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第五十二話 決戦・アンブロシウス2

「……体組織、構成完了。我が肉親アンブロシウスの知識、導入完了。


 おはようございますニンゲンども。では死ね」


 閉じた目を開いたブラッドカーリン。

 最初の言葉を言い終えた直後――飛翔魔法を使い、こちらへと突撃してきた!


「しゃっ!」


 ブラッドカーリンは両手のひらから黒い刃のようなものを突き出し、

 体を回転させながらそれを振るった。


 かろうじて剣で受け止めるマルグレット。

 俺はその剣を見切れなかったので【硬質化】を使い、体で身を守った。

 

「む?」


「え?」


 ブラッドカーリンとマルグレットが同時にけげんな声をあげた。

 マルグレットの剣が、白い光で包まれているのだ。


「魔族の黒いのが真の魔法剣なら、マルグレットのそれはあたし流の魔法剣!


 白熱の光魔法を付与しておいたっしょ!」


 ベリトの頭でカーリンスライムが得意げに跳ねた。


「あ、ありがとうございますカーリンさん! 


 あやうく、剣を折られるところでした」 

 

 マルグレットは初見にもかかわらず、相手の剣筋を見切って受け止めたうえに

 その威力も察していたようだ。

 さすが、いまや大陸一であろう聖騎士だ。


 ……初見といったが、もしかしてさっきカーリンベリトの炎を消したのは、

 あの黒い刃だったのか。


「フン、小細工を……しかし、こっちの男も気になる。


 なぜ斬れなかった? オマエはなぜ硬い?」

 

「これが【スライムスキル】だ……おぼえとけ」


「?」


 意味が分からない、といったように眉を寄せたブラッドカーリン。

 だがすぐに攻撃を再開してきた。

  

「剣の腕は凡庸……魔法も使えないようだ。だのに、なぜ。


 オマエは斬れぬ。ダメージを与えられぬ」


 ブラッドカーリンは俺一人にターゲットを絞り、黒い斬撃を

 次々と繰り出してきた。そのうえ無詠唱でいきなり黒い魔法炎を

 ぶっ放してくる。


 しかし、いかなる攻撃もメタルの体は通さない。


「今のうち!」


 俺が叫ぶと、察したマルグレットとカーリンベリトがアンブロシウスへと

 突進した。たまたまだが俺が囮という形になってる今、本体へ攻撃する

 いいチャンスだ。


 だがすぐに気が付いたブラッドカーリンは、俺を蹴りで吹っ飛ばしつつ

 飛翔魔法を使い、すぐさまマルグレットたちの眼前へと降り立つ。


「くっ!」


 マルグレットたちは攻撃を仕掛けるが、ブラッドカーリンは

 右手の魔法剣と左手の攻撃魔法で、それらを楽々受け止めた。


 直後、ブラッドカーリンが右足を踏み下ろす。

 するとそこから勢いよく地面が隆起し、マルグレットたちは

 後方へと転がって避けた。


「そりゃあたしの属性魔法! 足で使うとか失礼っしょ!」 


 ベリトの頭に引っ付いたカーリンスライムが憤慨の声をあげる。

 ブラッドカーリンは一言も発さず、体勢を崩したマルグレットたちの

 頭上を飛んで、ふたたび俺への攻撃を再開した。


 ガチンガチンと、黒い刃が俺の体で弾かれる音がしばらく続く。

 その攻撃のさなか、繰り出した俺の剣の一撃をひらりと後ろへ飛んで

 避けたブラッドカーリン。


「やはり、硬い。奇妙な技を使うニンゲンだ。


 興味が湧いてきた」


「……なら、後で俺をいろいろ調べてもいいから、そこをどいて


 アンブロシウスを倒させてくれないか」


「ふざけるな。それはオマエを倒してからでも出来る」


 さすがに無理か。

 それに、スライムスキル研究はベリトが予約済みだった。

 順番を違えるわけにはいかないな。

 

「倒してから、か。おまえの攻撃は俺に通用しないようだが」


「フン。そっちの剣も魔法もこちらには届かぬ。条件は同じだ。


 それに、オマエのその硬いの。硬い間は、いっさい攻撃が出来んとみた。


 オマエが攻撃のために動くその時、狙えばいいだけだ」


 それは確かに正しい。


「それに……戦いが膠着するなら、それはそれで良い。


 その間に、我が肉親が目的を果たす」


 そうだ、こいつは俺たちとの戦いは『引き分け』でも構わないのだ。

 ん、引き分け……


 一つ案が浮かんだ俺は、冒険者手帳に書かれてあったことを

 必死で思い出しつつ、冒険者ジェスチャーでマルグレットたちに伝えた。

 光通信と同じく、情報伝達のために取り決められた仕草だ。


「ひえー。無茶なこと考えるもんっしょ」 


「しかし、急がないと。時間がどれだけ残っているか。


 ここはラルスを信じましょう」

 

「……そろそろ三日目に突入しそうな時間帯。リミットが不明な以上、


 最大限急ぐしか……」 


 カーリンスライム、マルグレット、ベリトの三人がうなずいた。

 そして俺たちは、マルグレットを先頭に、カーリンベリト、俺の順で並ぶ。


「フン、家畜にも劣るニンゲンどもが、何かたくらんだか。


 我の後ろに、我が肉親。そしてオマエら三人が、一直線上に……


 何をやろうと全てに対応しようぞ。そして我が肉親を必ず守る」


 ブラッドカーリンが余裕の表情をみせる。


「……行きます!」


 マルグレットが裂帛の気合と共に、ブラッドカーリンに斬りかかる。

 二人の剣戟の音が、塔内部に響き渡った。

 

「……やる。剣の腕はアロルドに迫るものがあるな。


 いや、一太刀一太刀、振るうたびに凄みが増してくる。


 それでいて表情も心も穏やか……精神面はやつより上か」


 ブラッドカーリンが両手の黒い刃を使い、マルグレットの連撃を

 受け止め続ける。


「だが我はそもそも剣士ではないからな……剣のやり取りに飽きたら、


 こうする」


 ブラッドカーリンが足をさっと振り下ろした。

 直後、さっきより広範囲の地面が隆起し、マルグレットが空中高く吹っ飛ばされる。

   

 カーリンベリトがそのわきを素早く回り込みながら、アンブロシウスに突進した。

 手を伸ばし、再び最大級の火球を放とうとする。


「そう来ると思った!」


 カーリンベリトが左手の刃を消し、黒い火球を放った。

 かろうじて火球で相殺したが、直後に起こったすさまじい爆発で

 カーリンベリトはゴロゴロと地面を転がっていく。


 そして俺はカーリンベリトとは反対方向から回り込み、横薙ぎの剣を

 思い切り振るった。


「オマエは片手で十分!」


 ブラッドカーリンの黒い刃が一閃、いや数十閃。

 よっぽど余裕があったのか、ブラッドカーリンは黒い刃を縦横無尽、

 何度も振るい、俺はバラバラに斬りさかれてしまった。


 一度斬られる程度なら、すぐさまその部分を引っ付けて

 勢いをあまり殺すことなく、相手に向かっていけるのだが。

 こうもバラバラにされてしまっては引っ付く余裕がない――


 俺はたくさんの水滴と化し、ばしゃっと地面に飛び散った。


「……!? なんだ? こいつ……水で出来たニンゲンなのか?


 いや、水が硬くなるなど……スライム、スキル……? むっ!」


 ブラッドカーリンが困惑の声をあげ、すぐに警戒の表情になる。


「足が、固定されている!?」


「【粘着】をお前の足元に付与しておいた」


「なっ!? 斬られたはずでは……!?」


 水滴と化した俺は、地面を這ってブラッドカーリンの背後に移動。

 すぐさま集合して元の形へと戻り、背後をとったのだ。


 そして、ブラッドカーリンに組み付き、足と腕を抑えたうえで

 全身を【硬質化】させる。【粘着】とあわせて、これでこいつは

 飛翔も出来ないどころか魔法自体を発動できない。


 魔族は無詠唱で魔法を発動できるが、身振りは必要なのだ。 


「今だ」


「……あい」


 よろよろとやってきたカーリンベリトが、三たび、最大級の炎魔法を発動させた。


「離せ! オマエ、まさか。もろともに……!?」


「正解。俺とおまえは引き分け、だ」


「オマエは生き残る算段があるからそうしてるんだろうが! 何か違うぞ!?」


 そしてカーリンベリトの炎魔法が俺たちを包んだ。

 数十秒後……


 炎が消えた時、ブラッドカーリンはひとつかみの灰と化していた。

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