通婚のミス
ほにゃ!
なんて理想的な殿方よ!
今、目の前にそのひとがいた。
彼は優しく私のためにお好み焼きをお皿に取ってくれている。
顔、よし!
優しさ、よし!
声、たまんないトーン!
ファッションセンスは私が磨いてあげよう!
そんなひとが市立病院に勤める若き医師だという。
医者……か。
私にはこの人とお見合いをする理由があった。
実家が医者で、私は一人っ子で、しかも私は大学の商学科を卒業したただの家事手伝い。
父が医者と結婚させて、自分の個人病院の跡取りを欲しがっているのだ。
「K子さんのお父さんは皮膚科の個人病院をやってらっしゃるんですよね? 僕もちょうど専門が皮膚科なんです」
そう語る理想のひとが、なんだか私とではなく、父と結婚したがっているように見えてきてしまう。
彼との結婚生活が、なんだか今から白っぽいものに想像されてしまう。
それで私はこう言ってしまったのだ。
「ごめんなさい。この話は……なかったことに」
「そうですか」
彼は少し傷ついたように、でも爽やかに、笑った。
「残念だな。……でも、確かにこんな綺麗なひとに僕はもったいないかも」
スルーしてしまった。
理想の相手との、結婚のチャンスを、スルーしてしまった。
これぞ通婚のミス!
そして私はいまだにミスのままである。