宣戦布告
第一話
しあわせな時代ではないのか? ひとはなぜ不平をいい、あらそいをやめない? こんなにも恵まれた時代はない。たべるに十分すぎる食料の備蓄、冬でも凍えることはない。
なにがいったい不満なのだろうか? わからない。
1998年冬の東京大手町。
ひとどおりの多い朝の駅前で、はやあしでいきかうサラリーマンたちは、無関心をよそおいつつ、横目でそれを注視していた。
大男たちの喧嘩である。ひとめでその筋とおもわれる男たちが、どなりあっていた。
「てめぇ、ぶつかっといてそのいい草はなんだ。ひとこと詫びがあっても適当じゃねぇのか」
「それはこっちのセリフだ。新品のスーツが汚れちまった。弁償してもらおう」
「このやろう。我慢の限度ってもんがあるぞ」
男が懐に手をさしいれると、あたりに緊張がはしった。
「ちょっとちょっと」
と、場ににつかわぬ、すっとんきょうな声だ。狭い路地から、すいすいと小柄な男があらわれた。「おにいさんがた、ここは天下のおうらい、ことに日本経済をたてなおすため、日夜必死に勤労くださるサラリーマンさまの通勤時間、物騒な話はよしませんかね」
「なんだ小僧、ひっこんでろ」
するどい怒声がとんだ。
しかし、小柄な男は怯えをみせなかった。ハンチング帽に手をやると、すぅと脱いだ。
「これは突然失礼しました。おはなしをきいていただければ、あなたがたも怪我をせずにすむとおもいましたもので」
ヤクザたちは一瞬ぎょっとして少年の頭に気をとられた。
「なんだありゃ角じゃないか?」
「きもちの悪い小僧だ」
少年の耳がピクピク痙攣していた。
「微妙なファッションしやがって」
「きみのわるい」
ピクピクピク。
「おにいさんがた」
少年の目つきがどろりとしはじめた。「わたしはね」どろっ「これを文句いわれるのが」どろり「いちばんきにくわないんだよ!」
猫のようにしなやかに跳びあがった少年は掌を男たちにむけて叫んだ。「きえええ!」
あっけにとられた男のひとりが、はじけるようにその場で四散した。風船が割れるようにした消失だった。だが、足元にのこされた血だまりが、たしかにそこに男がいたのだと証明している。そして、男たちの体をまだら模様に染める返り血である。
「なんだ!」
「なにをした小僧!」
男たちは、混乱し、懐からピストルをとりだした。
「爆弾か!」
「くくくく」
少年はゆらりとちかづいた。「過激派じゃあるまいし、そんな物騒なものをいつももちあるきはしませんよ」
「過激派だっていつもは持ちあるいてるわけじゃないんだよ!」
ピストルが轟音とともにはねかえった。男のひとりが射撃したのだ。少年の体がぐらっとかたむいた。だが、顔をおとこたちへ向けると、にやりと唇のはしをあげてわらった。
「なんだこいつは! いまどき太陽にほえろぶってるんじゃあねえ!」
ぞっとするような少年の笑顔に、男はふたたびトリガーをひいて発射した。少年の眉間に黒ぽっちがあき、衝撃で後ろにのけぞった。
が、すぐにまた男のほうを向きなおる。
「なんなんだ、こいつは?」
そして男たちはきづいた。少年のようすがおかしいことに。ふつうの人間とはあきらかにちがう。
少年は額にあいた穴から一滴の血もながしてはいなかった。
「おまえはなんだ!」
ピストルが連射された。恐怖が伝染したように、ほかの男たちもトリガーをふりしぼった。弾丸よつきよ、と指を猛スピードでかき動かした。
少年に矢のような連射があびせられ、あたりは戦場となった。お祭りさわぎがしずまりかえったころ、少年はボロ雑巾のようにして倒れているだろう、そんな想像が男たちの頭のなかにあった。
しだいに男たちは息をあげ、 ピストルの音は止んだ。
弾倉がからっぽになったのだ。
しかし、少年はすぐに笑みをみせた。顔中穴だらけで、唇の両端をあげてみせたのだった。
「もう、おわりかい?」
きょとんとした少年の表情に、男たちはギョッとした。
「これがぼくの超能力、ゾンビの力さ」
少年がそう言い放つと同時に、男たちが破裂していった。
「ゾンビの菌を、おまえらに感染させた」
ひぃ、と悲鳴をあげて逃げだした男が、破裂して血の霧と化した。
「おまえらはあと一分以内に、死ぬ!」
男たちはもはや敗走の態であった。パニックの猫のようにやたらに走りまわり、電柱にぶつかるものもいる。豚を蹴りあげたような悲鳴とともに血だまりとなった。
「くくくく」
つぎつぎと破裂していく男たちを見て、少年はおかしそうに笑った。「どうして人間はこう馬鹿なのだろう。さいしょに生き残る選択肢をちゃあんと与えてやったじゃないか」
少年は目の前にのこる男のひとりをみつめた。
「ほれ、死ぬまえになにか言い残しなよ。くくく」
男のほうも静かに少年を見返していた。それはどこか焦点のあわない虚ろな瞳であった。
「くるったか。つまらん」
少年は吐き捨てるように言った。その場を去ろうとした少年は、しかし背後から首ねっこを掴まれた。
さきほどの男が変わらぬ静かな表情で見下ろしていた。
「猫じゃないんだぞ。くびつまむな」
少年の抗議に男は動じなかった。
「おまえ、もうすぐ死ぬんだぞ」
脅しをかけたが、男はピクリともしない。少年は男のタフさに少しの不安を覚えはじめた。ゾンビ菌に感染させてから、何分が経ったろうと腕時計を見た。少年の経験上、ゾンビ菌に感染し、長く保ったとして三分が限度であった。しかしこの男はすでに五分以上生き長らえていることになる。
「記録更新じゃないですかね。それより、降ろして!」
からだをひねって、いやいやをする少年だったが、かたく掴まれた手をふりほどくことはできなかった。「首のかわのびちゃうって!」
なにを言っても無視されるため、少年も負けん気がわきあがった。死ぬまでこのまま待ってやろうと考えた。
「わかったわかった。死ぬまでこうしてろ」
一分がたち、三ふんが経過した。
それでも男は平然と少年のくびねっこを掴みつづけていた。
「おいおい、いいかげんに死ねよ……」
少年の顔に焦りの影が浮かんだ。
ばかな、と少年は信じ難い目で男を仰ぎ見た。柔道家の屈強な男たちでさえ、もって三分。この男はどこかおかしい。いままでこんな男にあったことはなかったぞ。なんだ、このケースは。イレギュラーだ。いっそおれの背骨斬りで惨殺してやろうか。いや、貴重なサンプルかもしれない。このままもう少し死ぬのを待ってやろう……。
数人の足音が近付いて、少年たちをとり囲んだ。
「警察だ、大人しくしろ!」
ピストルを構えた警官だった。総勢十数名が、少年たちを睨みつけていた。
「あらあら、死ぬのをまってやる時間がなくなった」
少年は残念そうに男に言った。「ばいばい、おにいさん」
ぱっくりと少年の背中が縦に割れ、骨が飛び出した。骨は勢いよくしなり、男の右肩から腰までを深く斬り裂いた。するどく研磨され、日本刀のような輝きを放つ背骨であった。
警官隊からザワめきがおこった。
それは、少年に対する恐怖からだけではない。
斬り込まれた当の男は倒れもしなかった。それどころか、斬り裂かれた口から血をながすこともなく、傷ぐちがみるまに塞がったのだ。
「おまえ!」
少年の目がとびだしそうなほど見ひらかれた。「ど、同類!」
男ははじめて口をひらいた。
「おれは、違う」
「なにが違うんだこのゾンビやろう!」
「おれは、アンドロイド。ナノテクノロジー社の液体金属製高性能戦闘用アンドロイド」
「し、しらねーよカス!」
2.
ふたりは歌舞伎町の喫茶店でむかいあっていた。
背広のきまった背の高い男と、小柄な少年であった。眠たげな猫のような瞳をして、少年は飲んでいたコーヒーのカップを置いた。
「むこうのテーブルから砂糖とってくれない?」
男は反応を示さず、静かに少年を見つめているだけだった。
「ったく、こいつは使えねぇな」
自分で席をたち、むこうのテーブルから砂糖の壺をかきあつめて、それをコーヒーにどばどば詰めていった。砂糖に水分をすわれ、半固形化した飲み物を少年はずるずるとすすった。
がたっと席をゆらして男が立ちあがった。後ろのテーブルを見つめ、なにかを探している。
「おい、もう砂糖はぜんぶとってきたよ、鈍重」
あきれたように少年は言った。
この男はアンドロイドだった。自分で高性能と言うわりには処理速度が極端に遅く、しばしばフリーズしたような状態におちいることがある。かとおもえば、普通の人間以上に処理できることもあった。
不安定なやろーだ、バグ持ちなんじゃねーのか、と少年は心の中で毒づきながら、何の感情もないように自分の席に戻ろうとする男を、いまいましげに見つめた。
「そんで、おまえは超能力者を集めてどうするわけ?」
ロードの時間がややあって男は口を開いた。
「世界のために、いけないことを阻止する、と博士は言っています」
「博士ってだれよ」
「おれを作った人物です」
「じゃあ、そうとうなヘボ腕なんだな」
少年はコーヒーをすすった。
平日の昼間だというのに店内には若い男女がおおくいた。少年は隣の席にいた制服姿の女の、みじかいスカートからのぞく太股を盗み見た。
むちむちとした質感を想像し、たのしみながら、さとうだらけのコーヒーをじゃりじゃりと舐めるように飲む。
視線に気づいた女は顔に少しの警戒心を覗かせて顔を背けた。
「くくく」
少年は席を立った。「これはイケるとはおもいませんか、ロボ?」
「その呼び名は、あやしまれるため、変えてください」
「反応速えーじゃねぇかよ、てめぇ」
少年は、そのまま女のテーブルの向かいに腰を降ろした。「ハロー」
めんどうくさそうに女は、ぷいっとそっぽを向いた。この手のずうずうしいナンパには飽き飽きしているといった風だった。
「こんな時間になにしてんの?」
無視。
「学校は?」
むし。
「あ、ずるやすみかな。がっこうなんて、かったるいよね」
むし。
「おもしろいとこ連れてってやろーか?」
少年の目がギラギラかがやきだした。いける、いける、と鼻の頭によった皺が言っている。顔を近づけて、いまにも噛みつきそうな距離で、少年はなおも話しかけた。
「なー、いこうよ、たのしいよ、ぜったい、保証するって」
女は立ちあがると席を移動した。
少年もそれを追って後ろの席に移動する。
「あ、おれのなまえいってなかった。吉田です。よろしく」
「うざ」
「うざちゃんっていうの、いいなまえだね」
「うざいっていってんの。くさいし」
少年の動きがとまった。
「うんこでも食べてるみたいだよ」
女はふたたび席を立とうとしたが、その腕を少年は掴んだ。
「死んでる中じゃぜんぜん新鮮なほうだとおもうけど、そんなに匂った?」
「放せよ」
「破裂してみたくね?」
少年が握った腕に力を込めた。
「吉田、それくらいにしてください」
アンドロイドが少年の肩を掴んだ。
「うぜぇよボロ。ひっこんでろ。いまこの女に説教してるとこなんだ。学校さぼってんじゃねーってな」
「めだつのは、良くありません」
女はアンドロイドをジッと興味深そうに見ていた。
「なに、こいつのこと見てんだよ、おまえ」
女の態度に吉田は苛だった。
「おれが話してんだよ。おれのこと見ろ」
むし。
「あっそ」
と吉田少年は呆けた顔をしていった。「そっちがその気なら、もー破裂しちゃってくださいね」
突如、吉田の体はふわっと浮きあがり、腰から地面に落下した。
「ぐあ!」
女の踵が腹にめり込み追撃した。吉田は内蔵を吐き出しそうになった。
「てめぇ、いい度胸してるじゃねぇか!」
吉田の怒声が響いた。さわがしかった店内が一瞬、しずまった。
「感染しろ!」
吉田の意識の中で、黒い影が床をはいずった。女にむかって一直線に影がのびていく。ゾンビ菌を動かすイメージだ。菌に思考は存在しない。あるのはパターンだけだ。吉田はそのパターンを利用して菌をあやつっていた。
影の焦点が女の足元から、ふとももをはいずった。そのまま胸をおかし、顔をおおいつくすイメージが展開され、女は体中を影におおわれた。
「くくく、おまえは、二分以内に死ぬ!」
「吉田」
アンドロイドが静かに呼びかけた。
「うるせぇ、いまいいとこなんだよ!」
「吉田、無理です」
「なにが!」
「あなたの菌は空を飛べません」
「んなこたわかってんだよウスノロ!」
「彼女を見てください」
「あぁ、見てろ、いまピチピチ女子高生のピンク内蔵ぶちまける姿拝ませてやる!」
「彼女は浮いてます」
「はぁ?」
吉田はアンドロイドの言うとおり、女の足元を注意した。床から十センチほど浮きあがっていた。
「こいつ!」
のけ反って吉田は叫んだ。「能力者!」
ブーっと、アンドロイドは空気が漏れたような音をさせた。
「屁かよ!」
信じられない、という表情で吉田はアンドロイドを睨みつけた。「そんなことしてる場合か、ウスノロ、この女を殺せ!」
また、ブーッとアンドロイドは尻の周辺から音を漏らした。ブリブリブリっとつけくわえた。
「てめぇー、くせぇーんだよ、こんなときになにやってんだ!」
女だけではない。女の周辺にあるカップやテーブルなども浮遊をはじめていた。ナイフ、フォークもだ。いまにも襲いかかってきそうな不穏な空気を隠しもしない。
ブーブーと、なおもアンドロイドは屁をコキ続けた。
「いい加減にしろ!」
「吉田。危険です」
「てめぇがいちばんあぶねーんだよ屁コキやろう」
「これは屁ではありません。緊急アラームです」
「はぁ、ごまかすな」
吉田はアンドロイドのうしろにまわって、尻のあたりを、くんくんと嗅いでのけぞった。「くっせー、やっぱくせーじゃねーかウソツキ!」
「周囲の人間に不自然におもわれぬよう、このように設計してあります。音と臭いで密かに危険を知らせる設計です。これは仕様通りです」
「うるせーばか!」
「危険です。後方より」
アンドロイドの言葉を遮るように、二十トンもあろうかという極太の鉄骨が壁をぶち破り店内に突っ込んできた。鉄骨はまるで重力を感じていないかのように軽やかに回転し、店内を攪拌しはじめた。喫茶店は名物のミートスパゲッティのように、一瞬にして血と肉がごちゃ混ぜになった。
3.
轟音と悲鳴の鳴り止んだ喫茶店からほど近い路地裏で、アンドロイドは身を潜めていた。鉄骨に挟まれ、まっぷたつに別れた胴体も既に再生しきっている。しかし、その隣で吉田少年は激痛に呻いていた。
両足と右手が根本から切断している。切り口はぐちゃぐちゃに繊維を潰され、無数の血管が糸をひいてぶらさがっていた。
「畜生……あのアマ」
「吉田、痛点があるとは思いませんでした」
「ばかやろう、死んでるっつっても心臓が停止してるだけ。弾みてぇなちっこいのなら屁でもねぇ。でもこれはダメだ。線の打撃は問題ねぇが、面の打撃にゃ耐えられねぇ」
アンドロイドは、しばし停止した。
このやろう、いまのデータ記録してやがるな、と吉田はおもった。
「俺のこと、もっといろいろ教えてやる。だから俺を荻窪まで運べ」
「わかった」
とアンドロイドは頷くと、吉田の首を掴んで拾いあげた。
「ぐおお、いてぇ。やさしくしろバカ、子猫じゃねぇんだよ!」
「できる限り衝撃を与えぬよう善処します」
背広の上着をかけて隠され、アンドロイドに抱かれた吉田は路地裏を出た。喫茶店をとりまく報道関係者がそこかしこでインタビューや撮影をおこなっている。ボロボロの服装をしたアンドロイドは格好の取材対象とおもわれた。何度も取材に足を止められながら、なんとかやり過ごし電車へ乗った。
十数分して荻窪で降りると、アンドロイドは吉田の指示に従い、住宅街を奥へと進んだ。
一軒の木造アパートの前へ来ると、玄関のチャイムを押した。
「沢木、おれだ。高島だ」
そう名乗った吉田を、アンドロイドが注視していた。
また、こいつはノロマのくせにデータを記録してデータベースと照合してやがるんだろうな、と吉田は思った。
「くそ、出てこねぇ。こいつはアポなしじゃ会えねぇんだ」
騒動の中、携帯を落としたことを吉田は悔んだ。「おい、出てこい。ドアぶち壊すぞ!」
叫んだ衝撃で、激痛がはしった。傷口から血液がしたたり落ちる。
「ちっくしょう」
「破りましょう」
そういってドアへちかづいたアンドロイドを、吉田は止めた。
「だめだ。やつにはこれから仕事を頼む。繊細なやつだ。実際手荒なことはできねぇ。くそ。どうすればいいんだ。ピザ屋のマネでもしてみるか」
五分後、アンドロイドにピザ宅配屋のマネをさせると、ドアがうっすら開いた。
「沢木、おれだ」
ドアの隙間につっこんだ鼻先もろとも勢いよく閉じられ、吉田の鼻は千切れた。「ぎゃあああ」
「アポなしとは仕事しないよ」
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!」
吉田は頭をドアに何度も叩きつけた。「オタク野郎死ねやカス!」
べこべこにヘコんだドアを見つめて吉田は息を荒げた。
「たのむ。緊急なんだ」
汗だか涙だかわからないものが吉田の顔中からあふれ、両手両足の血と混じりあいながら地面を塗らしている。
部屋の中から返事はない。もうダメか、と諦め、アンドロイドにアパート住民を皆殺しにさせようかと考えていたとき、ドアの向こうからぼんやりした声がきこえてきた。
「今回だけだ。いつもの十倍払ってもらうよ」
その声に吉田の猫みたいな瞳がキュッと大きく開かれた。
部屋の中は薄暗くモノが溢れていた。等身大の人形がそこかしこに散乱している。
「吉田、このひとはなんですか?」
部屋を観察していたアンドロイドが聞いた。
「俺の修理をさせる」
傷口を舐めまわすように見ながら、沢木は、十倍は安すぎたとぼやいた。
「いま浴槽に培養液を入れてるとこだ」
「あれを持ってきてる。ボロ、出せ」
麻袋の中には、来る途中にアンドロイドが採取した野良猫が詰めこまれていた。袋の中をのぞきこんだ沢木は、肉が少し足りないかもしれない、と言った。
風呂場の培養液に漬かった吉田に、沢木は刃物をあてて修復している。その間に、アンドロイドは追加の猫を探しにでかけた。
十二時間後、沢木は処置を終わらせ、
「あとはこのまま数時間寝てればいい」
培養液の中でうつらうつらする吉田に言った。
沢木は傍らのアンドロイドに目をやった。
「処置は終わった。一度帰ってまた迎えにきてくれ」
アンドロイドは身動きしなかった。
好きにしろ、と沢木は浴室を出ていった。
翌日、手足の生え揃った吉田はピョンピョン跳ねてみせた。だが、まだ足が柔らかかったようで、脛がぐんにゃり曲がって倒れた。
「ボロ、あの女を見つけにいくぞ。どこの学校の制服か、サーチしろ」
ふたりは漫画喫茶へ行き、アンドロイドがgoogleで手当たり次第に検索を行なった。女の制服は都内の私立高校のものと判明した。
吉田の目が復讐心でギラギラ輝きだした。それは黄色く濁り、生きた人間のものとはあきらかに異質な臭いを放っていた。