知った日
人生の分岐点がいくつもあると言うけど私の中では惰性で過ごしていた人生で別にそんな分岐があった記憶はない。
そう、この日までは・・・。
今日はまさに分岐点の日だったといえるだろう。
「あなたは世にも珍しい遺伝なしの魔法資質があります。来てほしい我が学園へ!」
70~80代だろうか?かなり年上のような老人にそう告げられる。
普段なら狂った年寄りの戯言だと思い駆け足で素通りしてしまうことだろう。
だが、老人の傍らには羽の生えた妖精としか形容のできない生物が飛び、何よりも移動用だろうか黒い大きな馬がいるが、明らかにテレビなどで見る馬より胴が長く足が丸太のように太い。
私がしどろもどろになって妖精や馬をキョロキョロしていると妖精らしきものが口をひらいた。
「あら?私たちの存在も見えているのかしら。だとしたらすごい資質ね。普通の魔導士クラスでも注意しないと認識すら出来ない隠蔽魔法をかけているのに」
どうやら、普通は見えないのか。そりゃそうか、こんな人通りは少ないとはいえ、妖精や馬がいたら目立つことだろう。
「私は魔法なんて・・知りません。普通の高校生ですよ・・」
正直威圧感が半端ない。ちょっと泣きそうだ。
「すまない、少し興奮してしまったね。まさか、こんなところに魔法資質を持った人間が歩いていると思わなかったのでね」
老人は申し訳なさそうな顔をして謝る。
「ちょっと腰を落ち着ける・・・さっき公園が見えたね。そこで話を聞いてもらってもいいかな?」
近くの公園といえば通学路としても人通りが多い公園だ。
「わ、わかりました」
何かあっても叫べば必ず人が来るようなにぎわった公園だ。
「さて、あのベンチでいいかな?」
老人はベンチに腰を掛け飛び回っていた妖精も老人の肩に乗る。
老人が2回くらい手のひらを開いたり閉じたりすると公園から音が消えた。
子供が騒ぐ声も、走る車の音も、動物たちの鳴き声もしなくなった。
「なにこれ・・・え?」
「これが魔法だよ、お嬢さん。無音の魔法、外の音は聞こえないし私たちの声も外には聞こえない。もちろん、2~3mの範囲だけだから3歩くらい歩いたら範囲から出るよ」
すごい・・・。本当にあるんだ魔法。
「さて、少し長くなるけど聞いてくれるかな」
「は・・はい」
老人から語られる話はおとぎ話のような話。
世界には魔法使いがたくさんいて、魔法使いはみんな学園に通って魔法の使い方や道徳、魔法使いの決まりを学んでいく。
そこには妖精や大きな馬のほかにもゴブリン、ドラゴンといったファンタジーお馴染みの生物がいるのだとか。
「ゲームやアニメ、見たことあるかい?あれはたぶん学園の卒業生が物語として流行らせたのだろうね。フィクションとして当然と考えられるようになって仮に見つかっても作り物や偽物と思い込ませやすくなったから学園としても何も言わなかったんだよ」
それに私の魔法資質。
「本当に不思議だよ。魔法使いは遺伝でしか生まれない。だからある意味、魔法使いは管理されているといっても過言じゃないんだ。今では家系図すら学園が管理していて誰にどの子供がいるかもわかっている」
だから私の存在が不思議だと・・・。
「君の両親は一般人だろうね。そしてその親達も。今まで魔法資質が遺伝されなかった前例はない。魔法使いの親は魔法使いこれが常識だったのさ」
「そしてここからが重要だからよく考えて聞いてほしい・・・というか選択肢が内容な説明を許してほしい」
?
「登録されていない魔法資質を持った少女・・・魔法を使って犯罪を起こしても魔法世界から犯人には上がらない、そして科学捜査では解決できない。つまり完全犯罪が起こせる少女」
「そんな存在が悪い存在に目を付けられないと思うかい?」
「あっ・・・」
「正直、魔法使いも全員が良識人ではない。それは人社会である以上当然なのかもしれないね」
それは当然だと思う。どんな人間だって過ちを犯すこともあるもの。じゃなきゃ戦争だって起きてないわ。
「管理された魔法社会といえど、あくどい方法で人を貶めたり、蔑んだりすることもある」
そんな悪意に私がいつ晒されてもおかしくないと説明された。
「今までは偶然見つかってなかった。これからも見つからないかもしれないが私は今日偶然見つけた。それが悪人だった場合は君は騙され魔法を使う道具として利用されるかもしれない」
確かにこれは選択肢はないかもしれない。
だってこんな音を消したり一般人には見えない魔法を使うような人たちに抵抗できる気がしない。
なら私は・・・。
「でも私は高校に通ってますし、こんな滑稽な話両親がなんていうか・・・」
「大丈夫だよ、これでも私は学園長という立場でね。科学側の偉い人とも実は知り合いなんだ」
なんというチートだ・・・。
「明日そちらの自宅にかなり身分の高い科学側の身元を保証できる人物と家にお邪魔するよ。両親には家にいるようにだけ伝えてくれないかな?」
「わかりました・・・」
「まだ不安だろうけど、徐々に知っていけばいいよ」
そういうと老人は瞬きと共に消えていた。
夢・・じゃないよね。
夢ではないとは思うがあまりに滑稽な話でまだ理解が追い付いてない。
「帰ろう・・・」
私は足取りおぼつかないまま家に帰るのだった。