1話 完璧美少女の傍観者
赤の混じったセミロングの黒髪にきちんと制服を着こなした生徒、御堂小春といえば、学校中では知らないものはいないと言う有名な美少女である。男女問わず人気があり、スポーツ万能、そして勉強もできる。彼女の名前が成績表のトップに載らなかったところを見たことがある者はいないとのこと。存在感が輝かしい。それなのに態度は誰にも何に対しても謙虚であり、女神や天使と周りから言われているようだ。
そんな完璧美少女こと御堂小春はいま昼休憩時間にも関わらずたくさんの生徒に囲まれている。微笑を浮かべて、なにやら話している。会話の内容が一部こちらに聞こえてくる。
「はい、そうですね……」
「御堂さん、髪今日も綺麗だな」
「ありがとうございます……」
「俺はもっとはっちゃけた髪の方が似合うと思うけどな」
「石田、お前なんてことを!」
完璧美少女だからって何でも言っていいと思っているのだろうか。なんか、もうここまで来ると逆に美少女も大変なんだろうなと同情してしまう。生憎俺は陽キャでも何でもないため、彼女の本心はわからないが。
ぼーっと御堂の集団の方を眺めていると中浜に話しかけられる。
「ああー、女神さんか。相も変わらず、人気だな。そして何より今日も可愛い」
説明しよう。コイツ中浜秀明は俺の数少ない友人のひとりであり、同時に御堂小春のファン的存在である。
ところで、この学校には御堂小春ファンクラブというものが存在するらしいが、この事実を知るものは少ない。
「人気なのはいいけど、あれはあれで可哀想だな」
「まあ仕方ないんじゃないか?天から授かりし才能と引き換えに考えてみれば、安いものだろ」
天から授かった才能と決めつけるのはよくないが、そうなのかもしれない。
「なあなあ伊吹、スマホ貸してくれ」
「いいぞ、何に使うか知らんが」
そうしてホーム画面のまま中村にスマホを渡す。
「これで、このアプリを開いて、、、インストールっと、、よしこれでオッケー」
怪しげな行動をする中浜に思わず尋ねてしまう。
「お前何したの?俺のスマホに変なウイルスとか侵入させてないよね?」
「まさか、そんなことはない。このアプリは安全性が高いんだよ」
そう言って返されたスマホの画面を覗くとそこには
『美少女アプリ ガールズプリティ1』
と書かれたアプリがインストールされていた。
「おま、ほんと何してくれてるの?」
てかどうやって俺のap○ storeのパスワード打破したの?怖いんだけど。
「これは神聖なアプリだぞ?俺のだけじゃ無くてお前のスマホにも入れるべきだ」
「ダチの首を変な趣味に突っ込まないでくれ」
はぁーとわざとらしくため息をついてみる。
「まぁいいや。んじゃ今日は太陽観察の仕事があるから、屋上いってくるわ」
俺は天文部に所属しており、最近は太陽の観察に専心している。屋上に行ってデータを取るのもその一環だ。
「おう、じゃあな」
中浜に適当に手を振り、教室を出る。
教室を出る際に中を見渡したが、女神こと御堂小春は教室から姿を消していた。
トイレにでも行ったのかもしれない。
どの道俺には関係ないし、これからもその予定である。
………それが覆されたのは俺が屋上のドアを開けたときだった。
キシーン。キシーン。
何処からか柵が蹴られる音。
「最低です!あんなことを言うなんて!あの人なんて大嫌い。消えてしまえばいいのに!」
そこには屋上の柵を軽く蹴りながらそんなことを言う女神様がいたのだった。
楽しんでいただけたら幸いです。