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第四話 遭遇戦、冒険者との出会い

「おお……広い! 空が、高い……」


 森を出た先に広がっていた光景に、思わず足を止めて見とれた。


 青草が風にそよぐ草原、はるか遠くに青いもやのような山脈。

 ときどき輝いて見えるのは、平原を流れる川の水面か。


 どこまでも青く高い空には、綿のような白い雲がいくつか浮かんでいる。

 

「あれかな……? ここから、一番近い街は」


 スヴェンじいちゃんから聞いたとおり、南のほうに小さく、

 壁に囲まれた家々と白い王宮のようなものが見えた。

 

 あれが、人間の街……王都、シエルベリか。

 さっそく、そちらへ向かって歩き出す。

 

「とりあえず、お金ってやつを稼がないとな……何をするにも必要らしいし。


 森での狩りの技術とかを生かせる職くらい、あるだろう」


 とりあえず、冒険者以外なら何でもいい。

 モンスターを好き好んで狩るなんて、そんな恐ろしい奴らには近づきたくもない。


 そして、この周囲にもモンスターがうろついてるはず。

 それもスライムより強いとされるものが。

 そう考えると恐ろしくなり、思わず駆け出してしまうのだった。

 

「早く王都に入ってしまおう……!」


 しかし、そう上手くいくほど、俺は幸運ではなかった。

 街の外壁がだいぶ近くに見えてきた頃…… 



 一人の女性が、巨大なモンスターと戦っているのに出くわした。

 銀に輝く鎧に身を固めた、女騎士。


 あれが噂の冒険者、ってやつか。

 悪魔のような恐ろしい外見を想像してたが、案外普通だった。

 

「うわっ、女騎士さんが戦ってるのは、ジャイアント・マンティスじゃないか。


 魔女の小屋にあった、モンスター図鑑で見たぞ。


 脅威度レベルは確か、6だった」


 スライムの6倍強いと評価されるやつが、もうこんな近くにいるのか……

 ここは大人しく、モンスター狩りが趣味の冒険者の人に任せようか?


 と思ったのだが。

 女騎士さんは苦戦を強いられているようだった。


 よく見れば、女騎士さんの近くには、二人の冒険者らしき人間が倒れていた。 

 死んではいないようだが、ジャイアント・マンティスにやられたらしい。


 女騎士さん、一人で良く持ちこたえているけど。

 限界が近いように見える……


 そう思った次の瞬間、彼女の剣がマンティスのカマに弾き飛ばされた。

 

「まずい!」


 思わず、剣を抜いて走り出した。

 脅威度レベル6というとてつもない相手に向かって。


 頼む……通用してくれ。

 倒せずとも、追い払えるくらいのダメージを!


 女騎士さんにジャイアント・マンティスのカマが振り下ろされる、その直前。


「【溶解】! うおおっ!」


 脅威度レベル6の相手に効くとは思えなかったが、祈る気持ちで発動させた。


 スライムスキルは直接触れて発動させるやり方と、手に持った物にまとわせるやり方がある。


 今回は直接だと間に合わない距離だったので、後者を選んだ。

 つまり剣に【溶解】を付与したのだ。


 そしてジャイアント・マンティスのカマを狙って、

 走りこみながら剣で斬り上げる。


 すぱんっ、と小気味の良い音を立ててカマが宙を飛んだ。


「斬れた!?」


 たまたま当たり所が良かったのか。だが検証はあとだ。

 走りこんだ勢いそのままに、ぐるっとジャイアント・マンティスの後ろに回り込む。

 そして、さらにもう一撃、胴を狙って右上から左下へと剣を振り下ろした。


「ギィーーッ!」


 斜めに胴を切り裂かれたジャイアント・マンティスは、

 断末魔を残して地面に崩れ落ち……動かなくなった。


 やった、なんとか通じたみたいだ。

 良く見ると、ジャイアント・マンティスの体には、

 剣による傷跡が無数についている。


 女騎士さんの攻撃で、こいつは倒れる寸前だったんだな……

 そのおかげで俺の剣が通ったのか。


 さすがに、冒険者なだけある。


 ふうっと息を吐いて、剣を鞘におさめる。

 

「だ、大丈夫?」


 折れた剣を持ったまま、地面に座り込んでいた女騎士に声をかけた。

 無我夢中だったが、今になって体に震えが来ている。


 脅威度レベル6の強さの敵に立ち向かうなんて、ちょっと無謀だった……

 結果的に倒せたけど、ほぼ女騎士さんの手柄だ。

  

「ありがとう……助かったわ」


 女騎士さんは立ち上がって礼を言い、右手を伸ばしてきた。

 握手というやつかな……俺も右手を伸ばして掴む。


「間に合って良かった。俺はラルス」


「私はマルグレット」


 波打つ長い金髪、透き通るような蒼い目が印象的な美人さん、いや美少女さん?

 自分と同じくらいか、一つ二つ年上かな。

 いやー、自分以外の人間とは初めて会うよ。緊張する。

 あ、そういえばもう二人いたな。


「お仲間さんは大丈夫?」


「そうだわ! シュティーナ! メルタ!」


 マルグレットは慌てて地面に伏している仲間へと駆け出した。


「二人とも! しっかりして!」


 声をかけるが、シュティーナとメルタと呼ばれた二人――

 服装から判断するに、神官と魔法使いの女性――は、うめき声を上げるだけで、

 起き上がる事も出来ない様子だ。


「ヒール!」


 マルグレットが回復魔法を発動させた。

 すごいな、この人魔法も使えるんだ。


 しかし。


「血が止まらない……! 私程度の魔法じゃ、街まで持たない!」


「じゃあ、これ使う?」


 俺は腰のポーチから小さい革袋を取り出した。


「スライムポーションだよ」


「スライム……?? 見た感じは普通のポーションね、ありがとう!」


 じいちゃんが「万が一の時に」と持たせてくれたやつだ。


 魔女の小屋にあった、怪しげな薬品を独自に配合して作ったらしい。

 怪しげと言っても効果は確認済みである。


 マルグレットがポーションを飲ませると、ちゃんと回復出来たようで

 二人は頭を振りながら起き上がった。


「助かった……! これで二回目ね。


 いえ、あなたは私たち、三人の命を救ってくれたわ!」


 今度は両手を握って来る。

 二人分はスヴェンじいちゃんの手柄かな。


「あなたも冒険者? 腕を見るに、相当上位ランカーなんでしょうね」


 俺の格好を見たマルグレットが聞いてきた。

 ん、そんなに冒険者っぽいんだろうか。


「いや、違うよ。ええと、ただの旅人」


 そういや、冒険者には近寄らない方針だった。

 マルグレットは見た感じ、そんな恐ろしい人物には見えないけど。


 でもそろそろ切り上げて、街へと急ぎたい。

 また、あんな脅威度のモンスターと会わないとも限らないし。  


「旅人が持つにしては、すごい切れ味の剣だったわ……


 ジャイアント・マンティスの胴体を一撃なんて」


「いや、あなたの攻撃でだいぶ弱っていたみたいだし。


 俺の一撃はそれに助けられた」


「そ、そうかしら? 私の剣なんてほとんど効果を感じられなかったけど……」


 戸惑いの表情を見せる女騎士さん。


 脅威度6の敵を相手に、互角の立ち回りをしていたのに控えめな人だ。

 強さも心の気高さも、俺よりはるかに上だな。


「にしても、まさか脅威度6のモンスターと出くわすなんて」


「珍しいの?」


「私たちも驚いたわ。初めてよ、こんなこと」


 さすがに、そんな強さのがいつも居るわけじゃないみたいだ。

 いきなり脅威度5は飛びすぎる。もっと段階を踏みたい。


 スライムが1なんだから、次は2が順当ってものだ。

 

「ここ一帯は、いつもはせいぜい3だったのに……」


 マルグレットのつぶやきに、思わず周囲を見回す。


 スライムの3倍の強さのモンスターが、いつも徘徊してるのかここは。

 十分、危険地帯じゃないか!


「私たち、王都に戻ってギルドにこのことを報告しなきゃ。


 あなたは旅を続けるの?」


「いや、俺も王都に用があるんだ」


「それじゃ、一緒に行きましょ。

 

 仲間二人も万全じゃないし、あなたが居ると心強いわ」


 マルグレットにまた握手を求められたので、握り返す。

 心強いとはこちらのセリフだよ。


 俺一人じゃ、あのマンティスに傷一つ付けられなかっただろうし。

 読んでいただきありがとうございます。


 面白かった、続きが読みたい、などと思われましたら、


 下にある☆☆☆☆☆で、応援お願いいたします。


 ☆一つからでも、正直な評価をよろしくお願いいたします。


 作品作りの参考にもなりますので…… 


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