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第四十五話 ラムエルダスでおやすみ

「これで、とどめぇっ! ぜえ、ぜえ」


 俺とマルグレットが霊体アストラルの敵200体を倒しきったのと、

 ウルリーカが残り100体にとどめを刺したのはほとんど同時だった。


「お疲れ」


「お疲れ様です」


 三人で合流したとき、さすがのウルリーカも肩で息をしていた。

 神聖系魔法を使い続けながら戦ってきたわけなので、もうほぼ

 魔力切れ寸前、といった状態だ。


「ぜえぜえ。まあ、対ラムエルダスのモンスターでわたしが対応できるのは


 アストラル系くらいなものだしね、張り切り所ってわけよ……ふう」


 ウルリーカは昼のラムエルダスでは荷物持ちに徹している。

 それは、彼女の戦力では魔の地のモンスターに太刀打ちできないからだが、

 アストラル系だけは例外となる。


 やつらは脅威度レベルの強さに関わらず神聖系が弱点なのだ。


 ちなみに、今出現しているアストラル系の個別の脅威度レベルはそれぞれ20ほど……

 ということを後にカーリンスライムから聞いた。

 

「はあ、ふう。でも、ラルス君のスライムスキルは夜でも有効なのにはまいるね。


 あやうく、見せ場を全部かっさらわれるところさ」


「そんなことはない。ウルリーカがやつらの弱点である神聖系を持っている、


 という事が俺たちの安心につながってる。だから俺たちは余裕をもって戦えた」


 と俺がウルリーカに答えると、彼女は笑みを浮かべてどさりとその場に座り込んだ。

 気力的にも魔力的にも、限界が来たのだろう。


「あ、あの。ラルス。ありがとう……私に、名誉挽回の機会を与えてくれて」


 少しもじもじしながら、マルグレットが話しかけてきた。


「そのために、アストラルの連中をわざわざ水人形にしたんでしょう?


 ゼリー状なんかじゃなく、ただの水にしてこの大地に吸わせてしまえば、


 それで十分倒せたはずだわ。それを……」


 マルグレットの言葉に、俺は頭をかいた。

 さすがに見抜かれてしまっている。


「まあ、その。マルグレットの剣技は唯一無二だと思ってるから。


 一番の戦力だし、何か他のことが出来ないからとか怖いものがあるからって、


 自信を無くして欲しくないなって思っただけなんだ」


 と答えると、マルグレットは赤くなりながらぼそぼそとつぶやいた。


「えっと、さっきはご、ごめんなさい。嫌い、なんて言ってしまって。


 本当はそんなことないから、絶対」


「……むしろ、好きだから。大好きだから」


「ちょっ!? 変なこと言って割り込んでこないでください! ベリトさん!」


 いつの間にか合流していたベリト。

 無表情ながら、今は地味にニヤニヤと言えそうな笑みを浮かべている。

 と、ここでぴょんぴょん跳ねながらカーリンスライムがやってきた。


「おつかれちゃん。いやさすが君たちだね、おめでとう。


 ラムエルダスの夜を生きながらえた、人類史上二番目のパーティとなったよ」


 最初のパーティは魔女カーリン、ということか。

 パーティといっても、カーリンは常に人とは組まない単独ソロ主義者。

 使い魔の猫だけがメンバーだったという話だ。


「昼はねー、巨人系は恐ろしい強さを持つとはいえ、あまり頭もよくないし、


 罠にハメたり、搦め手を駆使すればジャイアントキリングも可能じゃある。


 文字通りのね。そして、そいつらから隠れながら魔の地を進めなくもない」


 カーリンスライムが静かに揺れながら語る。

 しかもいまだに光りっぱなしなので、照明器具が喋ってるみたいで

 ややシュールな光景だった。


「でも、夜の霊体アストラル系はそうはいかないっしょ。


 やつらは突然近くに現れる。なんとか逃げても、いつの間にか


 追いつかれているか、先回りされる。『ふう、振り切ったか』と


 安心したところで、バーン! って出るっしょ。


 そして魂を吸われて、一巻の終わり。理不尽なんよねーやつら」


 決して逃げる事の出来ない敵、というわけか。

 しかしカーリンは、この地で他の誰かに起こった事を、

 まるで見てきたように語るな……?

 

「そして数に際限がないっしょ。倒しても倒しても、いつの間にか補充され、


 まるで無限の軍隊を相手にしているような状況に、どれだけの強者だろうと


 そのうち力尽きるってのが今までもパターン、だねい。


 ってことで、ラムエルダスの夜を生きながらえた人間はいない……というわけ」


「え? ということは、これからまだ現れる……のか?」


 げえ、といった表情のウルリーカ。

 さすがに彼女はもう戦えないだろう。


「いや、もう大丈夫っしょ。本来ならこれから第二波、第三波……と


 増援が湧いて出てくるんだけど、第一波がまさかの全滅だからね。


 ありえない事態に、やつらも『こっわ! あいつらこっわ!』とか


 思ってんじゃないかな。もうやつらはこっち来ないと思うっしょ」 


 その言葉に、ウルリーカも皆もほっと一息をつく。


「おばけを怖がらせたらしいぞ」


 とマルグレットに話しかけると、彼女は微妙な笑いを浮かべた。


「んじゃ、寝ていいかなー? もう疲れたー」

 

「ウルリーカちゃん、相当消耗したみたいだねえ。


 まあ、今夜はもう安全と言っていいっしょ。巨人系も夜は動かないし。


 あたしが念のため寝ずの番するから、皆は寝て良いよー。

 

 この体に睡眠は必要ないから、交代しなくても大丈夫」

 

 それはありがたい。

 冒険者の夜は、数時間おきの交代制で一人が警戒要員をつとめるのが定例だが、

 俺はなかなか慣れないでいる。


「じゃあ、寝床を作ろうか」


 と俺がいつものように【水と成る】を使って、周囲の地面を適度なやわらかさの

 ふかふか水製ベッドに変化させると、


「うわあ何これ!? ウォーターベッド!?


 君たちはいつもこんな寝床で休んでいたのかい!? 屋外で!?」


 とウルリーカが目を剥いた。


「あたしも初めて見たよ! 【スライムスキル】、もはや何でもアリっしょ」


 カーリンスライムもぴょんぴょん跳ねる。


「私も最初は驚きました。これ、すごく寝心地が良いんですよ。


 水で作られるのに、密度が高くて弾力性があるから寝ても沈まないし、


 しっかり体にフィットするんです。ね」


 マルグレットがベリトに目を向けると、ベリトの猫耳がふるりと縦揺れした。


「ウォーターベッドなんて、一部の大金持ちが大枚はたいて


 魔道具職人に作らせるような、特注の贅沢ベッドだというのに……


 ああ、もうわたし限界。今晩敵が出ないなら、これも要らないよな」

 

 とウルリーカは身に着けていた、銀製の胸当てやら膝当てなどを外し

 布製のチュニックとズボンだけになると、ふらふらと水製ベッドに倒れこむ。


「うお?」


 その際なぜか俺の腕を取り、巻き込みながら。 

 そして俺の体の左からしっかり抱きついて、速攻で寝息を立て始めた。


「なっ!? なにを!?」


 マルグレットが顔を赤らめて叫んだ。


「……おかーさんは寝る時はいつも、抱き枕が必要。


 荷物に入ってると思うけど……疲れすぎて、ラルスで代用したんだね」


 とベリトも俺の右に寝転がると、軽く俺の腕を取って丸まり、目をつぶった。

 

「あ……ちょっ……私の、場所……んんっ」


 マルグレットが咳ばらいをした後、しばらくきょろきょろして

 一部の装備を外し、ベリトの横に身を横たえる。

 こちらに背を向ける形になっていたが、その背中はなぜか落ち込んでるように見えた。


「はは、お休み、みんな。安心して眠るといいっしょ。


 いまラムエルダスで、ここが一番安全な場所だよ……」  


 カーリンのつぶやきを聞いたのち、俺も静かに深い眠りへと落ちていった。


 

 ――そして次の朝起きたとき、ウルリーカは寝ている間に脱いだのか

 上半身裸で、俺の頭をその大きな胸の谷間にはさみ込んでおり、それを見た

 マルグレットがしばらく暴走したり説教モードに入ったりという

 事態になるのだが。



 それはともかく俺たちは、ラムエルダスでの一日目を

 無事に越すことが出来たのだった。

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