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第四十六話 砂の下から

「まったくウルリーカさんは! どうしてそうなんですか!」


 ラムエルダス冒険行、五日目。

 照り付ける太陽のもと、俺たちは黒き荒野を首都ヴィカンデルに向かって前進している。


 カーリンスライムによれば、一週間ほどで首都にたどり着けるらしいので、

 もう道行きは半ばを超えたわけだ。


 そしてその頃から、足元が固い地面から柔らかい砂に変わった。


 ほとんど灰色の砂が視界いっぱいに広がり、遥か彼方には

 世界の壁と言われるアルトゥール山脈が青いかげろうのように見える。


「ほんとにもう、いい加減にしてください!」


 そういえば砂漠に入ってから、モンスターが現れていない。

 夜の霊体系も初日以降出て来ないし、このままなら割と楽な旅になりそうだ。


「ちょっと、聞いてますか?!」


 そろそろ昼食の時間も近くなってきているのだが、マルグレットの説教は朝から続いていた。


「少しは恥じらいを持ってください! 初日は上半身裸、二日目は下半身が。


 三日目はぜ、全裸で! ずっとラルスにしがみついてて! 四日目は


 二人を引き離して寝たはずなのに、次の朝になるといつの間にか


 また全裸で引っ付いて! ギルドマスターの尊厳とか、ないんですか!?」


「べつに良いじゃないかー。誰も見てないんだし」


 頭をかきかき、ウルリーカが面倒くさそうに答える。


「私たちやラルスがいるでしょう、ってそういう問題ではありません! 


 人としてどうかと言っているんです!


 あとラルスの迷惑も考えてください!」


「わたしが抱き着いて来て迷惑か、ラルス?」


「いや? 夜はやや冷えるから、あたたかくていいかもしれない……うっ」


 答えたとたん、マルグレットの鋭い眼光が向けられてきた。

 これがS級の目力。とんでもない迫力である。

 俺の肩に乗ってるカーリンスライムも、「こわっ」と背中側に引っ込んだ。


「ベリトも、なにか言ってやってください!」


「……前方に、正体不明の動くものを感知。三つ、やってくる」


「は??? ……って、敵!?」


 とつぜん話を振られたベリトは、たまたま索敵魔法による結果を報告したのだが、

 話の流れ上、一瞬意味不明に聞こえてマルグレットは困惑した。が、瞬時に立ち直り、

 前方に目を向ける。


 俺たちも油断なく前方を確かめるが、それらしいのは何も見当たらない。


「……どんどん近づいてる。もう目視出来てもおかしくない距離」


「うーん、見えないな」


「……ちょっと待って。何かおかしい。


 地面……砂面? の下にいる……?」


 とベリトが報告した直後、前方すぐ近くの砂面に、船の三角帆のような

 黒っぽいものが現れた。

 そいつは砂面をすぅーっと滑るように移動し、こちらへとやってくる。


砂鮫サンドシャークかな?」


 カーリンスライムがつぶやいた瞬間、体長10メートルはありそうな

 青っぽい魚のようなものが、砂を割って飛び出してきた。


「うおっ」


 俺たちは横っ飛びでそいつらの突撃をかわす。

 ガチン、とトゲトゲの歯をかみ合わせた音がした。

 

 砂鮫と呼ばれたモンスターは、直後に砂漠にするりと潜り、また姿が見えなくなる。


「気を付けて、あの歯は鉄製鎧も軽く貫通するから」


 とカーリンスライムの警告。


「それ以前に、全く未知のモンスターです! 


 鮫って、海に居る生き物ですよね?!」


 マルグレットが剣を構えながら、周囲に目を配る。


「やつらは砂の中をまるで海のように泳ぐんだ。目は退化してるから、


 ときどき砂の上に背びれを出して、そこから出す魔力波で


 獲物を感知するみたいっしょ」


「足元の敵か……見えないのがやっかいだな」


 俺も剣を構えて見回すが、砂の表面には一切の動きがなかった。

 砂鮫が飛び出してきた痕跡すら分からないくらい、やつらは砂をなめらかに

 かき分けて泳いでいるようだ。たまに背びれが見えるが、すぐ消えてしまう。


「食らいつかれたら、そのまま凄い勢いでミンチにされるか、


 砂の中に引きずり込まれるよ。そうなったら対処しようがないっしょ」


「ベリト、位置を教えて!」


 マルグレットが叫ぶ。


「……えっと、三匹は今はバラバラになって、ちぐはぐに動いてる、すごく早い。


 一匹はあそこで……あ、二匹目が交差した、えっとえっと」


 ベリトが、わたわたした様子で指さしながら答える。

 これは、口頭で言ってる間にやられてしまいそうだ。


「皆、一か所に固まった方が良いんじゃないか?


 そうすれば鮫たちの動きも限定されるはず」


「良いアイデアだラルスちゃん」


 カーリンスライムのお墨付きを得て、俺たちは全員ピタッと一塊にくっつく。


「……あ、分かりやすくなった。三匹が並んで、向かって来る……


 これなら、ボクに任せて」


 ベリトが、鮫が向かって来るらしい方向へと移動した。

 そして魔法の詠唱を始める。


 数秒後、砂鮫が三匹、砂から飛び出してきた。

 その直後、


「……氷結壁アイスウォール!」


 ベリトの魔法が発動した。

 氷の壁を展開する防御系魔法だが、鉄をも砕く歯を持つやつらには

 効果がないのでは……と一瞬思ったが、ベリトの意図は違った。


 飛び上がった砂鮫のちょうど真下から、凄い速さで氷壁を生やしたのだ。

 氷壁に突き上げられた鮫たちは、空中高く吹っ飛ばされた。


「……あと、よろしく」


「わかったわ!」


「さすがベリト」


 ひと仕事終えたベリトはしゃがみ込み、俺とマルグレットは落下してくる鮫に向かう。

 そして俺が一匹、マルグレットが立て続けに二匹、空中で身動きの取れないうちに

 剣を振るって仕留めたのだった。




「やるねえ二人とも。手があれば拍手してるとこっしょ」


 カーリンスライムがぴょんぴょん跳ねる。


「でも今回の一番の功労者は、優れた探知魔法のベリトちゃんかな?」


 確かに、探知情報が無ければ危なかった。

 見えない足元からの奇襲は、気づいた時には手遅れになっていただろう。


「さっすが我が娘よ、今回は3ラルスポイントくらい入れても良いね!」


「それはちょっと、優遇しすぎでは?」


「そしてわたしに対し、罵詈雑言を浴びせ続けたマルグレットは


 マイナス100ポイント」


「なっ!? 私情を挟まないでください!」


 俺の名前が付いた、謎のポイント獲得ゲームはまだ続いていたようだ。


「しかしモンスターとはいえ、砂の中を泳げるなんて。


 その様子は砂の上からは分からないうえ、飛び出したり潜ったりの


 痕すら砂面に残さない。そんな事、物理的に可能なんだろうか」


「おそらくは【砂中遊泳】みたいなモンスタースキルの持ち主だろうね」


 俺の独り言に、カーリンスライムが答えた。


「つくづく、モンスタースキルというのは理不尽だな」


「ラルスちゃんがそれ言う……?」


 いつか聞いたような突っ込みをもらった、その時。

 足元に微妙な振動を感じた。


「また、砂鮫なの?」


 マルグレットも再び剣を抜き、足元に目をやる。

 しかし、鮫の時は一切の音も振動も感じさせず、近づいて来たのだ。

 今回はまた違うものか……?


「……足元! 地下、数10メートルあたり!


 すっごい大きいものが浮上してくるよ! みんな、急いで散って!」


 ベリトが今まで聞いた事のないような大声を上げた。


 慌てて駆け出すマルグレットたち。

 俺も砂の上のカーリンスライムを拾い、走り出す。


「……! 地下のやつ、ラルスのほうへ……! だめ、間に合わない!」


「おおっ!?」


 足元の砂面から、突然白い棒状のものが飛び出し、俺は凄い勢いで

 空中に弾き飛ばされてしまった。

 そしてその棒の持ち主が、もうもうたる砂煙とともに砂面を割って現れた。


砂漠巨鯨サンドモビーディック! ここ一帯で一番の大物っしょ!」


 俺と一緒に空中でくるくる回りながら、カーリンスライムが叫ぶ。


 砂の下から現れたのは、超巨大な鯨だった。


 黒光りする丸い巨体の頭部には、長い一本のツノが生えている。

 俺はそいつに砂の下から突き上げをくらい、吹っ飛ばされたのだ。

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