のようだった。
独り言でぶつぶつと自己分析を行っている。
そして第3ラウンド————
「できたっ!できましたよ、稲庭君!」
御堂が作ったたこ焼きは綺麗な丸を描き、色も均等だった。
大事を成し遂げたように、御堂の表情からは達成感と満足感がにじみ出ている。
「ん、おめでと。がんばったな」
「はいっ!」
興奮で上擦った声。えへへ、と照れながらも無邪気な笑顔を向ける御堂。
いつも見せる控えめな笑顔や呆れたような笑顔とも違う、いたいけであどけない笑顔だ。
そんなかわいらしい姿に目を逸らそうとしても、まるで目を逸らすという動作を知らないように。
(目に毒、とはこのことなんだろうな……)
結局、彼女が自身の表情に気づくことはなかった。




