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襲撃、体育館

ゾンビの能力を持った吉田は、相棒のアンドロイドにサイッキッカー女の居所をサーチさせた。憎悪に燃える吉田は、女の通う学校をターゲットに復讐をはじめる。集会のさ中、襲撃をかけた吉田だが。サイキックバトル。

 その高校は、有名大学へのエスカレータとして知られていた。さぞ偏差値のたかそうな勉強の虫が詰めこまれているんだろう、と吉田は光輝くオブジェを天辺に据えた校舎を見あげた。

 校門をくぐると、玄関へつくまえにガードマンがよってきた。

「御用ですか?」

「御用ですねぇ」

 にやり、と笑みを浮かべた吉田に、ガードマンは不信を感じて体を固くしたた。

「どのような御用ですか?」

「こんな」

 言うと同時に蹴りあげた吉田の足は、しかしガードマンの肩でガッシリと掴まれていた。「げげっ」

 吉田の足を肩に担いだガードマンは、皺のよった額の下で眼光をするどくさせた。

「武道のこころえがありましてね」

 というと、ガードマンは体重を移動させ、吉田を地面にひきづり倒した。

「ボロ!」

 呼びかけとともに、アンドロイドがピクッと震えて、うつろな瞳を上下左右に動かしだした。

「こんなときにロードしてんじゃねぇよ!」

 そうこうしているうちにガードマンは吉田の足を複雑にからめだした。関節と関節がねじくれあがり、吉田の骨をきしませる。

「うぎゃああああ」

「おまえら卒業生かなにかか?」

「ちげーよ、うぎゃああ」

「まってろ」

 ガードマンは胸ポケットから片手で無線のレシーバをとりだすと、ボタンを押した。

「まずっ、ボロ停めろ!」

 アンドロイドは、未だ虚ろに空中を見つめている。「この役立たず」

 無線がジーッと鳴った。雑音にまざって声がきこえた。

「こちら正門入口」

 ガードマンがはなしはじめた。

「こら、ちょっとまて」

 吉田のよびかけにガードマンは、ちらっと視線をよこしたが、無視して無線にむかった。

 パンっと銃声のように小さな破裂音とともに、ガードマンの体が弾け散った。

「あぶねーあぶねー」

 吉田は足をなでながら起きあがると、ふーっと溜息をついた。体中をガードマンの返り値でマダラに染めていた。

「きったねーな、さっそく。くくく」

 ペロりと口についた血液を舐める。そのとき、背後でアンドロイドが、ざっと足音をさせた。「てめー、おそすぎんだよ」

 吉田はふりむきもしなかった。「いくぞ」

 と校舎へむかって歩きだした。

 目的の体育館では朝礼が起こなわれていた。白髪あたまの校長が長話をはじめたところだった。ばぁーんと、勢いよく開いたドアに、全校生徒500人が振りむいた。

 吉田とアンドロイドは逆光を受け、まっくろに輝いた。まるで空からまいおりてきた天使のようだった。

 吉田は無言のまま集団に足をすすめていった。

 バスンッと、一人が血をまきちらしながら弾けた。

 生徒はだれも状況を理解できてはいない。

 また一人が消し飛んだ。

 ざわめきが起こり、ガードマンが吉田を止めに近づいた。

 皆がなりゆきをみまもっていた。

 吉田に近づたガードマンは、吉田に手をかけようとしたそのとき、パスッとはじけ、浮いた帽子が静かに地面に落ちた。

 血だまりのなかの帽子を見た生徒たちから悲鳴があがった。

「くくく」

 吉田は群にむかってはしりだした。

 ぎゃあ、という野生動物のような悲鳴をあげて群がまっぷたつに割れた。逃げまどう群の中で、血しぶきがふきあがる。またばきをする間に一人、二人と真っ赤な霧と化した。

 腰を抜かした生徒に近づくと、吉田は腰につっていたナタをふりおろした。

「ボロ、てめぇーまわりこめ、逃げちまうだろうが!」

 すでに群のほとんどは、体育館の外へ逃げ出していた。のこるのは、腰をぬかしたか気絶した生徒ばかりである。

「ちぃ。くだらねぇえ」

 生徒の頭からナタをぬきとった吉田は、胸に白い光がさしこんだのを知った。「ん?」

 吉田の心臓をポールが貫通していた。テニスのネットを張る細長いポールだ。

「ぐ」

 つづいて四本が肩をつらぬき、両足を串刺しにした。

 両足を一本のポールで貫かれ、吉田はもつれて血で塗れた地面に倒れた。

「きなすったな」

 視線の先、さきほどまで校長が立っていた壇上に、女の姿があった。女は足を地面から浮きあがらせ、ミニのスカートをひらひら風になびかせていた。

 そして女のまわりには、無数のポールが獲物に標的をあわせるようにして漂っている。

「くくく、また会えたね、ウザちゃん」

 吉田の瞳が黄色く泡だつように揺れた。

 刺さったポールをやすやすとひきぬいて捨てた。

「ちょっとは痛いんだからね」

 吉田の傷口は黒く湿ってはいたが、血液を流しはしない。

 女の側からポールが消えるように移動した。レーザのように一直線に吉田の耳を千切った。

「ボロ!」

 背後のボロを狙った一撃と悟り、吉田は叫んだ。ボロは眉間にポールの直積を受けた。端正な顔が真ん中でゆがんで沼のように波紋をたてた。

 ポールは粘り気のある水中を落ちていった。アンドロイドの体のなかを移動し、股のあいだから地面におちてガランッと音をたてた。

 ふぅー、と吉田は息をはいた。「やっぱ、てめぇーは心配無用なようだ」

 と、吉田の視界に真っ白いポールがとびこんだ。涙腺をひきづり、ぷちぷちと血管を切る音を聞こえてくる。後頭部からの直撃だ。貫通したポールが吉田の涙腺をひっぱって眉間から突き出したのだった。

「うれぇぇぇ」

 吉田は足がぐんにゃりともつれてその場に倒れた。「目ぇきもひいぃ」

 倒れたままピストルを女に向けて連射した。

 ピストルのたまは、女へむかったが直前で、そこに空気のまくがあるように巧妙に逸れた。そのまま女のまわりを一周して向きを逆転させると、吉田に跳ね返り、体に穴をあけた。

 荒い息をさせて立ちあがった吉田は、まるでボロ雑巾のようだった。肉のあちこちが削げおちて、まっくろに爛れている。

「やっぱ、なかなかやるね」

 にこっと笑った。皺が寄ってとれかかっていた右上の歯が落ちた。「棒のあつかいうまいじゃんパイオツおんな」

 ドスドスドスっと吉田の体は三本のポールにつらぬかれ、地面に打ちすえられたように固定された。つぎに巨大なバスケットのゴールが軋みをあげ、吉田の体に突進した。

「んぐぇぇ」

 体をぐちゃぐちゃに潰されながら吉田は叫んだ。「ボロ、いまだ!」

 それまで、まったく反応を見せなかったアンドロイドが、吉田のからだにおおいかぶさったゴールを掴むと、きいたこともない唸り声をあげた。

 うおおおおおおおおおおおお。

 アンドロイドの全身がもりあがり、チューブのような筋が躍動していた。足が体育館の地面をぶち抜いた。バスケットのゴールは、羽のようにかるがるともちあげられると、アンドロイドによってふりまわされた。

 女の姿が壇上から消えた。

 みえない力にひっぱられるようにして、壇上から転げおち、からだを地面にこすりつけながら、アンドロイドへ一直線に向かっている。

 すべりこんだ女の体を正面から吉田が抱き止めた。

「自分の力に引き摺られたな」

 両目の半分削れた吉田は口のはしがやぶれるほどの笑顔を見せて言った。「やっとこうなれたね」

 女の耳朶に噛みついて引きちぎろうとした拍子に、吉田の前歯が外れた。

「ちぇ」

 とすねたようにして吉田は今度はブレザーの前をひきちぎると胸をわしづかみにした。「がぁ」といって胸に噛みついた。

 途端に吉田の頭の上半分がふきとんだ。

 ふたたびポールが舞いあがった。

「なんにゃなんにゃ?」

 倒れて気絶している女を確認して、吉田は頭をふった。崩れた脳の破片がまきちった。

 吉田の背後からアンドロイドが走りぬけていく。

「どした!」

 壇上の陰にそれはいた。

 中年太りの男。男のまわりからポールが、するどい槍となり、アンドロイドを突き抜けていった。

「あいつが本体か!」

 吉田は叫んだ。

 アンドロイドは男に向って走った。ポールの直撃もなんら関しない。

 うおおおおおお。

 男は獣のように戦慄いた。頭を押さえて膝まづくと、口、目、耳とあらゆる人体の穴から多量の血をながしはじめる。

 アンドロイドの走りがよれた。ブーッと音をさせた。空気の漏れで走りを阻害されている。ブーッブーッ。

「緊急警報!」

「うおおおおおおお」

 男は切れ目なく絶叫し続けた。「おおおおおおおおおお」

 そのとき、吉田の全身に血をあびせかけ、女が弾け飛び消滅した。

「おおおおおおおおおおお、おれの、おれの靖子をおれの靖子をおお」

 男の全身から血しぶきがあがるとともに、地鳴りが体育館を揺らしだした。

 ブーッブーッ。

 警報の空気漏れと体育館の揺れにうまく走れず、アンドロイドはよろめいていた。

 立っていられないほどの揺れに体育館は包まれた。

「おおおおおおおおおお」

「なんかやべぇよ、おまえ!」

 吉田のイメージの中で、黒い影がおどった。アンドロイドをおいこし、男に迫った。

「吉田、この男を殺してはいけない!」

 アンドロイドの怒声であった。

 それはまるで人間のような、感情のこもった一声だった。地鳴りのさなかでも、はっきりと吉田の耳にとどき、耳から背筋をとおって足のさきから抜けるような音声だった。

 痙攣したように吉田は体を反らせた。

 男の右腕と左足が粉々の粒となって弾けた。

 アンドロイドは男にかけよると、注射針を脳天に突き刺す。ポンプをいきおいよく押して液体を注入した。

 男の瞳が回転し、血をはいたまま、ぐったりとアンドロイドの膝のうえに横たわった。

 ほどなく、轟音をひびかせ、体育館の屋根を割りながら近隣の高層ビル、六十八階建てのジャインビルが横倒しになり、おそいかかった。


 ドブ沼のような粉塵があたりにたちこめた。鼻や耳があっというまに土と鉄だらけになるほどの粉塵だ。

 見慣れた都会のシンボルであるジャインビルの最上階の、ピンク色のネオン看板が、横倒しになり、その巨大な腹を晒していた。

 そのすぐ脇に、吉田、アンドロイド、手足のつぶれた中年男はいた。

 中年男は薬で気を失なって、グーグー鼾をかいている。

 吉田はアンドロイドを睨みつけた。

「ボロ、てめーなんでこいつを殺さねぇ?」

 アンドロイドは黙ったまま吉田を見つめた。

「茶番はやめろ!」

 吉田はネオン看板を蹴りつけた。ばしゃっと蛍光管が割れて飛びちった。「考え中のふりはもうたくさんなんだ。おれはこいつを殺すためにここへきた。殺させろ!」

 拾いあげた鉄パイプで、中年男を殴りつけたが、すんでのところでアンドロイドの腕に阻まれた。

「てめぇ!」

 吉田はパイプを放して、後ずさった。「やっぱロードなんて、嘘っぱち。ポーズだな」

 アンドロイドは、なおも吉田をジッと見つめていたが、口をひらいた。

「この男は我々に必要なのだ」

「しらねぇんだよ!」

 吉田は地団駄をふんだ。癇癪もちの子供のように足を地面にたたきつける。「おれは、そいつを、ころしたい!」

 アンドロイドは黙って見ていた。

「おまえだって、おれがどんな目にあったのか、見てただろう!」

 吉田は反応を示さないアンドロイドに憎悪の瞳を向けた。白目はボロボロに崩れ、赤黒くかさぶたのようになっている。

「しね!」

 吉田の視線が中年男に向いた。「今度は腕じゃ済まさねぇ、全身ふっ飛べ!」

「させはしない!」

 アンドロイドの声だった。語気を荒げ、およそ人工物らしくない雰囲気を放出させている。吉田は驚いて視線を戻した。

「おまえ」

 吉田の体から急激に力が抜けていった。膝を地面に着いた。

「おれの……おれの体になにか、しやがった……」

 吉田の脳裏に、己の体を再生させた荻窪の浴槽が浮かんでいた。傍で見守っていたアンドロイドの姿もだ。

 倒れてゆく吉田の姿をアンドロイドは、感情のない瞳で見つめていた。ビー玉のような瞳だった。

「吉田の体には、おれの体組織を混ぜさせてもらいました」

「ちくしょう、てめぇ……」

「吉田、あなたたちは不完全で、不安定。博士は、あなたたちを作り変えるといいます」

「……」

 吉田は脳まで全身が痺れ、意識を失なう淵で、崩れた眼球が体液に浸っていく感触をひさしぶりに味わった。かわききったゾンビやろうの俺が、泣いているのだ、吉田は知った。

 次に目覚めたとき、目の前に広がっているのは、その博士とやらのバラバラ死体だろう。吉田は全世界の人類に黒い触手を延すイメージを抱いたまま、意識を失なった。

 アンドロイドは、中年男と吉田を肩に担ぐと、たちこめる粉塵の中をどこへともなく消えていった。



おわり

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