表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/59

第七話 物理は無効

「C級のヘルベルト様……」


 受付嬢さんがかすれるような声をあげた。

 C級、つまりE級である俺の二つ上の冒険者ってことか。


 結構な実力者らしいな。

 しかしなんだろう、恐れられてる人なのか。受付嬢さんの反応を見るに。


 確かに、顔は迫力があるけども。 


「まだ、ラルス様の手続きがすんでおりませんので、」


 恐る恐る受付嬢がそう言うと、


「受付のねーちゃんよ。俺はこいつと話がしたいだけなんだ。


 ちょっと後回しにしてもらって良いかねえ? 面白い奴だと思っただけなんでなあ」


 ニヤニヤ笑いをこちらへ向けてくる。 

 

「で? そのスライムスキルってのはどんなもんなんだ? 人の着てる服を溶かすって本当か?


 こいつは相当イヤらしいスキルだよなあ! おっと、ちょうどいい実験台がいるじゃないか」


 ヘルベルトは受付嬢へ顔を向け、


「こいつの服を溶かしてみてくれよ! 


 俺は以前から、このねーちゃんがどんな下着を着けているか、


 気になって仕方なかったんだあ…… 白か? 黒か? それとも紫かあ? 


 それも、ヒモみたいなやつだったら俺好みだなあ!」


 ぐふふ、と含み笑いをしながら、受付嬢を上から下まで舐めるような視線を送る。

 受付嬢が顔を真っ赤にしてうつむいた。


 これはライン越えってやつじゃないのか。


「俺がバカにされるのは別に良いけども……

 

 受付嬢さんを侮辱するのは、問題があるんじゃないか」 


 と、俺は頭二つほど高いヘルベルトを見上げた。


「ほう? だったら、どうするってんだ?」


 ニヤリと笑うヘルベルトに、答えてやる。


「なにもしない」


「んあ? どういうことだ? 俺はスキルを見せろって言ってるんだ。


 ぶん殴られてえのか」


「ああ、それでいい。殴らせてやるよ。いくらでも。


 それで、分かるはずだ。こっちからは一切、手出しをしない」

 

 俺は足を開き、手を後ろに組んだ。

 自分の体で体験すれば、分かってもらえるだろう。


 ヘルベルトは頭をかき、


「何言ってやがる……頭、どうかしてるのか?


 だが、いくらでも殴っていいってんなら、やってやるよ!」


 そう言って思い切り右拳を振り上げ、俺の顔に振り下ろしてきた。

 バシイッ! とギルド中に音が響く。


「うーん? ずいぶん軽く来たな」


 その場から一歩も動かず、俺は再びヘルベルトを見上げた。


「な……なんだこいつ。俺のパンチを食らって、吹っ飛びもしないだと?」   


 ん? そりゃちょっと驚きすぎじゃないのか、ヘルベルト。


 いや、やっぱり最弱種ってのは相当軽く見られるんだな。

 そんな扱いなモンスターのスキル持ちも、同様になめられても仕方なしなのか。

 ちょっと小突くようなパンチで、吹っ飛ぶと思ったようだ。


「おいおい、どうしたヘルベルト」


「手加減してんのか? やるなら徹底的にやれよ」


 周囲の暇そうな冒険者たちがヤジを飛ばしてきた。

 やっぱり手加減してたのか。まったく。


「うるせえ! 貧弱な坊やに最初から全力でいくわけねえだろ!


 次からは本気だ……いい加減、逃げるか謝るかしたほうがいいぜ?」


「言ったろ、何もしないって」


「くそが! なめやがって!」


 ヘルベルトは今度こそ、本気の本気モードに入ったようだ。

 拳の連撃が雨のように降って来る。

 


 とたんに、周囲の冒険者たちがざわざわしだした。


「おい、あいつあれだけヘルベルトの拳を食らってんのに、その場から動かねえ!?」


「食らった瞬間は、確かにのけぞってるみたいだが……

 

 足はその場に固定されたみたいに、ビクともしないぞ?」


「なんなんだあいつは!? 拳を寸前で受け流してるとかでもねえ!」


「はあ、はあ、はあ……」


 ヘルベルトの息が上がって来た。

 肩が上下し、頭からは湯気のようなものが噴出している。


「分かってもらえただろうか?」


「はあ、はあ……な、なんなんだてめえは……! どうなってやがる!


 確かに拳は当たってるのに、顔も腫れねえ、歯も欠けねえ、血さえ流してねえ!


 なんで、なんでなんだ!」


「だからこれがスライムスキルなんだって。【物理無効】さ」


「そんなわけあるか! 人間がモンスターのスキルを使えるとか! 


 ハッタリかましやがって! 次だ……次で仕留める!」


 叫んだヘルベルトが、ぐっと腰を落とした。

 左手を開いたまま前へ、右手は握った状態で腰の横に構える。


「お、ヘルベルトの奴。ついに最終奥義を出すつもりだ」


「流正拳突き。人の大きさくらいの大岩を軽くブチ割るってアレか」


「さすがにアレを生身で食らったら、体が吹き飛ぶなんてもんじゃねえぞ……


 中身がそこら中に飛び散っちまう。そろそろ昼食どきだってのに」


 確かに、腹減って来たなあ。

 いい加減、冒険者登録手続きも済ませないと……


「おおおっ! 一撃、ひっさあああっつ!」


 ヘルベルトの渾身の正拳突きが、俺の腹に向かって放たれた。

 ガギン! と重々しい衝突音が鳴り響く。


 カウンターで、【硬質メタル化】のスライムスキルを発動させたのだ。

 これで、ヘルベルトの右拳をしばらく無力化できるだろう。


「ぎゃああああああ!」


 しかしヘルベルトは叫び声あげ、右拳を抱えてうずくまってしまった。

 あれ、やりすぎただろうか……


 いやいや、彼もC級冒険者。Sを除けば上から3番目のランクだ。

 突き指くらいで済んでるはずだけど、痛がりなのかもしれない。


「しかし、確かにすごい突きだったよ……さすが冒険者だ。


 とりあえずこれで【スライムスキル】、確かめてもらえたかな」


 声をかけるが、うずくまったままのヘルベルトからは返事がない。

 突き指、そんなに酷かったんだろうか。


「あら? 何事なの?」


 そこへ用事を済ませたらしいマルグレットが戻って来た。


「いや、ちょっと色々あって、ヘルベルトが突き指したみたいなんだ。

 

 回復かけてやってくれないかな」


「……? いいけど……」


 しかし、ヘルベルトはかがみこんだマルグレットを押しのけ、


「余計なお世話だ……! ぐ……ちくしょう、覚えてろよ!」


 と右腕を抱えたまま、のろのろと歩いてギルドの外へ出て行ってしまった。

 やっぱり、回復魔法をかけるほどでもなかったんだな。

 

 ふうっと安堵の息をはく。

 と、今までヤジっていた冒険者たちに囲まれた。


「すごいなお前! あのヘルベルトを軽くあしらうなんて!」


「どうやったんだ? あんだけ殴られたのに、かすり傷一つねえ!」


 やっぱり聞かれるか。一応答えてみるが、同じような反応が返って来るんだろうなあ。


「【スライムスキル】だよ。柔らかくなったり、硬くなったり……」


「わはは! おかしなことを言う奴だな!」


「秘伝の肉体操作術と見たね。門外不出の技法なら、隠すのもうなずける」


「なるほどな。だが、スライムがどうとか言う誤魔化し方は笑えるぜ!」

 

 ……妙な方向で納得されてしまった。

 まあ、そう言う事にしておいたほうが無難かもしれない。


 さんざん肩をどやされたり、「スカッとしたぜ!」とか言われたり、褒められたりした後、ようやく解放された。

 ヘルベルトはどうも嫌われ者だったようだ。


 俺は受付嬢のほうへと振り向いて、


「えーと、お騒がせして申し訳ない。


 登録手続き、よろしくお願いするよ」


 と笑いかけた。


「あっ……はい……ありがとうございます」


 受付嬢はちょっと嬉しそうな顔をして、手続きを再開した。

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


 下にある☆☆☆☆☆で、応援お願いいたします。


 ☆一つからでも、正直な評価をよろしくお願いいたします。


 作品作りの参考にもなりますので…… 


 ブックマークしていただければなお嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ