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第四十三話 アストラル系との初遭遇?

※7月に入ったら更新ペースを上げる予定でしたが、引っ越し先の施工業者の

ミスが発覚、引っ越し予定日が延期になる等のトラブルに巻き込まれております。


なので申し訳ないですが中旬くらいまでは週一ペースになります、引っ越し先での

ネット環境構築がうまく行かなければさらに遅れる可能性があります()

 その正体不明の女幽霊は、じわじわと近づいてくる。


「ガ……ザ……!」


 消えかけている手足をバタバタさせており、狂っているようだ。


 剣を構え、固まってしまったマルグレットをかばうように立った……のは良いが、

 こういう霊体アストラル系のモンスターには確か物理攻撃が効かない。

 

 その存在と特性は知ってはいたが、そういえば自分たちがこなしてきたクエストでは

 アストラル系に遭遇した事がなかった。


 ギルドの掲示板にも、それ系のクエストが貼られるのはめったに無かった。

 幽霊なんて誰でも知ってる知名度の割には、レア度が高いのか……という印象だ。

 

「とりあえず、【水と成る】でまずは実体化させるか?」


 と手を伸ばしかけたところ、肩を後ろからつかまれた。

 そしてずいっと前に出てきたのは、ギルドマスター(現荷物持ち)ウルリーカだった。

 

「こういうのはわたしの専門さね……忘れたのかい?

 

 わたしは元々、神官戦士だったんだよ。除霊魔法は習得済みさ」


 忘れてた。 

 ギルドマスター、もしくは『物理が強いお姉さん』の印象ばかりあったが、確かに

 勇者パーティにいたころは神官戦士だったと聞いている。


 なるほど神官系なら、除霊は専門だろう。


「じゃ、任せます」


「おう!」


 俺が引っ込むと、二言三言の詠唱とともに、ウルリーカは両拳を光らせた。

 そして「シ! シ!」という妙な発声をしながら、宙に拳を交互に突き出し始める。

 その様は拳闘家となんら変わりない。


 ……やっぱり、物理が強いお姉さんなのでは。


 などと思ったところで、ウルリーカが女幽霊に右拳を突き付けた。

 

「めったに現れない霊体系とるのは久々だけど……


 さび付いてないところを見せてやるよ。秒で終わらせようじゃないか」


 そのとたん、女幽霊は両手を真上に上げてゆらゆら揺らめきだした。

 新たな攻撃態勢か、それとも……


「命乞いかい? あいにく、あんたの命はもう終わってんだよ、


 だからさっさと……天に召されなあ!」


 ウルリーカが叫び、女幽霊に突撃……しようとしたところで、

 その前に両手を広げて立ったのは、ベリトだった。


「うおっと!?」


 突き出しかけていた拳を引っ込め、ウルリーカが急制動をかけて止まった。

 ベリトまで何かの魔法をかけられてしまったのかと思ったが、ベリトは

 頭をふるふるさせながらぼそりと言った。


「……この幽霊、思念体カーリンだよ」

 

 


「うっひゃー! 危うく死ぬところだったっしょ!


 まあ思念体なんで、ほんとに死ぬわけじゃないけども!」


 俺の手のひらの上で、スライム化した思念体カーリンが元気そうに声を張り上げている。


 あのあと、【水と成る】でいったん女幽霊をスライム化させたのだ。

 その正体は思念体カーリン。

 カーリンの体を乗っ取った魔族の王が、途中に残された思念体の存在に気づき、

 何らかの魔法で消滅させようとしたらしい。


「かろうじて消滅は回避したものの、もうボロボロ!


 まともに声も上げられない、幽霊みたいな状態になって!


 なんとか君らと意思疎通をしようとしたところ、


 あやうく除霊されかけた……というわけ!」


 思念体もアストラル体と近しい存在なので、あのままウルリーカの光る拳で

 殴られていたら、その存在は散らされてしまうところだったという。


 そうでなくともいずれ時間が経てば、消滅は免れなかったが

 俺がスライムの体を与えて、どうにか存在を保てる状態になった。


 ベリトの気づきと説明がなければ、俺たちはあやうく魔の地の案内人を

 消し飛ばすところだったのだ。

 

「いやー命の恩人だね。お礼にあたしが極めた魔法の一つを何でも教えてあげよう、


 この戦いが終わった後……ってこれはあまり良くない宣言フラグかな」


 スライムカーリンはふるふると震えながら、良く分からないことを言った。 

 ベリトは饒舌モードにはならなかったものの、興奮したおももちで

 偉大な魔法使いから何を学ぶか、両の手の人差し指をこすりあわせながら、

 考え込んでいるようだ。

 

「ところで、カーリンさん。最初に俺たちに話しかけようとしたとき、


 なんでマルグレットに麻痺魔法なんてかけたんだ?」


 俺の疑問に、マルグレットがビクッと体を震わせた。

 幽霊状態のカーリンと遭遇したさい、マルグレットは突然硬直したのだ。

 俺はそれを幽霊の仕業だと思ったのだが……正体がカーリンとなると、

 その行動には疑問符がつく。


 マルグレットは今では普通に戻っているようだが、そういえば

 治癒魔法もかけてないのに元に戻れたのも疑問だな。


「んんー? そんなことしてないよ?


 こっちは魔法どころか、喋れさえしなかったんだから」


 手のひらの上で、ふるふるしながらスライムカーリンが答えた。


「じゃ、じゃあ他のモンスターの仕業ですね!」


 とマルグレット。

 もしそうなら、まだそいつは近くにいるのでは……?

 周囲を見渡すが、気配も感じ取れない。


「たぶんもう今はいない、わね。さあ、そろそろ旅を再開しないと!


 もう、日が沈みそう!」


 マルグレットがあらぬ方向へとぎくしゃくしながら進みだし、「そっちじゃないよ」と

 カーリンに言われて引き返してくる。なんだか、挙動不審だな。


「あっ。なるほど。ぴーん」


 カーリンがまた妙なことを言った。

 そして妙にひそめた声で、語りだした。


「そうそう、日が沈むと言ったけど。


 夜のラムエルダスは、また違った意味で魔の地になるの……知ってるかな」


「なんだい、違った意味って?」


 ウルリーカが首を傾げた。


「ここ、夜になると、星も見えなければ月も見えないんだ。

 

 だから日が沈めば、完全に周囲は闇になる。


 それはもう、鼻をつままれても分からない、とはこのことさ。


 するとね……そこかしこから、出てくるんだ。ぞろぞろ、ぞろぞろ、とね……」 


「でで出てくるって、ななななにがです!?」


 マルグレットが俺の腕にしがみつきながら叫んだ。

 カーリンがさらに声のトーンを落として、静かに答える。

 太陽が地平線の向こうに達し、周囲に少しずつ夕闇がたれこみはじめていた。


「もちろん、ぼんやりと青白く光る、死者の魂さ……!」


 カーリンの語りに、マルグレットは無言でしがみつく力を強めてきた。

 寒いんだろうか。砂漠の夜は冷えるというが。


「君たちは、幽霊の話はよく聞くけど、あまり遭遇した事はないんじゃないかな?


 それは、この魔の地に、幽霊のたぐいを引き寄せる力があるんだ。


 鉄を引き寄せる磁石のようにね……そして集まった幽霊たちは身を寄せ、合体し、


 その怨念や恨みはより強くなっていく。そんな彼らは常に周囲にいるんだ。


 太陽があるうちは出て来ないが、いったん沈めば……

 

 ほら、マルグレットのうしろにも!!!!!」


「いやああああああ!!」


 聞いた事のない悲鳴を上げ、マルグレットは俺の体に抱き着いて来た。

 あまりの突進力に思わず数歩、よろめくくらいだった。

 そのうえ、ものすごい力で抱き着いてくる。


 物理無効の俺でないと、耐えられないレベルだ……



「しかし、なるほど。


 マルグレットは、その手の存在が苦手だったのか」


 震える彼女の背中をぽんぽんと軽くたたいてやりながら、つぶやく。

 あの時はボロボロになった思念体カーリンを見て、恐怖したのだ。


 しかし、カーリンはちょっと調子に乗り過ぎだな。

 そんな意味を込めて、スライムカーリンを軽く睨む。

 カーリンは「てへぺろ」と謎の言葉を返してきた。



 ……しかし、もう日は沈んだ。

 これから、ラムエルダスの夜の時間が始まる。


 今まで遭遇してこなかった分、霊体アストラル系の敵が束になってやってくる、

 ということなのか……

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