19話 本物を見た少女
「あ、お帰りなさい紫葵ちゃん」
「ただいま、小春ちゃん」
「どうやら、最初から俺は要らないみたいだったな。要件は片付いたのか?」
「うん。ちゃんと、一ノ瀬くんと向き合って話して来た。私、最初はただ逃げたかったんだと思う。これからの一ノ瀬くんとの関係が怖くて、明日からの周りからの視線が怖くて。でも、それは違うなって」
「違う?」
「うん。違う。だって嘘をついて作る関係とか相手からの評価なんてただの誤魔化しにすぎないから。私はニセモノなんて求めていないんだよ」
「あっはははっ」
綾波からの返事が想定内すぎて、笑ったらいけないけど、堪えきれない。やっぱりコイツはホンモノが好きで、ホンモノの中でしか生きられないんだ。
それは俺が憧れてる生き方で、けれど俺ができない生き方で。
「お前が羨ましいよ」
「え?何が?」
「いーや、何でもない」
「気になるよぉ」
「A secret makes a woman womanってな」
「ふふっ、それコナンのやつでしょ。カッコつけちゃって。似合ってないなぁ」
「るせぇ。ほっとけ」
「あはははっ・・・って小春ちゃん?大丈夫?さっきから心ここに在らずって感じだけど」
御堂は虚空を眺めていた。その瞳には何の意思も、何の感情も感じられなくて。まるで機械のようだと思ってしまった。
「おい、御堂大丈夫か?具合が良くないのなら、保健室にでも————」
「大丈夫ですよ、ちょっと考え事をしていただけですから」
そう言って笑みを浮かべる御堂。
「小春ちゃん、無理・・・しないでね・・・」
綾波からは心配の色が伺える。
「大丈夫ですよ。さ、もう時間も時間なので帰りましょう」
綾波が告白されたのは学校のひと気が少なくなってからなので、もうそろそろ太陽が沈む頃合いだ。
ちなみにウチの高校は私立なので、完全下校が他の高校より遅く、夜の9時までは残っていていいのだ。まあ残っても特にすることがないので、俺は即帰宅勢なのだが。
ま、帰るか。
〇〇〇〇
綾波と別れ、ただ一人で帰るわけでもなく。そう、今隣には御堂がいるのだ。
「以外だったな」
「何がですか?」
何について言っているんだと首を傾げる御堂。
「いや、お前が人助けしてたことだよ。てっきり、俺はお前がそう言うのを進んでやるとは思ってなかったもんでな」
「ああ、そういう・・・私は確かに学校では完璧を演じ、貴方の前では本音を曝け出しているかもしれませんが、私は友達は放って置けないので」
そう言ってへへん、と自慢げに胸を張る御堂。
「本音で?」
「心外ですね、これは本音です」
そう言って女神様は呆れたようにジト目でこちらを伺ってくる。その顔は『私がそんな薄情に見えますか?』とでも言いたそうな。薄情じゃないって言いたいけど、パシられたりもしたからなぁ。
「そう言えば、お前、帰り際にぼーっとしてたけど、今は大丈夫なのか?」
「えっ?あー、貴方、変なところで面倒見がいいというか・・・」
「はぁ。まあ元気そうだからよかったけど」
そこから沈黙が流れる。その沈黙を先に打ち破ったのは御堂だった。
「稲庭くんは、もし目の前に、偽物の高そうな宝石か、それとも本物だけど、安そうな宝石の2つがあったとしたら、どちらを選びますか?」
「え?急に何」
唐突な、それもよくわからない質問だった。それでも御堂の顔は妙に真剣さがともなっていて。俺はその問いにちゃんと向き合わなければならない気がした。




