18話 優しい嘘
そしてその日の放課後。俺と御堂は屋上の様子を観察していた。といっても直接は見れないから、ドア越しに音だけを伺うことにした。
「紫葵、俺の告白考えてくれた?」
「あ、うん、えっと・・・ごめんなさいッ!私、お付き合いしている彼氏がいるの!!」
「————!?・・・そ、そっか」
「ごめんね。でも、一ノ瀬くんさ、どうして私のこと、好きになってくれたの?」
「どうしてって・・・俺がバスケの大会で負けて、悔しくて泣きながら一人でシュートの練習してた時あったろ?」
それから始まった一ノ瀬が綾波を好きになるまでの経緯。
「うん、確かあれは私たちが中3のときで、去年の5月くらいのことだっけ?」
「そう。その時の俺ってば、自分の努力が報われなかったってずっとそう思ってたんだ。バスケやめようなんて言ってたっけな」
「うん」
「そしたらさ、紫葵がハンカチと飲み物くれてさ、何でそんな頑張れるの?って聞いて来たんだ」
「よく覚えてるね」
「ああ。そんで体育館で本音をいったんだ。思えば俺の本音を誰かに言ったのはお前が初めてだな。親にも友達にも言えなかったけど、なんかお前を見るとサラッと言えてさ。そしたらお前なんて言ったと思う?」
「私その時何て言ったの?」
「『努力しても成功できないのをその努力のせいにしないで』だって」
「私、そんな酷いこと言ってたんだ・・・」
「いや酷くないけど。俺はその言葉がなんかカッコいいって思ってさ、同時にお前に憧れたわけ。んで結局俺はそっから自分を信じて突き進んでみることにした。そしたら全国大会も出場できた。なんか努力が報われたような気がしてさ、それを紫葵に伝えたら、どんな表情したと思う?」
「『よかったね』とか?」
「まるで自分のことかのように、凄く嬉しがってくれたんだ。そこで俺はお前に惚れたんだ。感情が通じ合った気がして。他人の幸せを心の底から幸せに思ってくれる人って、そういないからな」
「そっかぁ」
「でも・・・振られちまったな、ははっ」
一ノ瀬は自分を嘲笑うように乾いた笑い声を発する。
「ごめん・・・ごめんなさいッ!」
「いいよ、別に。俺のことがただ好きじゃ———」
「そうじゃないッ!!・・・わ、私・・・一ノ瀬くんに・・・嘘ついちゃってる」
「うそ・・・?」
————!?
コイツまじか・・・隣で聞いている御堂も驚いている。
綾波に彼氏がいて、だから付き合えないというのは優しい嘘だった。一ノ瀬が振られた自分を嫌いにならないような。ただ綾波はそれが偽善であると分かっていた。こいつは本音で話したいんだ。
やはりコイツには偽善者はお似合いじゃないな。
綾波紫葵と言う人間は感情に従う良人だ。
それがコイツの良いところでもある。
「御堂、帰るぞ。俺たちが関与する話じゃなくなった」
屋上にいる二人に気づかれないように小声で伝える。
「は、はい、そうですね」
御堂も察したのか、俺たちは階段を降るのだった。




