20話 完璧美少女は選んで欲しい
〇御堂小春
私の両親はどちらも完璧主義者だった。私に何かが足りていなかったら、それを見て「全部完璧にしろ」だの「少しでもできなければ追い出す」だの。
親はそう言うものの、私は何かをやり遂げるのが苦手だった。途中までできたとしても、そこから完璧に持っていく、この作業が当時の私には苦痛で、できなかったことで。
私を見かねた両親は、私が高校生になってから一人暮らしをするように仕向けた。汚物を見るようなそんな目で。完璧でない子供の存在なんて、塵にも等しいのだろう。
一人暮らしを初めて1ヶ月。マンションのポストを見ると、分厚い封筒が入っていた。開けるとただ数十万の札束が入っていた。どうやら法律上、父はお金だけは送らなければならないようだった。
私はそれを見た瞬間の、体の芯が一気に冷めるような、そんな感覚を覚えている。
父方のおじいちゃんが2、3ヶ月に1回来るようになった。
両親とは裏腹におじいちゃんは私をたくさん褒めてくれて、私は今まで辛くてもやってきたことが、心なしか報われたような、そんな感じがした。
———それから私はおじいちゃんに見てもらうために頑張ろうって思った。勉強もスポーツも、芸術も。
初めて紫葵ちゃんと喋った時のことはよく覚えている。すぐにこの子は全て本音で話しているんだなとわかった。
『本物』で生きているのに皆から認められて好かれている紫葵ちゃんが羨ましいと思った。彼女は本心を偽って、完璧を演じていることでしか他人から認められない『偽り』の私とは真逆の存在で。
いつしか私は、本物の世界で生きられる紫葵ちゃんに憧れを抱くようになった。
でもわかってる。
偽りは本物を汚す。嘘は真実を濁らせる。
私はホンモノにはなれないんだ。
私と紫葵ちゃんの間にはまるでいつも見えないガラスで隔たれた壁があるみたいだなぁって、他人事みたいに思った。
人生をやり直せるなら、神様、どうかお願いです。
————私を完璧という偽りから解放してください
〇〇〇〇
「稲庭くん。目の前に、偽物の高そうな宝石か、それとも本物だけど、安そうな宝石の2つがあります。どちらを選びますか?」
よくわからない質問だった。それでも御堂はそれが大切な質問であるかのように、真剣な顔をしていた。
本物か偽物か。
それは俺にとって大きな意味を持つ。
今まで俺は陰キャだから、自分に自信がないから、という理由で本当の自分を曝け出さず、作りきったキャラを演じていた。今も少し。
だから俺は素が本心の綾波を見て、羨望や憧憬の感情を抱いた。
ただだからと言って、俺は偽物を全く必要としていないわけでもない。
本物も偽物も欲しいだ、なんて矛盾してる。そんなのおかしいことだってわかりきってる。でも、偽物の俺が本物の俺を作っていることも事実だ。
だから俺は———
「どっちも欲しい」
どちらも欲しいのなら、どちらも選べばいい。
その瞬間、御堂は大きく目を見開いて、驚いたような顔をする。
「そ、う、ですか・・・」
「まあ、何があったか知らないが、俺は本物だって偽物だって大好きだ。俺は欲張りな奴なんだよ。すまないな」
「・・・これじゃあ、質問した意味がないじゃないですかっ」
御堂と学校を出てから、初めて目が合った気がする。今はしっかりと意思が感じられた。




